(cache) 続・憑依術講座
僕の名は関ヶ原十郎(せきがはらじゅうろう)。
私立榎木津高校に通う高校1年生だ。
先日、僕は夢のような体験をした。
佐藤流憑依術――
他人の体に乗り移るという、トンデモない秘術。
偶然にも、僕はその憑依術と出会う事ができた。
そして、そのトンデモない秘術を会得する事に成功したのである。
子供の頃から、特撮やアニメなどで幽霊や宇宙人が女の人に乗り移ったりする話が好きだった僕は、術を会得した事によって、自分の中に眠っていた他人に乗り移りたいという欲求を呼び覚まし、そして実際に他人の肉体に入りこんでしまったのだ。
そこで経験した様々な出来事・・・
今思い出しても、歓喜で背筋が震えてくる。
まさに憑依術を身に付けた事が、僕にとって人生の一大転機となった。
しかしまだまだ憑依術は奥が深い――
それに、基本だって完全に身に付けたとは言い難かった。
だから僕は、憑依術の特訓をする事を決意したんだ。
幸い、今は夏休みの真っ只中。
時間はたっぷりあるからね・・・・・・ |

STEP1:精神修行
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僕はベッドの上で憑依術講座の本を開き、寝転がりながら文章を眺めていた。
とにかくまずは、術のコントロールに慣れなきゃな・・・
憑依術で1番やっかいなのが、乗り移り時間の制限だ。
術に慣れていない初心者は、そのリミットが1時間しかない。
もし活動限界時間を過ぎると、対象者の意識と自分の意識が混ざり合い、最悪の場合相手の意識に飲み込まれてしまう危険性があるんだ。
これを回避するには、憑依術そのものに僕の精神が慣れなくちゃならないんだよね。
え、どう言うことかって?
ううん、なんて説明すればいいかな・・・
憑依術を一度でも体験した事がある人なら分かると思うんだけど・・・意識を飛ばし、他人の体に入り込むと言う行為は、ハッキリ言って精神にかなりの負担をかけているんだ。
何しろ相手の意識を力技で封じ込めてるわけだからね。
常に精神を消耗している状態なんだよ。
だから精神力が限界に達しちゃうと支配力も消えてしまい、抑え込まれていた相手の意識が浮上してきちゃうんだ。
けど、そこには今まで無理やり入りこんでいた憑依術者の意識もある。
すると、乗り移った相手の精神と自分の精神とが、まるでミルクとコーヒーのようにドロドロに混ざり合っちゃうってワケ。
そうなったら、どっちがどっちだか分からなくなっちゃうでしょう?
自我の喪失――
はっきり言ってそれは、『死』も同然だよ。
ふざけているようで、実はトンデモなく危険な術なのさ・・・憑依術って奴は。
だからそうならない為にも、精神が消耗しないように、なるべくリラックスした状態で相手の肉体に入りこめるようにならなくちゃいけないんだ。
そうすれば、僕が乗り移っていられる時間もどんどん増えていくって寸法なのさ。
RPGとかに例えると、経験値を積んでレベルアップして、自分のMPの最大値を増やしていく・・・って感じかな。
精神力が増えれば、それだけ憑依術を唱えていられる時間も比例して長くなっていくわけだ。
本にも、『毎日の積み重ねが一人前の憑依術者への一番の近道』だと書いてある。
ローマは一日にしてならず、って奴だね。
その為にも、早く誰かの体に乗り移って練習をしないといけないんだけど・・・
困った事に初心者は、乗り移る対象にできるだけ接近しないといけないんだ。
多分、精神を肉体から乖離させる事にまだ慣れていないからなのかな?
