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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第3章

3-4

「まあ、いいけどね。作ったら直斗を押さえ付けてでもあたしの料理を食べてもらうから」

「何それ何て拷問!?」

「拷問ゆーな! とにかく、お母さんからの伝言は伝えたから……ジョギング終わったらメールするね」

「了解。それじゃあ、また後でな」

「うん、また後で」

 僕に小さく手を振って彩楓は薄暗くなり始めた住宅街の奥へと小走りで駆け出す。段々と小さくなっていくその後姿をしばらく見つめて、僕は自宅へと帰宅するのだった。


 ◆ ◆ ◆


 僕の家には僕以外の家族がいない。

 と言っても、死別したとかそういう訳ではない。僕の家族は両親と姉を合わせた4人家族であり、3人ともちゃんと健在している。両親は共働きで、家に帰ってくるのはほとんど僕が眠ってしまった深夜であり、朝起きた時には既に仕事に出かけている。姉は去年とある大学に合格し、一人暮らしを始めてしまったため、夏休み等の長期休暇にしかこの家に帰ってこない。

 そんな訳で、今この家は僕一人で住んでいるようなものなのだ。

 しかし、一人暮らしのようなことはしているものの、自炊は全く出来ないので、夕飯だけは躑躅森家にお世話になっているのが現状だ。先程、彩楓が僕に自分の家の今晩のメニューを告げていたのはそれが理由である。ちなみに、朝ご飯は適当にパンを焼いたりして空腹を満たしている。

 制服から私服に着替え終わり、リビングにて録画したアニメを視聴する。録画していた3つの内、1つを観終えて2つ目のアニメに以降しようとしたところでポケットの中でスマートフォンが震えた。

 ポケットから取り出し、着信した新着メールを開いてみればそれは彩楓からのものだった。メールを開けて文面を読む。どうやらジョギングを終えて今からシャワーを浴びるらしい。

 てか、着替えの時間とアニメ1話の時間を合わせても30分くらいしか経過していないのだが、それは。

 町内一周で何kmあると思ってるんだよ。化物かお前は。

 だが、この化物のような速さこそが彩楓クオリティなので僕は彩楓に「了解」だけの文面を返信すると、テレビの電源を切って家を出た。

 左右に延びる自宅の前の道路を右に曲がり、ものの数秒で彩楓の家に僕は辿り着く。幼馴染の家が隣同士――二次元の中では憧れる人もいるようだが、リアルの世界がそうなっているためか、僕は特にこの現状を良いとは思わない。悪いとも思わないが。

 あれだろうか、妹を持っている人と持っていない人では価値観に相違が生まれることと同じことなのだろうか。それなら納得が行くのだが。

 そんなことを考えながら躑躅森家のインターホンを押す。スピーカーからありがちな「ピンポーン」という音が聞こえてきたかと思うや否や、すぐさま彩楓の母親の声が聞こえてきた。

『はい、どちら様ですか?』

「あっ、萩嶺です」

『ああ、直斗君ね。待ってたわ、鍵は開けてあるから勝手に入っちゃってね』

「お邪魔します。鍵は閉めといた方がいいですか?」

『うーん、そうね。一応そうしておいてくれる?』

「了解です」

『ありがと。いつも通りリビングに来てね』

 そこまでの会話を終えて、彩楓の母がスピーカーから聞こえなくなる。躑躅森宅の扉を開けて、僕は中へと足を踏み入れる。

「お邪魔しまーす」

 一応礼儀として、小声で家の中に向かってそう言いながら靴を脱いで躑躅森宅の玄関に僕は足を着く。

 その瞬間、玄関からまっすぐに延びた廊下の壁にあるいくつかの扉の内の1つが開いた。長年躑躅森家に通っている僕なので、その扉がお風呂場に繋がるものだと瞬時に理解する。

 嫌な予感がした。

 そして、その嫌な予感はやはり的中することとなった。

 開いた扉の奥からはメールの文面の通り、シャワーを浴びていたであろう彩楓がびしょ濡れの体にタオルを1枚だけ巻いた格好で出てきて。

「おかーさーん! まだ牛乳ってあったっけ……ってわぁ――――――――――っ!」

 廊下に出て玄関にいる僕を確認するなり大声を上げる彩楓。羞恥心からかその顔はまるで苺のように真っ赤になっている。
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