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宝船はこんな所に僕を呼び出して何がしたいのか――そう疑問に思っていると、不意に僕のポケットの中でスマホが着信音を放った。震えるその機体をポケットから取り出す僕。最初は宝船からの電話かと思ったが、そもそも彼女とは連絡先を交換していないし、僕のスマホに電話をかけてくる相手と言えばそもそも1人しかいなかった。
「もしもし? どうした彩楓」
『あっ、直斗? 今日は部活の居残りが無さそうだからさ、一緒に帰ろうかな、って』
「……あー」
思わず「いいぞ」と頷きそうになり僕は改めて頭の中で別の応答を構築する。
「ごめん、彩楓。今日は僕の方が一緒に帰れそうにない」
『え? 何で? 直斗のことだから友達と一緒に帰る訳じゃないよね?』
おいこらそれどういう意味だ。
「と、とにかく、今日は一緒に帰れないんだよ。悪いな」
『そうなんだ……ううん、別に気にしてないからいいよ。あたしは部活の友達と帰るから』
その返答は態となのか、それとも態とと思ってしまうほどに僕が捻くれているだけなのか。
『それじゃあ、また夜にね、直斗』
「ああ、それじゃあな」
『うん、また』
彩楓との通話を終えて僕はスマホをポケットに仕舞う。
「お待たせ、萩嶺君」
すると、後ろからそんな声が聞こえてきた。その声と言葉の内容からして宝船だろう。
「おう――って誰だよお前!」
後ろを振り返ってみれば、そこにはいつか見た黒い帽子に黒いサングラス、そして足元まである黒いコートを着て、顔に白いマスクを装着している謎の人物の姿があった。
「失礼ね、私よ、私」
「残念だが俺の知り合いにお前みたいな見るからに不審者的な格好をしている人物はいない」
「知り合いって、そこまで語れるほどあなたに知り合いなんていたっけ?」
ごもっとも。
「てか、何でお前が僕の知り合い事情を知っているんだよ」
「普段のあなたを見ていれば分かるわよ。言ったでしょ? あなたを観察していたって。あなたが本当にオタクであることを確かめるためにはあなたのことをよく観察するしかなかったからね」
「そうかよ。で? そんな格好をして今からどうするんだ?」
「決まっているじゃない。私がこんな格好をしている目的はただ1つ」
「銀行強盗か?」
「……萩嶺君の頭の中って脳ミソ入ってるのよね?」
「入ってるよ! 入っているからこそこうして僕はお前と会話できている訳で!」
「そうなの? それにしては頭の悪い受け答えしかしてこないわね」
「お前、遠回しに僕のことをバカだって言っているだろ」
「心外ね。私はそんなこと一言も言っていないじゃない。心の中ではそう思っているけれど」
「心の中でそう思っている時点で口に出さなくても同じだよ! それは!」
てか、どうして僕こんなに罵られているんだ?
僕何か悪いことでもしたっけ?
「まあ、萩嶺君の頭に脳ミソが入っているか否かは置いといて」
「いや置くな。今ここで決着を着ける」
「私、あなたの頭の中に脳ミソが入っているとかお味噌が入っているとかどっちでもいいの」
「流石に味噌は入ってねえよ」
「そうなの? どちらかと言うとお味噌の方が有力候補だと思っていたのだけれど」
「お前僕のことを何だと思っているんだよ!」
「それはそうと」
「おい! 話を逸らすな!」
しかし、僕の言葉を華麗にスルーしながら宝船は話を続ける。
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