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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第5章

5-8

 ちなみに、3chというのは略称で、正式には『3チャンネル』という名前が正しい。『3チャンネル』とは、ネット上の電子掲示板の集合体のことを指し、決してテレビのチャンネルのことではない。その掲示板での話題はアニメやゲームなどに限らず、芸能人やスポーツ、料理や他愛のないネタを中心とした話題など、様々なものが存在する。

 単純に何かの情報を得るためにこの3chを使用するのならば良いのだが、中には1日中この3chに入り浸り、様々な掲示板に行ってはそこに書き込みをしているという人物も存在する。別に、それはその人の生き方であり、僕も特に何も思わないのだが、世間体はそうではない。中には3chを利用しているだけで、オタクだのネット依存症だのと利用者を罵ってくる人もいる。

 こうしたことから、3chを利用しているという事実は明るみに出ない方がいい――というのが暗黙の了解となっている。ただでさえオタクである宝船がこの3chを利用しているという事実に僕が驚いたのもそのためだ。

「お前って……何かこう、意外とディープなところまで足を突っ込んでいるんだな」

「まさかこんなことまであなたに知られてしまうなんてね……これはもうあなたを殺して私は生きるしかないわね」

「お前は死なねえのかよ」

 こういう時って僕と一緒に心中するのが一般的ではないだろうか。いや、心中の仕方に一般的も何もないだろうが。

「はあ……まあいいわ。今回の一件に免じて、先程の私の発言はなかったことにして上げましょう」

「何でお前の方が上から目線なんだよ。お前にしかメリットがないじゃねえか。お前がさっさとなかったことにしたいだけだろ」

「そんなことは――あ、メールだわ」

「おいこら、話を逸らそうとするな」

「残念ながらこれは本当よ」

 言って、得意気な表情を浮かべてスマートフォンの画面を見せてくる宝船。そこには確かに『新着メール一件』という文字が表示されていた。

 てか、そんなことよりも何だあの得意気な顔。殴りたい。

「これは……会長からのメールね」

「会長って生徒会長のことか?」

「ええ、そう。何かしら?」

 スマートフォンを弄り始める宝船。生徒会長からのメールを読もうとしているのだろう。何か生徒会役員としての仕事でも送られてきたか――まあ、何にしても僕に関係の無いことであるのは確かである。

「……ゲームでもしてよ」

 呟いて、僕が鞄からゲーム機を取り出そうとした時であった。

「萩嶺君」

 スマートフォンをスカートのポケットに仕舞い、パイプ椅子からゆっくりと立ち上がった宝船が僕に向かってこう言ったのだ。

「ちょっと、私と一緒に来てくれるかしら」


 ◆ ◆ ◆


 宝船の話によれば、生徒会長から資材倉庫の整理をするので少し手を貸して欲しい――というのが、先程のメールの内容だったらしい。最初は宝船の判断で僕を倉庫の整理に駆り出したのかと思ったが、メールには僕と宝船の2人で来るようにと指示されていたようだ。そのメールの文面を見せてもらえなかったので、それが本当か否かは分からなかったけれど。

 どちらにしても、どうして僕が生徒会の仕事を手伝わなければならないのだ。

 そんな不満を抱きながら僕は今部室棟の階段を宝船と共に上っていた。これは余談だが、生徒会室は部室棟の最上階にあたる4階――その最奥に存在する。1階の最奥に位置する我が部室とは対極の位置に存在するその場所に向かうべく僕は渋々足を動かす。

「……まあ、断ったら後で何をされるか分かったものじゃないからな」

「何か言った?」

 前を歩く宝船がそう問いかけてくる。結構小声で呟いたはずだったのだが――こいつ、案外地獄耳だな。気を付けておこう。

「いや、何でもない。独り言だ」

「そう? それならいいけれど……ところで萩嶺君」

「何だ?」

「ひょっとして、私の後ろを歩いているのは階段を上る際に私のスカートを中を覗こうという魂胆があるからじゃないでしょうね?」

「何を急に変な疑いをかけてるんだよお前は! そんな魂胆はない!」

 びっくりした、いやマジで。

 だってこいつ急に冤罪吹っ掛けてくるんだもん。

 きっと痴漢に間違われた男の気持ちってこんなものなんだろうなあ……初めて知ったよ。出来れば死ぬまで知りたくなかった感情だけど。
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