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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第6章

6-1

「最新刊のあの終わり方は一体何なの?」

「…………」

 ある日の放課後、我がオタ研の部室にて。

 僕がゲームをしていたところ、僕の正面に座る宝船が不意にそんなことを言ってきた。声色と表情を見るに、若干怒っている様子である。

「僕に言われても……作者に言えよ」

「本当は作者に文句を言いたいところなのだけれど、いちいち手紙を送るのも面倒だからこうして代わりにあなたで我慢しているのよ」

 いや我慢するな。お前も面倒だろうが僕の方がその100倍面倒だよ。

「大体どこが気に入らなかったんだよ。あの終わり方は『銀翼の祈祷師』史上最高の終わり方だったじゃないか。そう言っている人も多かったぞ。勿論ネットでの評価だったけど」

「あなたはシルバルトちゃん派だからいいのよ。でも、ゴルディスタちゃん派にとってはあの終わり方は最悪と言っても過言ではないわ」

「それはまあ……確かにそうなのかも知れないが」

 ここで少し『銀翼の祈祷師』のあらすじを語っておこう。

 主人公であるシルバルト・クリエイトは12歳の少女である。母親と共に自然に囲まれた家に住んでいたのだが、ある日の学校からの帰り道、シルバルトは晴天より巻き起こった落雷が自宅に落ちるのを見る。

 家と母親という2つの大きなものを一気に失うシルバルト。泣き崩れる少女の前に現れたのは母親から死に別れたと伝えられていた父・ゼウスと姉であるゴルディスタ・クリエイトの姿だった。

 その2人が現れると同時に、町や森林に雷の雨が降り注ぎ始める。突如始まった世界の崩壊――それは、いつまでも何度でも争いを繰り返す人間を見限った神々によるあまりにも勝手で、あまりにも突然な終焉の宣告だった。

 ゼウスから自分は神と人間の間に生まれた子だと知らされるシルバルト。告げられた衝撃の事実に混乱する彼女の目に映ったのは崩壊を開始した世界であり、またそんな彼女の頭の中にあったのは母親の死――その2つの過酷な現実がシルバルトの中で眠っていた『神の力エクストリーム』を呼び覚ました。

 覚醒――いや、暴走にも近い力でゼウスとゴルディスタを天界へと追い払い、何とか世界の崩壊を一時的に救済したシルバルトは世界を束ねる3つの王国の内の1つ――その国が所有する魔導防衛軍『守護者ガーディアン』に入り、世界の守護に就くこととなる。

 その後、人間兵器として使用されることへの葛藤や、『守護者ガーディアン』の中の精鋭の一人で自分と同じ年齢の少年とのラブコメもあるのだが――まあ、そこは置いといて。

 『銀翼の祈祷師』での最新刊では、遂に神々と人間との最終決戦が始まる。圧倒的な神々の力によってまるで物の如く薙ぎ払われている人々を前に、シルバルトは憎しみの力で『神の力エクストリーム』を覚醒させるが、覚醒したゴルディスタとの力の差により彼女は敗北し、致命傷を負ってしまう。

 人々の死による悲哀、人々を助けられない焦燥、そして、脳裏を過ぎる母親を殺されたという憎悪――それらの感情がシルバルトに新たな力を呼び覚ました。

 『堕天フォール』――暗黒に包まれた感情によって彼女が得たのは闇の力であった。自分で自分の力を制御できないままシルバルトは暴走を繰り返し、解き放った『神の力エクストリーム』でゴルディスタを撃ち抜く――最終巻はそこで終わった。

 何とも続きが気になる終わり方なのだが、宝船が言いたいのはゴルディスタの安否ことなのだろう。自分の好きなキャラが死にそうになっているからと言って怒るとは何て勝手な奴だ。

 これは一言言ってやらなければ。

「おい」

「何よ」

「ごめんなさい、何でもないです」

 宝船の鋭い眼光を前に僕は何を言う訳でもなくゲーム画面へと視線を落とした。

 怖い怖い怖い怖い怖い。

 無理だって、こんな奴に一言物申すとか。
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