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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第5章

5-9

「そうだったの、それは残念ね」

「残念? 何お前、僕にスカートの中を覗かれたいっていう思惑でもあったの? 変態かよ」

「……階段を上る時、人の前を歩いているとその人のことを支配しているような気分になるわよね」

「は?」

「だって、その人よりも上にいるということはその人のことを押せるということじゃない?」

「お前! 一体僕に何をするつもりだ!」

 念のため右足で踏ん張り宝船からの未知の攻撃に備える僕。丁度現在位置は階段と階段の間にある踊り場の直前であった。こんな所から、落とされてしまっては一溜りもない。

「今の私の『残念』はあなたを通報することが出来なくて残念だったという意味の『残念』よ」

「そんなことを考えているお前の方が僕は残念に思うよ」

 そして、そんな会話をしている内に僕達は部室棟の4階に辿り着いた。廊下に僕と宝船の足音が響く――それほどまでに4階の廊下は閑散としていた。まあ、現在は他の部活はほとんど外に出払ってしまっているので仕方のないことなのだが。

「失礼します」

 生徒会室の前に辿り着き、宝船がノックの後にそう声を上げる。すると、扉の向こうから「どうぞー」という声が返ってきた。

 宝船が扉を開ける。ガラガラガラという音の後に見えてきた部屋には5つの机が置かれていた。学校で使われているような木製のものではなく、会社とかにあるような鉄製の少し豪華なものが5つ――その内の4つは2つずつ向かい合うように置かれていて、残りの1つは入り口と向かい合うように置かれている。

 こちら側に向いているその机の上には『生徒会長』という名札が置かれていた。そして、僕達が生徒会室に入ると同時にその机から立ち上がった女子生徒が1人――この人がおそらくは。

「おっ、私の指示通り萩嶺君もちゃんと連れてきてくれたみたいだねー」

 優しく微笑んで、その女性はその机からこちらへと歩いてきた。僕達の前で立ち止まったその人は、僕に向かって手を伸ばしながら自己紹介をした。

「初めまして、萩嶺直斗君。私はこの珠玖泉高校の生徒会長、吹ノ戸ふきのとふみです。よろしくね」

「は、初めまして……えっと、萩嶺直斗です。よろしく、です」

 おずおずと差し出された手を僕は握り返した。実は生徒会長の性別すら知らなかった僕なのだが、生徒会長故に3年生だということは知っていたので、とりあえず敬語で言葉を返す。

「ていうか……その、会長と僕は本当に初対面なんですよね?」

「会長とか固いなー。吹ノ戸でいいよ、吹ノ戸で」

 おいこら人の話聞けよ。

「えっと……それじゃあ、吹ノ戸先輩、で。吹ノ戸先輩は、僕と初対面ですよね?」

「そうだよー」

 語尾を伸ばした返事。何だかふんわりとした人だ。本当に生徒会長なのか疑わしくなるほどの緩さ具合である。

「なら、どうして僕の名前を?」

「それは生徒会長だからねー。全生徒の名前くらい知ってて当然だよー」

「は、はあ……」

 本当だろうか。そのゆるゆるとした感じからどこまでが冗談でどこまでが本当なのか分からない。

「それで会長、資材倉庫の整理は」

「あっ、あー、そうだったねー。流石は璃乃ちゃん、よく憶えてるねー。私は忘れてたよー」

 おい、お前が僕達に命じた指示だろうが。忘れんな。

「会長忘れないで下さい。会長が私達に命じた指示じゃないですか」

 あっ、宝船と意見が被った。

「だよねー、ごめんごめん。それじゃあ、早速行こうかー」

「はあ……会長は全く」

「だからごめんってー……それでさ、璃乃ちゃん」

「何です?」

「資材倉庫ってどこだっけ?」

「会長! それはないですよ!」

 …………。

 大丈夫だろうか。

 今回の資材倉庫整理も、この学校の行く末も。

 色々と心配になってきた。


 ◆ ◆ ◆


 宝船の案内により吹ノ戸先輩を含めた僕達3人は資材倉庫――ちなみに場所は3階の最奥、もとい、生徒会室の真下――にやってきた。

「会長、資材倉庫は生徒会室の真下ですので、今後忘れないように」

「りょーかーい」

 相変わらずののほほんとした返事。僕は確信する。この人は絶対にまた場所を忘れると。
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