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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第2章

2-3

「確か、オタク研究会……略して『オタ研』、だったっけ?」

「あ、ああ、うん、そうそう」

 意外だ――宝船の言葉に僕はそんな感想を抱いた。

 宝船が、僕が所属している部活を知っていることだけでも意外なのに、部活の名称を言った挙句に略称まですらすらと言ってしまうとは。

 これを『意外』以外の言葉で何と表現すればいいのか。ちなみに、これは駄洒落でも言葉遊びでも何でもないので、いちいち気にしてもらわないで構わない。スルー推奨である。

「アニメとかゲームとかライトノベルとか? そういったもので部員達と色々な繋がりを持って、社会での人間関係に備えるとかそんなところだったかな。萩嶺君があの部活申請書を持ってきた時、申請理由を読んでなるほどって思ってしまったわ」

「そ、そいつはどうも……」

 そうだ。そう言えばそうだった。

 どうしてこんな重要なことを忘れていたのか分からないが、そう言えば、宝船璃乃は生徒会役員なのであった。珠玖泉高校の生徒会役員に所属する彼女の役職は確か書記だったか。生徒会での活躍も名高く、次の副会長は宝船に決まったも同然だ――という風の噂を聞いたことがある。

「それで? その人間関係を知るための部員は獲得することは出来たの?」

「い、いや、まだ、だけど」

「そうなんだ。早く勧誘しないと、新一年生他の部活に皆取られてしまうわよ」

「わ、分かってるって。一応勧誘はしてるし」

 嘘だ。

 勧誘は全くしていない。

 第一、あんな快適な空間を僕以外の誰かに使わせるなんてとんでもないことである。

 むしろ新入部員はお断りだ。

「急いでね。設立して1年間に部員が3名以上にならなかった部活、または、何かしらの業績を挙げて1年間、何の成果も挙げられなかった部活は自動的に廃部になってしまうから」

「あ、ああ。百も承知してるよ」

 そう。この珠玖泉高校では、割と簡単に部活が作れる反面、部活の存続については特に厳しいのである。今宝船が言ったように、設立して1年以内に部員を3名以上獲得できなかった部活、または、以前の業績から1年以内に何の成果も挙げられなかった部活は自動的に廃部が決定される。

 部活に対しては非常にシビアな学校だが、僕は特にそれを問題だと思っていない。

 どちらにしろ、オタク研究会という部活は駄目元で作ろうと思ったものなのだ。駄目で元々、こんな部活なんて申請しても通る訳がない、ていうか、通る訳がない――と思っていたものが通ってしまい、設立されてしまった部活なのである。言うなれば、ある意味でオタク研究会は僕の意思に反して作られた部活なのだ。

 部員が3名以上集まらなくても、何の成果も挙げられなくてもこの部活は最低でも1年間存続する。

 1年もあれば充分だ。1年もあの部室でアニメ・ゲーム・ラノベという娯楽を堪能できるのであれば、それは僕にとって充分すぎるほどに幸せなことだ。

 1年後のことはまたその時考えればいい。

 とりあえず、僕は今が幸せならそれで構わないのである。

「それじゃあ、私は職員室に鍵を返してくるから。部員勧誘、頑張ってね」

「あ、ああ」

「何かあれば、私も一緒に手伝って上げるから」

「えっ?」

「何を意外そうな顔をしているのよ。当たり前じゃない。だって、私は萩嶺君のクラスメイトであり、萩嶺君のクラスの学級委員長であり、萩嶺君が通っている学校の生徒会役員でもあるのよ? 助けない理由なんてないわよ」

 そう言って、宝船は笑った。

 彼女は僕に微笑みかけた。

 その可憐な微笑に危うく心を射抜かれそうになるが――倒れそうになる体を僕はぐっと堪えて。

「そ、そうか……そ、それじゃあ、その時は……頼むよ」

「ええ、是非そうしてね。それじゃあまたね、萩嶺君。また明日学校で」

「あ、ああ、また明日な」

 手を振ってきた宝船に僕も手を振り返す。それから、彼女が手を振るのを止めて職員室に向かって歩き始めた後も、僕は段々と小さくなっていく宝船の後姿を眺めたまま暫くの間手を振り続けているのだった。


 ◆ ◆ ◆


 彩楓以外の女子とああやって話したのはいつ以来だろう。

 部室棟の校舎の廊下を一人歩きながら僕はそんなことを思った。
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