名前を呼んで振り向いてもらえるくらいの距離に相手の姿を捕らえないと、術は成功しないらしいんだ。
(って、声を相手に聞かせる必要はないんだけどね)
実は僕には――これが難問なんだ。
誰か可愛い子に乗り移ろうと、あれこれ悩んでも・・・
もしも術の途中で気付かれたら・・・
もしも術に失敗して変な目で見られたら・・・
そんな事を考えていたら、結局何も実行に移せないでいたんだ。
僕って奴は、極度の小心者なんだよ。
こんな事をしていたら、憑依術に慣れる所の話じゃない。
それは分かってる。
分かってるんだけどねぇ・・・
ハア・・・やっぱこの性格をまず改善しなきゃいけないのかな・・・・・・?
「十郎?入るよ〜」
――その時、ドアの向こうからノックをする音と共に姉の声が聞こえてきた。
僕は慌てて憑依術講座のテキストを、布団の中に仕舞う。
「お?何を隠したのよ、もしかしてエッチい本かな〜?」
入ってくるなり、姉の花織(かおり)は楽しそうにニヤニヤと笑いながら、僕に近づいてきた。
「べ、別になんでもないよ!それより何か用!?」
「ムキになるところが怪しいなぁ〜・・・どれどれ年頃の男の子が何に興味があるのか・・・おね―さんに見せてみなさいな♪」
「だからなんでもないって言ってるだろ!もう、用がないなら出てってよ!」
僕は声を荒げながらベッドから立ち上がり、姉を部屋から追い出そうとした。
まったく・・・この人はいつもこうだ。
姉の花織は県下の某有名大学に通っている大学生だ。
五つ歳が離れているんだけど・・・時折、こうして僕の事を子供扱いするんで腹立たしい事この上ない。
まあ、姉弟としては別段仲が悪いって程でもないと思うけどね・・・・・・
「ハイハイ、すぐに出ていくわよ。って、そんな事よりも・・・今日母さん夕方から出かけるらしいから、夜はアタシら2人っきりよ」
「え?ああ・・・そっか、父さんの出張って明日までだっけ」
「そ、だから今日は久しぶりにアタシの特製料理を食べさせてあげるから・・・楽しみに待っていなさい♪」
「え〜?おとなしく外食にしといた方がいいんじゃないの・・・」
「何よ、アタシの料理の腕が信じられないって言うの!?」
そう言って花織姉さんは、僕の背中をバシッと叩いた。
痛いなぁもう・・・・・・
いつも思う事だけど、花織姉さんは笑ったり、怒ったりと、表情が猫の目のようにコロコロと変わる。
人見知りの僕とは対照的に人付き合いも豊富だし、あっけらかんでさばさばとしていて、明るい性格だ。
とても同じ姉弟には見えないよね・・・よく言われるんだけどさ。
「それよりアンタ・・・高校の方はどうなのよ?友達できたの?アンタって人は、少しは他人に心開かないと将来困るわよ?カノジョだって出来ないでしょう」
そんな僕の考えを見透かしたかのように、姉さんはイキナリ説教じみた事を言ってきた。
・・・出たよ。
これさえなければイイ姉だと思うんだけど・・・
お節介と言うかなんと言うか・・・ とにかく、ウザイったらない。
まるで「早く勉強しなさい」と息子をたきつける母親のようだ。
「うるさいなあ・・・ちゃんとやってるから、ほっといてよ!」
「ホントに〜?まったく、アンタ見てると心配でしょうがないのよね。ちゃんとした社会人になれるのかしら・・・」
「ああ、もうしつこいなぁ!用はそれだけなんでしょ!さあ、出てってよ!!」
これ以上ここにいられたら、またいつものようにグダグダと、人付き合いのイロハだとか鬱陶しい話に突入されかねない。
僕は有無を言わさず姉さんの体を押しやり、部屋の外へと追い出した。
「アタシの友達、誰か紹介してやろっか〜?」
「煩い!!」
しつこく、ドアの外からは姉のからかい半分の声が聞こえてくる。
僕は手元にあった枕を掴んで、ドアにそれを投げつけた。
それでようやく諦めたのか、「困ったモンね」とでも言うような溜息と共に、足音が遠ざかっていった。
自分の部屋に帰ったようだ。
・・・くそっ、なんなんだよ・・・!?
