5-7
僕はこのシルバルト派だ。そんな派閥は公式的に存在しないが、ファンの間では2つの派閥が出来上がっている。一つは僕も所属しているシルバルト派、そして、もう一つはおそらく宝船が所属しているであろうゴルディスタ派である。
ゴルディスタ・クリエイトは『銀翼の祈祷師』のもう一人のヒロインである。その名前からして分かるとは思うが、ゴルディスタはシルバルトの親族であり、姉である。よって、ゴルディスタも父・ゼウスの力を受け継いでおり、シルバルトと同じで天候を操る力を持つ。『神の力』を発動させた際にはシルバルトと対となる金色の翼を模したエネルギー体を自身の背中に創造し、覚醒する。
このまま『銀翼の祈祷師』のあらすじを語りたいところだが、今はそれどころではないので止めておく。まさかこんなところでゴルディスタ派に出会うとは……世界とは、案外狭いものなのかも知れない。
「確かにゴルディスタちゃんも可愛いがシルバルトちゃんの方がどう考えても可愛いだろ。お前は今まで『銀翼の祈祷師』をどう読んできたんだ」
「あなたの方こそ今まで『銀翼の祈祷師』を逆様にして読んでいたのではないの? 私もシルバルトちゃんが可愛いことは認めるわ。でも、ゴルディスタちゃんの可愛さには敵わないわね」
「銀髪に碧眼に黒い巫女装束が神だろうが」
「こっちだって、金髪に紅い瞳に白い巫女装束が神じゃないの」
「何だと? シルバルトちゃんの覚醒時の必殺技、『白銀の聖弓』で撃ち抜くぞお前」
「あなたこそ、ゴルディスタたんの覚醒時の必殺技、『金色の尖槍』で貫くわよ」
「……お前、今ゴルディスタちゃんのことをゴルディスタ『たん』って言ったか?」
「ああっ、しまっ…………い、言っていないわ」
顔を真っ赤にして僕から顔を背ける宝船。嘘つけ、お前今絶対言っただろ。
「お前、好きなキャラクターのことを『たん』付けで呼んでいるんだな」
「だから呼んでいないと言っているでしょう」
「まあまあ。僕もその気持ち分かるぞ。本当に好きなキャラって、『たん』付けで呼んでしまうことあるよな、うんうん」
「今すぐ先程のことを忘れるか、それともバールのようなもので頭を殴られて強制的に記憶を飛ばされるかどちらかを選びなさい」
「ごめんなさい、少し調子に乗り過ぎました」
しまった。からかい過ぎた。
若干宝船の声が低くなっているような気がする――怖い。純然たる恐怖を感じる。あの声色は半分本気なのではないだろうか。てか、ツッコむのが遅れたけどバールのようなものって何だよ。
「ま、まあ、ゴルディスタちゃんも可愛いよな。そんな呼び方をしたくなるのも分かるというものだよ。シルバルトちゃんの方が可愛いけど」
「だからそのことを蒸し返さないで頂戴。それから、最後の一言が余計よ。『銀翼の祈祷師』で――いえ、世界で一番可愛いのはゴルディスタちゃんよ」
「世界って」
範囲広すぎだろ。
流石に僕でもそんなことは言えない――何故なら、『銀翼の祈祷師』以外にも可愛いキャラはいくらでもいるからである。だがしかし、『銀翼の祈祷師』においての究極的に可愛いキャラはシルバルトちゃんだ。それだけは譲れない。
「しかし、あれだな。3chとか見ててこういう派閥同士の不毛な争いを今まで馬鹿らしいとか思っていたけど、全然不毛な争いなんかじゃないな。全面戦争だな」
「当たり前じゃない。3chでのああいう会話だって、端から見ればどうでもいいものかも知れないけれど、実際は今みたいに真剣なものなのだから、馬鹿にするのはどうかと思うわ」
「そうだな……って、お前も3chとか見てるの?」
「……み、見ていないわ」
「…………」
見てるな。こいつは絶対に見ている。
「だっ、大体何なのよあなたはさっきから! 誘導尋問とか止めてくれないかしら!?」
「逆ギレされた!?」
僕を指差して頬を赤らめたまま宝船はそう声を上げる。勝手に自分から失敗繰り返してるのはそっちじゃないですか!
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