5-6
「で? お前は朝から何読んでんの? 『銀翼の祈祷師』か?」
「当たり前じゃない。今の私が他に何を読むと言うの?」
「よく教室でラノベなんか読めるな。自分のオタク趣味を他人には隠しておきたいんじゃなかったのかよ」
「表紙はブックカバーで隠しているから大丈夫だし、挿絵は前のページに薄らと透けて見えるから回避するのは簡単だし、その辺に気を付けておけば教室でライトノベルを読むくらい可能よ」
「まあ、お前が良いなら僕は構わないけどな」
「ひょっとして私を心配してくれたの?」
「そんな訳ないだろ。言葉の内側に秘められた意味を飛躍させるな」
「そう、それは残念」
さて――と今読んでいるページに栞を挟んだ宝船は本を閉じるとこちらに向き直った。
「それでは、『銀翼の祈祷師』を話題に盛り上がりましょうか」
「えっ、それマジでやるの?」
「当たり前じゃない」
僕の問いに即答する宝船。心なしか、彼女の目はキラキラと歓喜の気持ちで輝いているように見えた。
「言っておくけれどね、私は今日のこの時間が楽しみすぎて昨日から寝ていないのよ」
「えっ」
「嘘だけど」
「嘘かよ!」
少しでも今の宝船の言葉を信じてしまった数秒前の自分を殴りたい……!
「何でそんな嘘つくんだよ!」
「そういうことを言えば同情を誘えるかなって」
「そうか。同情はしてやるから僕もう帰っていいか?」
「ごめんなさい、私が悪かったわ」
頭を下げて謝ってくる宝船。こいつ、どんだけ『銀翼の祈祷師』の話題で盛り上がりたいんだよ。
「はあ……分かったよ、分かった」
溜息をつき僕は降参する。何か、最近宝船のペースに呑まれているような気がするが……それは気のせいだと思いたい。
鞄をテーブルの上に置き、僕は宝船と向かい合う形でパイプ椅子に腰を下ろした。
「で? 何から話すんだ?」
「とりあえずヒロインがどうしてあんなに可愛いのか、そこから言及していくことにしましょう」
「うわっ、何その話題キモッ」
「キモいって言われた!?」
宝船からツッコミを受けた。彼女のツッコミというのは中々珍しいような気がする。
「ちょっ、ど、どうしてキモいのよ。意味が分からないわ」
「いや、ごめん。普段のお前とのギャップが激しすぎてつい」
「そ、それは悪かったわね。私だって、アニメを観ていて神作画だったらテンションが上がったり、ラノベを読んでいてヒロインが可愛かったらニヤニヤしたりするのよ」
ぼ、僕の中の宝船のイメージが崩落していく……!
まさか宝船の口から『神作画』という単語を聞くなんて。
「お、お前も僕とあまり変わらないんだな。安心したよ」
「え? 私が萩嶺君とあまり変わらない? 冗談は止めて頂戴。私に失礼じゃない。名誉棄損で訴えさせてもらうわ」
「何それ酷くね!?」
僕は本当のことを言っただけなのに……。
「……まあいいや。とりあえず、『銀翼の祈祷師』の話題で盛り上がるか。えっと、何だっけ? ヒロインの可愛さについて言及するんだっけ?」
「そうよ」
「了解。ヒロインと言えば、あの銀髪に黒い巫女装束ってのは神だよな。碧眼も良い感じで――」
「は? あなたは一体全体何を言っているの?」
僕のヒロインに対する称賛の言葉は宝船のその威圧感ある言葉に遮られた。
「ひょっとして、あなたシルバルトちゃん派なの?」
「……そういうお前は、どうやらゴルディスタ派みたいだな」
シルバルト・クリエイトは『銀翼の祈祷師』の主人公、兼ヒロインの一人である。肩の辺りまである銀髪に碧眼、衣服は上から下まで黒い巫女装束を着用している。天空神ゼウスの血縁で、天候を操る力を持ち、その父から受け継いだ『神の力』を発動させた際には銀色の翼を模したエネルギー体を背中に創造し、自身の力を覚醒させる。
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