人の事、駄々っ子のように・・・
ああ、腹立たしい!
姉さんはいつもこうだ。
まるで自分が優位者のように、僕を上から見下ろすような物言いをして・・・
もう子供じゃないっつーの!
ムカツク。本当にムカツク。
折角、これからの楽しい事をあれこれ妄想して楽しんでいたって言うのに、水を差して・・・
――前言撤回。
僕らの仲は最悪だ。
姉さんなんて大っ嫌いさ!
いつもいつも人をからかって・・・ いい加減こっちも怒るっての!
まったく・・・乗り移って変なコトしちゃうぞ・・・・・・?
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・・・え・・・・・・?
僕は――脳裏を過ったその考えに、思わず全身を硬直させた。
今思い浮かんだ考えを、もう一度反芻してみる。
・・・・・・!
そうか・・・・
そうだよ・・・!
憑依術・・・・・・!
なんでこんな簡単な事、今まで思いつかなかったんだろう・・・・・・!?
ああ、馬鹿みたい!
僕は、自分の頭の悪さにあきれ果てた。
――憑依術の練習相手に、花織姉さんの体を使わせてもらう――
まさに、打って付けじゃないか!!
こんな身近に、『他人』じゃない『女の人』がいたんだ。
よく考えたら、僕が気兼ねなく接する事のできる異性なんて・・・家族以外にいるわけないじゃないか!
さすがに母親相手ってのは抵抗あるけど・・・
でも、姉さんならね・・・・・・!
え?
いやいや、勘違いしないでよ。
別に姉さんの体で変な事しようなんて、そんな事これっぽっちも思ってないよ。
肉親相手に劣情もよおすほど落ちぶれちゃいない。
僕は純粋に、憑依術の特訓の事だけを考えているんだから。
だって考えてもみてよ・・・僕が練習するのは、乗り移る時間を延ばす為でしょう? でもクラスの好きな子の体に乗り移って練習しようとしても・・・ それで彼女に夢中になりすぎて、体の探索に熱中―― 時が経つのも忘れちゃったら・・・これって本末転倒じゃない。
けど、相手が姉さんだったら・・・・・・そんな感情に翻弄される心配はない。
たっぷりと精神の鍛錬に、没頭できるってわけさ。
何せお互い、四六時中同じ屋根の下に暮らしている身だ。
オマケに今は夏休み。
訓練にはもってこいの環境じゃないか・・・!
これ以上の環境が望めるのか・・・?
否!断じて否!!
考えれば考えるほど、この考えは素晴らしかった。
すごい・・・
僕って・・・天才かも・・・・・・!?
さっきまでの鬱憤はどこへやら、僕は天にも昇りたい気分で、思わずその場でガッツポーズを取った。
日頃の姉さんに対する恨みをこの場で晴らせる――そんな思いも手伝ったのかもしれない。
僕はニヤリと不敵な笑いを浮かべて、姉さんがいるであろう壁の向こうに視線を向けた。
――花織姉さん・・・精々その体を使わせてもらうよ・・・・・・?
心の中で、一応断わっておく。
さあ、そうとなれば善は急げだ。
僕は机から椅子を引き出し、憑依術の準備に入った。
・・・久しぶりだな・・・・・・
――よく考えたら、僕に取ってはこれが2度目の憑依術だ。
以前、クラスの委員長に乗り移った時は無我夢中で『呪文』を唱えたからなぁ・・・
けど、大丈夫さ・・・
一度成功したんだ・・・・・・
今度だって・・・・・・・!
椅子を、壁の方に向ける。
壁一枚を隔て、隣は姉さんの部屋だ。
今頃、部屋で音楽でも聞いているんだろう。
念の為、壁に近づき耳をそばだてる。
・・・・・微かに聞こえる物音。
うん、大丈夫だ、姉さんは隣にいる。
ヘヘヘ・・・待っててよ、すぐそっちに行くからね♪
僕は二、三度深呼吸をして、ようやく椅子に座り込んだ。
ふと思いつき、脇に目覚し時計を置く。
憑依術のリミットは、今のところ1時間。
時計を見ながら練習すれば大丈夫だろうけど・・・万が一って事がある。
タイムオーバーの危険を回避する為にも、何か活動限界時間が迫ったという合図を用意しておかなくちゃね。
そうだな・・・・最初の精神集中に5分くらいかかるだろうか?
