5-4
てか、漢字の小テストでカンニングって。どんだけ必死なんだよ。
期末試験とかならともかく。いや、期末試験でもカンニングは駄目絶対だけど。
「とにかくカンニングはなし。1時間目までに出来るだけ漢字を覚えろ。それから僕の漢字帳返せ」
「……あーい」
渋々こちらに漢字帳を返してくる彩楓。それから朝のホームルームが始まり、1時間目が始まるまで後ろから延々と彩楓の呻り声は続いていた。
彩楓の漢字テストの結果は言うまでもあるまい。
◆ ◆ ◆
「おっひるやっすみだーっ♪」
彩楓のややテンション高めの声。その言葉の通り今は昼休みなのだが、彩楓も他の皆も昼休みというだけでよくもまあ賑わうほどにテンションが上げられるものである。
そう言っている僕も昼休みはゲームができるので心の中で静かに盛り上がっているのだが。
「という訳で直斗! 食堂行こう!」
「行かねえよ」
「即答!? この前は一緒に行ってくれたじゃーん」
「この前はお前に半ば強引に連れて行かれただけだ」
「それじゃあ今回もそうしていい?」
「良い訳ないだろ」
「でもさ――」
「さーやかーっ」
彩楓の声を遮って聞こえてきたのは彼女の友達の声だった。教室の後ろの方の出入り口でこちらに向かって(勿論彩楓に向かって)手を振っている――確か、よく彩楓と話していたのでこいつの友達のはずである。名前は……何だったっけな、忘れた。
「一緒に食堂行かなーいっ?」
「あーうーん! ちょっと待ってーっ!」
友達にそう返答し、彩楓はこちらを振り返ってくる。何をしているのか……別に僕のことを気にする必要なんてない。
「行けよ」
僕は鞄からゲームを取り出しつつ、彩楓に言う。
「僕のことなら心配するな。僕のことを心配してくれるのは嬉しいけど、お前にはお前の人付き合いがあるだろ」
「……でも」
「いいから、行けよ」
ゲーム機の電源を入れる――見慣れたゲームタイトルが液晶画面に表示された。
「僕なら、大丈夫だから」
「……ありがと、直斗。いってくるね」
僕に小さく微笑んで、彩楓は小走りでその友達のもとへと向かって行った。
「……大丈夫、か」
僕は自分で言った言葉を復唱する。
大丈夫も何も、僕はこの状況に対して苦しいとも、辛いとも、何とも思っていない。
一体僕は何に対して大丈夫だと言ったのだろうか。
……馬鹿馬鹿しい。
考えるだけ無駄だ、そんなこと。
「隣、いいかしら?」
不意に聞こえた声に顔を上げてみれば目の前にいたのは宝船だった。その問いに僕が答える前に彼女は僕の前の席に腰を下ろす。
「失礼、隣ではなくて前の席だったわね」
「……何か用か?」
「別に? 私はあなたと一緒にお弁当を食べようとしているだけよ」
言いながら宝船は僕の机の上に風呂敷に包まれた弁当箱を置く。
「いいのかよ。僕なんかと一緒に弁当を食べて」
「どうってことないでしょう。私はただクラスメイトと交流を深めているだけよ。それとも、それは私があなたとお昼を共にすることで私の評判に傷がつく――という感じの遠回しな自虐ネタなのかしら」
「違うわ」
「それに、『ああいう類の会話』をしている訳でもないしね」
「『ああいう類の会話』……ああ、そういうこと」
宝船の言う『ああいう類の会話』とはオタク趣味を話題に会話をする――ということなのだろう。
「あなたは? お弁当?」
「いいや、僕はコンビニで昼飯買ってるから」
「あら、そうなの。幼馴染の躑躅森さんからはお弁当を作ってもらえないの?」
「仮にそれが実現したとしても僕はそのお弁当を食べたくないな」
「ひょっとして、躑躅森さん料理苦手?」
「ああ、壊滅的にな。食べると殲滅されるぞ、主に胃がな」
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