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「そ、それで? お前のオタクであるというカミングアウトが一体全体この部活とどんな因果関係があるって言うんだ?」
「……本当に察しが悪いのね、あなたは」
呆れたようにそう言って宝船がこちらを見てくる。僕はそれに対して何も答えずに、ただ視線を逸らした。
「この部活が4月の中旬に設立されてもうそろそろ2か月――その期間を経て、この部活の現状を見れば、察しの悪いあなたも流石に気付いているとは思うけれど、この学校にはオタクが少ないの」
「……まあ、そうだろうな。これだけ大々的に部活の名前に『オタク』という文字が入っていて、オタク的趣味を生業としている奴がこの部活に興味を示さない訳がない」
せめて部活を見物に来てもいいはずなんだ。
しかし、それが一切ないということは――。
「そう、だからこの学校にオタクは私とあなた以外にいないのかも知れない。もしかしたら、私のようにオタクであることを隠して学校生活を送っているのかも知れないけれどね」
「なるほどね、何となく分かったよ、お前の言いたいことが。オタクの少ないこの学校で、僕にオタク趣味をカミングアウトし、この部室にまで来た理由――お前、僕と友達に」
「いや、それは違うわ」
「違うのかよ」
言い切る前に否定してきやがった。
何なんだこいつ、どんだけ僕と友達になりたくないんだよ。傷付くぞ。
「別にあなたと友達になりたい訳じゃないの。これは本当のこと。天地が引っ繰り返っても変わらない事実よ」
「そこまで否定するな。死にたくなってくるだろ」
「葬式には出て上げるわ」
「それは死ぬことを推奨されているんですかね!?」
普通は目の前に死にそうな人間がいたら止めると思うんだけどなあ……。
「私は別にあなたと友達になるためにこうしてオタク趣味を告白した訳じゃないわ。今まであなたのことを観察していて分かったのだけれど、あなたって普段躑躅森さん以外と会話していないじゃない?」
「それはそうだがお前今さり気無くとんでもないこと言ったよな?」
観察って。怖い怖い怖い、怖いよ。
「だから、私はこう思ったのよ。あなたは普段から仲良くしている人物、もしくは本当に心を開ける人物としか話さないのではないか、ってね」
「人ってそういうものだろ、僕だけじゃない」
「それは確かにそうだけれど、あなたは他の人よりも心の壁が分厚そうだからね。ちょっとやそっとじゃその心を開いてくれないでしょう? 例えばそう――自分と同じ趣味の人間が現れるとか、そういうことがない限りは」
「…………」
同じ趣味の人間、ねえ。
「……残念だが、例え僕の目の前に同じ趣味の人間が現れたとしても、僕はそいつと仲良くなるつもりはないよ。僕は一人でアニメを観たり、ゲームをしたり、ラノベが読めればそれでいいからな。僕は一人で過ごすのが好きなんだ」
「それじゃあ、普段躑躅森さんと話しているのはどうして?」
「あいつは俺の幼馴染だからだ、以上」
「……そう、そういうこと」
少し考えるようにそう呟いて宝船は「まあいいわ」と更に言葉を紡いでいく。
「仮にあなたが同じ趣味の人でさえも受け入れないとしても、私のことは受け入れてくれないと困るわね」
「どうしてだよ」
「私が学校でオタク趣味を普通に話しても大丈夫な人が欲しいからよ」
「何それお前の都合以外の何物でもないじゃん」
「そうよ? 悪いかしら?」
不敵に微笑む宝船。案外自己中心的なのな、こいつって。
「それに、あなたが私の秘密を公言しないか監視することが出来るしね」
「だから僕はそんなことしないって」
「口約束は信じないタイプなの、私」
「くっ……」
どうあってもこの部室に入り浸るつもりだな、こいつ。
「私からの申し出はこうよ、萩嶺直斗君」
腕を組んでパイプ椅子に背中を預けながら宝船は言う。
「あなたが一人でアニメを観たり、ゲームをしたり、ラノベを読んだりしていることを出来るだけ邪魔しないから、その代わりに私と少しばかり話をしてくれないかしら?」
「……この部活には入部しないんだな?」
「当然よ。生徒会もあるし、何よりこの部活に入っていることが知れたら私の評判はガタ落ちしてしまうもの。今の今までオタク趣味を隠して生きてきた意味が無くなるわ」
「そうかよ。……まあ」
僕の邪魔をしないと言うのなら。
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