そこから呪文を唱えて、姉さんに乗り移って意識を同調させるまでの時間・・・
初心者なんだから、そんなスムーズに相手に乗り移れるわけじゃない。
最初からタイムリミット一杯試すってのも危険だよな・・・
それに、最後に憑依術解除の時にも呪文を唱えなくちゃならないんだから・・・
よし、準備期間も含めて今から45分でセットしておこう。
これなら取りあえず、乗り移った後30分くらいは姉さんでいられる筈だ。
よし・・・準備万端!
いよいよ、憑依術を使ってみよう。
僕は隣にいる花織姉さんの姿をイメージしながら――そっと、目を閉じた。
テキストに書かれていた、憑依術の基本をもう一度頭の中に思い浮かべる。
――精神集中。
――対象者のイメージ。
――意識の一体化。
そして――呪文の詠唱。
静かに興奮してきた。 壁が間にあるけど・・・大丈夫だよね? 距離的には憑依術の間合いだ。
大体精神を移動させるんだから、間に物理的な障害物があったって問題ない筈だ。
大丈夫・・・大丈夫だって。
自分自身に言い聞かせる。
――姉さん・・・・・・!
そして僕は、脳裏に姉さんの姿を思い浮かべた。
イメージの中で、姉さんが楽しそうに笑っている。
背中まで伸びた長い黒髪――
えくぼが浮き出る笑顔――
女子高生とは違う、すでに成人した女性のふくよかなボディライン――
・・・・・・うぅん・・・・・・
なんかイメージしにくいな。
・・・まぁ、当然か。
だって今まで姉さんを、『女』として見た事なんてなかったからね。
・・・しょうがない、こうなったらいつもの姉さんを思い浮かべよう。
怒っている姉さん――
TVを観て大笑いしている姉さん――
僕に向かってクドクドと説教する姉さん――
うん、この方が姉さんをイメージしやすい。
僕の頭の中に、姉さんの姿がどんどん膨らんでいく。
こうなったら後は、精神を肉体から切り離すだけだ。
姉さんに、乗り移るぞ・・・!
僕は意識を集中させた。
姉さんに、乗り移る――
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
姉さんに、乗り移る。
――――
―――
――
―
雑多だった意識が収束し、研ぎ澄まされていく感覚がある。
するとどうだろう?
壁を挟んで向こうにいる筈の姉さんの姿が、ハッキリと目の前に現れたんだ。
姉さんはヘッドホンをかけながら、ベッドに腰掛け雑誌を読んでいる。
僕の意識はするすると姉さんの肉体に近づき、一瞬にしてその中に入り込んだ。
来た――
これこそが、憑依術の効き始めた合図=サインだ。
対象者との意識の一体化――
自分の周りに、ハッキリと姉さんの存在を感じる。
こうなればもはや、憑依術はほとんど完成したと言っていい。
後は・・・呪文を唱えるだけ。
僕は右手を持ち上げると、人差し指と中指を立て、それを自分の鼻の穴に挿入した。
「サトちゃん・・・・・・・・・ぺ」
間の抜けた僕の声が、張り詰めた空気の中を割って静かに響く。
一瞬、 真っ暗闇だった脳裏に、ノイズが走ったような錯覚を覚えた。
それが収まると共に、麻痺状態だった五感が甦ってくる。
ついに――『呪』である言霊を口に出してしまった・・・・・・
成功したのか?
