挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第5章

5-10

 宝船が生徒会室より持ってきた鍵を使って資材倉庫の施錠を解く。開け放たれた扉の奥には通常の教室の半分の広さくらいの部屋が広がっていた。縦に長く伸びた部屋の奥や壁際にはいくつもの段ボールが山積みとなっている。

「会長、あの段ボールを整理するんですか?」

「そうだよー。ついでにあの中から印刷用の紙も発掘するよー」

「印刷用の紙? 生徒会室の印刷機、紙無くなったんですか?」

「実はそうなんだよねー。それでここまで紙を取りに来ようかと思ったんだけど、場所も忘れちゃって、どうせ1人じゃ探せないだろうから、璃乃ちゃんと萩嶺君を呼んだという訳なのですよー」

 要するに1人じゃ探すの怠くてやってられないから僕達を呼んだ、と。

 遠回しながら物凄いことぶっちゃけやがったな。それとも僕の理解の仕方がひん曲がっているだけなのか。

「はあ……会長。そんな私情で萩嶺君はともかく私を使わないで下さい」

 おい。俺はいいのかよ。

「私だって忙しいんですよ?」

 嘘つけ。お前さっきまで僕と『銀翼の祈祷師』の話題で盛り上がっていただけだろうが。

「ごめんごめん。だから私も手伝うからさー」

 そう言いながら積み上げられた段ボールのもとへと歩き出す吹ノ戸先輩。

「ちょっと会長。重いですし、危ないですよ」

「平気平気。これでもね、昔は『怪力の吹ノ戸』って呼ばれていたんだから」

 得意気に腕を曲げて自身の筋肉を吹ノ戸先輩は僕達に見せ付けてくる。制服の上からだったのでよくは分からなかったが、あの細腕で『怪力の吹ノ戸』なんていう二つ名を先輩が持っていたとはとても思えない。

「という訳で早速始めよーっ。せーのっ、ふぬぬぬぬぬぬぬ……っ!」

 段ボールの山の内の1つをどうにかして持ち上げようと奮闘し始める吹ノ戸先輩。しかし、残念ながら段ボールはまるで釘で固定されているかの如くビクともしない。

「やっぱり会長には無理ですよ。私に任せて下さい、萩嶺君に運ばせますから」

「おい、さり気無く僕を使おうとするな」

「だ、大丈夫、だよ、これくらい……何とかっ、なるっ、って……!」

 依然として優しげな笑顔を浮かべたまま両腕をブルブルと震わせつつ何とかその段ボールを持ち上げる吹ノ戸先輩。

「ほ、ほらっ……持ち上がったっ、で、しょっ――」

 バサバサバサバサッ!

 吹ノ戸先輩の言葉は底が抜けた段ボールの中から落ちてきた大量の紙が落下する音によって遮られた。

「…………」

「…………」

「…………」

 固まる僕・宝船・吹ノ戸先輩の3人。数秒後、資材倉庫を包み込んでいた静寂を破ったのは吹ノ戸先輩だった。先輩は少し青ざめた表情で空になった段ボールを両手で上下に振りながら。

「わっ、わーっ、物凄く軽くなったなーっ。どうしてだろーっ……なんちゃって」

 という渾身の冗談を言ってのけたのだが。

「会長」

「ひぃっ! 璃乃ちゃんごめんっ!」

 目と鼻の先まで言い寄ってきた宝船に目を×にしてすぐさま謝罪の声を上げた。

「私言いましたよね? 会長には無理だから私が代わりに持つって」

「う、うん、そうだけど、私も何か役に立ちたくて――」

「結局更に散らかっちゃってますけどどうするんですか?」

「ううっ、で、でも、これって印刷用の紙だよ? 見つかってよかったね――」

「会長」

「ひゃうっ! だからごめんって璃乃ちゃん!」

 宝船に壁際まで追い詰められてしまう吹ノ戸先輩。

 リアルの女子に対してこんな感情を抱くのはどうかしているとは思うが、それを承知の上であえて言わせてもらう。

 吹ノ戸先輩萌え。

「はあ……全く。ほら、萩嶺君? 気持ち悪い顔していないで早く散らかった紙を片付けるわよ」

「えっ!? 表情に出てた!?」

「……何を言っているのか分からないけれど、表情に出るも何もあなたの顔は普段から気持ち悪いじゃない」

「酷い!」

 でも表情に出ていなくて本当に良かった。

「分かったよ……手伝えばいいんだろ、手伝えば」

「ううっ……ごめんね、萩嶺君」

「いいんですよ、吹ノ戸先輩。誰にだって失敗はありますから」

 言いながらその場にしゃがみ込んだ僕は散乱した印刷用紙を拾い集め始める。

「あれ? 直斗?」

 そんな時だった。後方から聞き慣れた声が聞こえてきたのは。

 振り返ってみれば、そこには空手着姿の彩楓の姿があった。水筒を片手に資材倉庫の入り口からこちらを覗いている。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