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オタク研究会は現在新入部員を募集していません。 作者:二三四五六七

第2章

2-1

 昼休みからあっという間に時間は流れて帰りのホームルームが終了した。全ての授業が終了し、放課後の始まりに僕のクラスメイト達は楽しげにざわついている。きっと、今から部活なり、友達と帰りにどこかに遊びに行くなり、そんな感じの話題で盛り上がっているのだろう。僕はと言えば、今から完全下校時刻まで部室に行ってアニメ・ゲーム・ラノベを堪能するのだが。

 しかしまあ、退屈な時間をどう過ごすのかは人によって違う訳で。

 僕の放課後の時間の浪費の仕方が他の人と違っていても、それは決して間違っている訳じゃないのだ。だから、放課後の時間を部活に使おうと、友達と遊ぶことに使おうと、アニメ・ゲーム・ラノベを堪能するために使おうと、それは時間の浪費の仕方が違っているだけで正しいことだ。

 放課後の時間を楽しむということ。

 その点では、今挙げた3つの事柄は全て同じことである。内容が違っているだけで、カテゴリー的には同じものだ。

「直斗も今から部活だよね?」

 僕が学校指定の鞄に教科書を詰め込んでいると彩楓の声が頭上から降ってきた。顔を上げなくてもその声が彩楓のものだと僕には分かる。それは彩楓が幼馴染で、ずっと声を聞いてきたからということもあるのだが、それ以上に僕はこのクラスに彩楓以外の友達がいないので、彩楓以外のクラスメイトから話しかけられることはないからである。

 教室における事務的な会話、例えば「萩嶺君プリント出した?」とか「萩嶺君今日から掃除当番ここだから」とか、そういった場面以外では僕が彩楓以外のクラスメイトから話しかけられることはありえない。自分で言って悲しくなってくるが、事実なので仕方がない。

 教科書を床に叩き付けたくなってくる衝動を必死に堪えて頭を上げる。すると、そこには案の定彩楓の姿があった。

「てか、あれを部活って呼んでいいのか分からないけど」

「何を言うか。あれだって立派な部活だぞ」

「本当かなあ。まあいいや。あたしも今から部活だから」

「おう。空手部、頑張れよ」

「任せといて! 今日も最終下校遅刻までいるんだよね?」

「ああ。家に帰ってもどうせ暇だからな。多分いると思う。帰る時はメールするよ」

「分かった。それじゃあ、部活終わったら一緒に帰ろうね」

「おう」

「んじゃ、部活いってきまーす」

「いってらー」

 僕に手を振って小走りで教室を後にする彩楓――の後姿を目で追っていると、彩楓と入れ違いで宝船璃乃が教室に入ってくるのが見えた。そう言えば、ホームルームが終わると同時に教室を出て行った担任を追って宝船も教室を出て行ったな。理由は分からないが、学級委員長とやらはそれなりに忙しいのだろう。

「…………」

 少し離れた自分の席に座る宝船をばれないように見る僕。いや、別に犯罪的思考や変態的思考が織り交ざった視線を宝船に送っている訳ではないから勘違いしないで欲しい。

 僕が宝船を見ているのは――今日の昼休みのことが気になったからである。僕が自意識過剰なだけかも知れないが、あの時――宝船の目は確かに僕の方へと向いていたような気がしてならないのだ。

 同じクラスだということ以外に接点の無い宝船が僕を見ていたなんて、ありえないことだと思う。それこそまさに自意識過剰なのだろう。勘違いも(はなは)だしい。

 仮に宝船が僕に対して怒りの感情を抱いていたのだとしても、心当たりはないし。あるとするなら僕がクラスでぼっちだということか。学級委員長的に、クラスで浮いている人間というのは扱い辛いのだろうか。

 しかし、ぼっちだからという理由で宝船が僕に対して怒っているのだとすればそれは理不尽だというものである。まあ、優等生の中の優等生であるところの彼女がそんな理由で人のことを怒りの感情を向ける対象なんかにしないだろうから、何度も言うように、これはきっと僕の単なる勘違いなのだろう。

 はい。これでこの話は終わりだ。

 長々と考える必要のない事柄に頭を使ってしまった。早く部室に行って趣味に没頭しつつこのモヤモヤとした感情を全て消し去ってしまわなければ。

 アニメを観れば、ゲームをすれば、ラノベを読めば、僕のストレスは大概昇華されてしまう。簡単な人間だと思われるかも知れないが、ストレスを解消できないよりはマシだと僕は思っている。
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