僕はドキドキとしながら、ゆっくりと・・・目を開いた。
――まず最初に飛び込んできたのは・・・・・・雑誌。
僕はいつの間にか、両手で雑誌を手に持ち、眺めていたのだ。
どうやらファッション雑誌のようだ。
秋の新作らしきブランドものを着込んだモデルの女性たちが何人も、様々なポーズを取っている。
視線を雑誌から周囲に移す。
クローゼット、机、本棚、コンポ、そして・・・化粧台。
『化粧台』――
ふふ・・・化粧台だ。
僕はニヤつきながら、ゆっくりと視線を自分の胸元へと下ろした。
飛び込んでくるふくらみ――
服の生地がたるんでいるわけでも、中に物を入れているわけでもない。
それは――乳房と言う名の双丘だった。
見下ろす自分の視界の片隅に、チラチラと見え隠れする黒くくすぐったいもの――
それは、頬を掠める長い髪の毛の感触。
漂う、「花」のような香り――
それは、体から発せられている化粧品の匂い。
自然と、口元が綻んでくる。
「・・・やった・・・成功だ・・・・・・!」
思わず呟いた僕の声はすでに・・・・・・・そう、花織姉さんのものだった。
気付けば、耳からは人気バンドの歌うバラードが静かに聞こえてきていた。
僕はヘッドホンを外し、雑誌を閉じて脇に置くと、化粧台に近づいて屈み込みながら、鏡で自分の姿を確認した。
そこには――ニヤニヤと笑いながら僕の方を見ている姉さんの姿があった。
間違いない、花織姉さんだ。
輝く黒髪、年齢の割りに幼い顔、女性にしては大柄なその体・・・
僕は鏡の前で姉さんの体を捻りながら、様々な角度で好きなだけ眺めてみた。
姉さんって・・・以外とスタイルいいんだなぁ〜。
あの花織姉さんが、僕の思い通りに動いてくれる。
フフ、これだよ、この支配感。
これこそが、憑依術の醍醐味さ。
どうだい姉さん・・・弟に自分の体を操られている気分は?
いつもいつも、人を子供扱いしている仕返しさ!
この体で、たっぷりと楽しませてもらうからね・・・ぐしししし。
僕は邪悪な笑みを、姉さんの顔に張りつかせた。
人の表情をコロコロと思い通りに変えさせるのも、乗り移りの楽しみの一つだよね。 じゃあ・・・こんな表情も思いのままかな?
僕は唇に指を添えながら前屈みになり、鏡に顔を近づけて、
「あっはぁ」
と悶えてみた。
・・・うわ。
め、めちゃくちゃセクシーだ。
姉さんの筈なのに、まるで別人のようじゃないか。
心臓が急激に高まり始める。
姉さんって・・・こんなに綺麗だったっけ・・・?
花織姉さんの新しい姿を垣間見て――僕は、静かに興奮しはじめていた。
髪を梳いてみる。
サラサラとした感触だけを指先に残し、姉さんの髪の毛はするすると、僕の手の平から逃れていった。
あらためて全身を上から下まで見詰め直す。
モスグリーンのノースリーブシャツに、グレーのジーンズ。
夏らしい涼しい服装だ。
しかもこの服装は・・・
なんと言うか、とても・・・
刺激的だ。
シャツの隙間から、花織姉さんの胸がチラリと覗いている。
ゴク・・・ッ
一度、自分自身の――姉さんの顔を覗き込み・・・息を飲んだ後、
僕は胸元に恐る恐る手を近づけた。
指先で、そっと服を摘んでみる。
暗闇から 姿を見せたのは・・・
ね、姉さんのオッパイだ・・・・・・!
伸びきったシャツの下から、グレーのブラジャーに包まれた、豊満な乳房が眼前に飛び込んできた。
こんな角度から、女の胸を見る事が出来るなんて・・・・・・
憑依術を習得した、僕だからこそ出来る特権だ。
しかもそれが姉さんのものなんだからな・・・
・・・妙な気分だ。
花織姉さんの胸を見たのなんて、幼稚園の頃お風呂に一緒に入った時以来じゃないか?
