1-7
宝船の足音が段々と遠ざかって行く。僕が二度も討伐に失敗したRPGのラスボスを倒すべく三回目の先頭に挑もうとしていると彩楓がややテンションの上がった声で。
「宝船さんって綺麗だよねー」
と、言ってきた。
「ん? ああ、そうだな」
ラスボスに攻撃を仕掛けながら僕は曖昧な返事をする。
「……そこは普通に認めるんだね」
「不満気か。お前から話題を出してきたんだろ」
「そうだね。直斗のバカ」
「会話の中でさり気無く僕をバカ呼ばわりするな」
理由は分からないが、ここで僕がバカにされるのは理不尽だと思うのだけれど。
「でも、確かに綺麗なのは綺麗だが、それ以外にもあいつって凄いよな。勉強ができて運動もできるとか完璧超人すぎるだろ。あいつ、本当に人間か?」
「ああいう人ほど陰では努力してたりするんだよ、きっと。勉強も運動も、多分あの容姿も日々の努力から来てるんじゃないかなー」
「努力か……僕の嫌いな言葉の一つだな」
「……てか、何か凄く直斗宝船さんのことを褒めるね」
「お前だって褒めてただろ。お互い様だ」
「それはまあ……そうなんだけどさ」
こいつはさっきから何が言いたいのだろう。訳が分からん。
そんなことを思いながら僕は今一度顔を上げる。目の前にはまた唇を尖らせ、頬を膨らませた彩楓の顔。こいつは昔からそうだった。不満なことがあるとすぐこんな顔をする。可愛いと言えば可愛いのだが――。
「えっ」
そして、僕は自分の目を疑った。それは彩楓の不満気な顔が思った以上に可愛かったからとか、そんな理由では勿論ない。
不満気な顔をした彩楓の後方。
僕達が腰を下ろしているテーブルの向こう側――そこにトレイを下ろした宝船が僕を見ていた――ような気がしたのである。
「どうしたの? 直斗」
「え? あ、いや」
何でもない――と僕はゲーム画面へと視線を下ろす。
宝船が僕のことを見ていた?
ありえない。第一、どうして彼女が僕のことを見る必要があるのだ。
宝船と僕は何の接点もない。接点があるとするなら、同じクラスに所属する珠玖泉高校と生徒くらいなものである。
本当にそれくらいだ。彼女と僕と関係はそれ以上でもそれ以下でもない。
そのはずなのだが――。
「…………」
見間違いか否か、とにかく僕はその突如起こった事態に驚き、その焦燥からまたゲームの操作を怠ってしまった。
ゲームの操作ミスはRPG内での死に直結する。ラスボス戦となれば、それは尚更だ。
薄暗くなったゲーム機の液晶画面。
そこには本日三度目となる『GAMEOVER』の文字が浮かび上がっていた。
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