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「お待たせー……って、またゲームしてるし」
高校の食堂にて、僕が携帯型ゲーム機でRPGを行っていると躑躅森彩楓が溜息をつきながら、僕と同じテーブルに座った。
そんな彼女を姿を数秒目で追った僕は再びゲーム画面へと視線を戻して。
「溜息をつくと幸せが逃げていくらしいぞ」
「誰のせいだと思ってんの」
「よし、レアアイテムゲット」
「って話聞いてよ!」
そう声を荒げてまた溜息をついた彩楓は持っていたトレイをテーブルに置く。トレイの上にはカツ丼が置かれている。それも大盛りで。
カツを包む卵とどんぶりの端に盛られた黄色いたくあん、それからカツ丼全体から薄らと上がる湯気が僕の食欲を促進させていく。
「またカツ丼かよ。しかも大盛りって、女子としてどうなんだ?」
「女子だからって大盛りを食べちゃいけないって決まりはないでしょ。女子だってたくさんご飯を食べたい時だってありますし」
「僕はお前が太らないかを気にかけてやったんだけどな……まあ、お前の場合は食べた分が全部胸に行くから問題外か」
「自然とセクハラ発言すんの止めてくれない!? てか、ちゃんと筋肉とかにも行ってるし! このバカ! バカ直斗!」
自分の胸を腕で覆いながら頬を赤らめて僕を罵倒してくる彩楓。まあ、僕がセクハラ的発言をしてしまうのも無理はない。
だって、そこに胸があるのだから。
胸がある以上はセクハラ発言をするしかないだろう。
それが男というものである。違うか。
「筋肉と言えば、お前空手のインターハイ出ることが決まったんだって?」
「う、うん、そうだけど……な、何で直斗がそれ知ってんの?」
「校内では割と有名だぞ。一年生でインターハイ出るって凄いことなんだろ? 良かったな」
「そ、そっか……ふーん、だよね」
どこか彩楓の言葉に違和感を覚えた俺がゲーム画面から顔を上げた時には、既に彩楓はスプーンを使ってカツ丼を頬張っているところだった。
「うん! やっぱりここの食堂のカツ丼は美味しい!」
「お、おう……そうか」
気のせいだろうか。
先程の彩楓の言葉はどこか残念そうな声色を含んでいたのだが……。
「直斗も食べてみる?」
「いらないよ。今朝のコンビニで昼食は確保済みだからな」
「またコンビニ? 中身は……」
ガサガサという音がする。おそらくは彩楓がテーブルの上にあるコンビニのレジ袋の中を漁っているのだろう。僕はゲーム画面に視線を向けっ放しなので分からないが。
「って、やっぱりおにぎりだらけか、それから飲み物。バランス悪いなー。直斗、野菜とかちゃんと食べてる?」
「お前は俺のお母さんか」
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