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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第4章

4-7

「私がこんな格好をしているのは勿論銀行強盗のためではないわ。『アニメテオ』に行くためよ」

「『アニメテオ』って……またそんな格好で行くのか?」

「完璧な変装でしょ?」

「間抜けな仮装にしか見えない」

「またまた冗談を」

「いや、冗談なんかじゃなくてだな」

「……ひょっとして」

 腕を組んで考えるような仕草を見せた宝船はサングラスにマスクをした顔を僕に向けてこう言った。

「私の格好って……物凄く変?」

「漸く気付いたか」

「……ふっ、ま、まあ、薄々勘付いてはいたけどね」

「嘘をつくな。それならどうして前回も今回も同じ格好をしているんだ」

「萩嶺君ちょっと黙って」

「現実逃避はよくないぞ」

「これは現実逃避なんかじゃないわ。見たくないものをあえて見ていないだけ」

「それを現実逃避って言うんだよ、一般的には」

 こいつ、余程自分の変装に自信があったらしい。

 どこをどう見たらこの格好が完璧な変装に見えるのだろう。確かに正体が誰なのか分からないかも知れないが、凄まじく怪しげな格好のため周囲からの視線を惹き付けて止まないだろうに。

「おかしいわね……私の計算ではこの変装は完璧だったはず」

 何やらぶつぶつとそんなことを呟いている宝船。こいつ、まだ言うか。

 これ以上ここでこいつのまるで駄目な変装について語っていても無駄に時間を食いそうだったので、誠に遺憾だが僕から話の流れを戻すことにした。

「……それで? 態々僕と一緒に『アニメテオ』に行く理由は何だ?」

「え? ああ、理由ね。あなたには、前回と同じことがないように周りにこの珠玖泉高校に通う学生がいないか監視していて欲しいの」

「なるほどね。帰っていいか?」

「駄目に決まっているじゃない」

「何で僕がお前のために周囲を監視しなきゃいけないんだよ。お前の変装はおかしいけど誰か分からないから大丈夫だし、問題ねえよ」

「そう、そのためにもあなたが必要なの。私の変装はどうやら他の人から見たら変みたいだから、あなたが一緒にいることで、『アニメテオ』で私が不審者扱いされることを防ぐのよ。不審者は誰かと一緒に行動するなんてことは少ないだろうし、例え私がそういう風に扱われても、あなたが弁解してくれれば万事解決でしょう?」

「まあ、一理あるが」

「でも、あなたが不審者扱いされてしまったら意味ないのだけれどね」

「一言多いぞ」

 珠玖泉高校の制服を着ていながら隣にお前みたいな変な格好をしている人間がいるのに、それでも不審者扱いされる僕って何なんだよ一体。僕どんだけ怪しいの。

「さて……そろそろ最終下校時刻になってしまうわね。今更変装を変えることはできないし、行きましょうか」

「……そうだな」

 溜息交じりに僕は応答する。

 どうせここで断っても宝船は引いてくれないだろう。

 それなら、これ以上時間を潰さずに彼女の要求を呑んだ方が良いというものである。


 ◆ ◆ ◆


 早速だが前言撤回。

 宝船の要求なんか呑むんじゃなかった。

 学校から『アニメテオ』までは確かに歩いて行けるほどに近いのだが、勿論少なからず距離はある訳で――その道程をこんな変な格好をしている人間を隣に置いて僕は歩き切った――のだが。

 周囲の人からの怪訝な眼差し。

 それによって僕の中に溜まっていく羞恥心。

 『アニメテオ』に到着する頃には僕は精神的に死にそうになっていた。

 コミュ障の人間にとって、無駄に視線を浴びることがどれだけ辛いことか――それはきっとコミュ障の人間にしか分からない。

 ヤバい、吐きそう。

「萩嶺君? 何だか顔色悪いけれど、大丈夫?」

 隣から依然として怪しげな変装を身に纏った宝船が問いかけてくる。誰のせいだと思っているんだよ。

「……問題ない、大丈夫だ」

「そう? それならいいけれど」
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