| 糸井 | 
        ぼくは、どうしても「市場の側」の意識が 
          強いんですけど、 
          こと「漁業の生産の現場」については、 
          知らないことって、本当に多いんですよね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        やはり、情報が届いていないと思います。  
           
          消費者のみなさんに 
          もっと生産の現場を見て知ってもらえたら 
          いろんな発見があると思うんですが。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん、そうでしょうね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        ぼく、お手伝いで、陸前高田の漁師さんを 
          東京の居酒屋に紹介して回ったことが 
          あるんですけど、 
          自分たちの捕った魚が 
          どんなふうに店に出されているかを見ると、 
          みんな、感激するんですよ。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        そういう機会も、なかなかないんですね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        朝はやく漁へ出て、寒いなか帰ってきて、 
          市場に並べて「また、こんな値段か」と。  
           
          これまで長いこと、 
          「自分の仕事って、こんな評価なのか」 
          と思わされてきた漁師さんが 
          自分の捕った魚を 
          おいしそうに食べているお客さんを見て、 
          「60歳も過ぎて、 
           はじめて自分の仕事に誇りが持てた」 
          と言ってくれました。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        はぁー‥‥。 
  | 
      
      
          | 
        
      
        | 勝川 | 
        消費者との接点というのは、 
          生産者にとって、すごい価値を生むんです。  
           
          一方で、消費者のほうも 
          「俺が今朝、こうやって捕ってきた魚だ」 
          って説明すると、 
          ものすごく、おもしろがるんですよ。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        そうでしょうね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        居酒屋で適当に注文して出てきた魚と、 
          目の前にいる漁師さんが 
          今朝、海から捕ってきた魚とでは 
          味は同じでも 
          意味は、ぜんぜん違うじゃないですか。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん、うん。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        これまで、 
          生産者と消費者は、分断されてきました。  
           
          でも、生産現場のおもしろさを知らないのは 
          消費者にとってももったいないし、 
          漁業者も、 
          もし、自分の仕事の価値を実感できないとすれば 
          気の毒なことだと思うんです。  
           
          だから、両者の接点が 
          もっとたくさん生まれてきたら、いいなって。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        それは、やればできることなんですか? 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        やれば、できます。 
          ただ漁業者って、けっこう忙しいんです。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん、そう思う。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        それに、消費者に届けたいという気持ちは 
          あるんだけど、 
          基本的には無口な人が多かったりします。  
           
          だから「飲食」が 
          そういう場を提供できたらといいんですよ。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        ああ、なるほどね。そうだ、そうだ。 
  | 
      
      
          | 
        
      
        | 勝川 | 
        それは、飲食にとってもプラスになります。  
           
          福岡の漁師の友人が 
          捕ってきた魚を寿司屋に卸してるんですが 
          その店で 
          お客さんを相手に話をするんですね。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        「こうやって捕ってきたんだよ」と? 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        そう、彼が話すようになってから 
          店の売上が「170%アップ」したそうです。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        おいしい魚に、お話もついてくるから。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        店の人が説明するのではなく、 
          捕った漁師が説明するから、客がよろこぶ。  
           
          おしゃれな音楽が流れてる喫茶店と 
          ライブで演奏が聴ける喫茶店くらい、 
          ちがうことなんだと思います、客にとって。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        フェスティバル、というのもいいですよね。  
           
          漁業の生産現場に 
          「魚を食べまくる時間と場所」をつくって、 
          東京はじめ、他の地域から人を呼んじゃう。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        ああ、ありえますよね。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        去年、気仙沼で「市場で朝めし。」っていう 
          イベントをやったんです。  
           
          それは、立川志の輔さんの落語を聞きに来た 
          お客さんの前で、 
          次々と新鮮なサンマを焼いて、食べてもらい、 
          屋台でお買いものをしてもらって、 
          おなかをふくらませて寄席に行く‥‥という 
          イベントをやったんですけど、 
          そんな感じで、 
          いろいろな魚を見て話を聞けて食べられたら、 
          みんな、乗りそう。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        乗ります、乗ります。 
          やっぱり産地で食べる魚は格別ですから。  
           
          ホタテにしたって 
          東京の店でおいしいホタテを食べるのと、 
          漁師がナイフでチャッとむいて 
          「ほら食え」って 
          自然の塩味で食べさせてもらうのでは 
          ぜんぜん、ちがいますよね。 
  | 
      
      
          | 
        
      
        | 糸井 | 
        こっちではホタテが食べられて、 
          そっちでは見たことのない魚が食べられて、 
          あっちでは 
          いつもの魚なんだけど 
          「どうだ、うまいでしょう?」というのが 
          いろいろ食べられる‥‥フェスティバル。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        うん、うん。おもしろいですね。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        では、今後「こうなったらいいのに」という 
          勝川さんのビジョンを、 
          ちょっとお伺いしていきたいと思うんですが。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        そうですね、やっぱり、まずは「資源管理」。  
           
          大前提として、 
          これは「国」がやらなければ、できません。 
          が、それには「世論の後押し」が必要。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        ノルウェーやニュージランドみたいに。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        だから、本やインターネットなどに書いたりして、 
          世の中に発信しているんですけど 
          「大変だ、大変だ」と叫んで回っているだけでは 
          なかなか、うまくいかないんです。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        ‥‥ええ。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        持続的な漁業を広めていくためには、 
          応援してくれる消費者が、どうしても、必要。 
          やはり、消費者が支えなければ、育ちません。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        そうなんでしょうね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        世界には、水産にも「エコラベル」があって、 
          持続的な漁業で捕られた水産物には 
          ラベルを貼りましょうと、なっているんです。  
           
          そして、エコラベルの貼っていない水産物は 
          取り扱わないという小売店が、増えています。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        それは、どこの国ですか。 
  | 
      
      
          | 
        
      
        | 勝川 | 
        日本ではまだですけど‥‥欧米を中心に、世界中で。  
           
          次回のオリンピックの開催地は 
          ブラジルのリオ・デジャネイロですけど、 
          持続的な漁業で獲られた証である 
          MSCというエコラベルが貼られた魚以外は 
          大会のオフィシャルフードとして 
          提供しないそうです。  
           
          2020年に開かれる東京オリンピックだって 
          同じことが要求されるでしょう。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        ええ、なるほど。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        でも、そうなると、 
          いまの日本で提供することができるのは 
          京都のズワイガニとカレイ、 
          北海道のホタテくらいしかないんですね。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        え、それだけ? 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        そのような状況を変えていくために、 
          消費者のレベルで 
          持続的な漁業を応援できる枠組みを 
          つくっていきたいな、と。  
           
          来週、アメリカのカリフォルニア州にある 
          モントレー水族館へ行くんですが、 
          そこは、そういう取り組みを 
          1990年代からやっているところなんです。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        水族館が、持続的な漁業のことを。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        まず、魚のリストをつくるんです。  
           
          持続性に問題なく安心して食べられる魚、 
          資源管理が必要な魚、 
          乱獲されているから食べない方がいい魚。  
           
          水族館の近郊にある提携レストランでは 
          そのリストにのっとって、 
          モントレーの許可した魚しか、使わない。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        へぇー‥‥。 
  | 
      
      
          | 
        
      
        | 勝川 | 
        海の持続性に関心のある人たちは、 
          それらの、提携レストランで食事をします。 
          そうすると、売り上げの何パーセントかが、 
          水族館のプログラムに寄付される。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        そうやって、 
          持続性に対する姿勢を示せるんですね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        そのモントレー水族館が、 
          毎年5月、 
          クッキング・フォー・ソリューションズという 
          お祭りをやってるんです。  
           
          それは声高に「食べるな!」というのではなく、 
          「持続的な水産物を 
           食べて楽しむことで乱獲問題を解決しよう」 
          つまり、 
          「持続的な水産物って、おいしくて楽しいよね」 
          というお祭りなんです。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        楽しむっていうのは、いいですね。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        ぼくも、未来のおいしい魚を食べるために、 
          日本で、そういう場をつくりたいんです。  
           
          「消費者運動」と言ってしまうと 
          ちょっと、息苦しい感じがしてきますから、 
          「楽しめる魚ムーブメント」にしたい。 
  | 
      
      
        | 糸井 | 
        魚好きな日本だったら、できそう。 
  | 
      
      
        | 勝川 | 
        やっぱり日本人は、魚が好きですからね。  
           
          これからも 
          おいしい魚を食べ続けたいという意欲は 
          どこより強いと思いますから 
          自分も楽しく参加できることがわかったら、 
          きっと、大勢の人が参加してくれる。  
           
          今の漁業のやりかたを変えて、 
          未来の食卓が、 
          海の幸で豊かに満たされるような状況を 
          つくっていきたいと思っています。  | 
      
      
          | 
        
      
        | <つづきます> |