当然あの頃は、まだまだ発展途上でオッパイなのかなんなのか分からなかったけどさ。
けど、あの頃とは明らかに違う・・・
目の前にあるのは、れっきとした大人の女性の肉体だ。
試しに両手で下から掬ってみる。
まるで特大のプリンのように、手に余るほどに弾力のあるものがプルプルと震えながら持ち上がった。
本当に、柔らかいな〜。
両手で力強く、中央に寄せてみる。
胸の谷間がくっきりと刻まれていく。 男なら、デブくんでもなければ出来ない芸当だ。
それにしてもデカイ・・・
姉さんって、ナイスバディだったのね・・・・・・ゴクッ。
鏡を見ると、自分の胸を寄せたままポカンとした顔で突っ立っている花織姉さんが映っている。
ヘヘ・・・なんか間抜けだなぁ・・・
姉さんが、こんなポーズを取ってるなんて。
胸を寄せたまま、グラビアアイドルのようなポーズを披露してみる。
「うふん・・・っ」
すご・・・本物顔負けだな。
思わず写真集でも発売したいくらいだ。
こんな格好をしている自分の姿・・・姉さん本人が知ったらなんて言うかな・・・?ヘヘへ。
しかしこうした格好を取らせていると、本当にいい女だよなぁ・・・姉さんって。
いつも見慣れた人が、見た事もないような美しさを醸し出しているんだ。
こんな魅力的な姿を作れるだなんて・・・いつもの姉さんからは考えられないや。 それとも外じゃ、こんな顔で笑顔を振り撒いているのかな?
鏡の向こうの姉さんに、僕を誘うような視線を投げかけさせた。
体を前に倒し、シャツから覗く胸の谷間を強調させる。
「触ってもいいのよ・・・?」と、まるで姉さんが言っているみたいだ。
・・・・・・・・・
なんか・・・すごくイヤらしいな・・・・・・
顔が火照ってきた。
姉さんなのに・・・
こんな表情を僕に向けるなんて・・・・・・
って、僕がさせているんだけどさ。
ギラついた姉さんの瞳。
口を開けると、ヌラヌラと濡れた舌が別の生き物のように動いている。
それは明らかに、欲情した女性の表情だ。
姉さん・・・
姉さん・・・!
内なる興奮に体が反応し、乳首が勃起したらしく、ブラジャーと擦れて快感が伝播してくる。
『ぷちん』
僕の中で、何かが切れた。
「か、花織姉さん!!」
姉さんの名を叫びつつ、乳房を荒々しく鷲掴みにする。
中心に指を伸ばし、コリコリとした乳首の硬い感触をブラジャー越しに味わってみた。
「んはあっ!」
それだけで、姉さんの口から嬌声が勝手に漏れる。
すごい・・・
弟に体を弄ばれて、あの花織姉さんが喜んでいるなんて・・・・・・・!
肉親同士だと言うのに、内から込み上げてくるこの欲望。
いや、他人ではないのにその肉体を嬲っているという背徳感が、僕の興奮を益々高ぶらせていた。
姉さんとこんな事・・・
あの花織姉さんと・・・・・・!
乱暴に片方の胸を揉み上げながら、空いた方の手でジーンズのファスナーを下ろし、僕は股間に指を突っ込もうとした。
――その時。
隣りの部屋から、目覚し時計の耳障りなチャイム音が、空気を切り裂くように大きく聞こえてきたんだ。
「・・・・・・・・・」
それだけで、僕は我に返った。
ゆっくりと呼吸を整え、姿勢を正す。
今・・・自分が何をしようとしていたのか・・・それを冷静に考えると、背中にじんわりとイヤな汗が滲んできた。
ごまかす様に、慌てて周囲を見回す。
も・・・もう30分経ったのか・・・・・・!?
感覚では、まだ10分くらいしか姉さんに乗り移っていないと思ってたのに。
それだけ・・・僕は時間を忘れるほど、姉さんの体に夢中になっていたって事なのかよ?
恥ずかしい・・・
肉親にもよおすほど落ちぶれちゃあいないとか言っていたのは、どこのどいつだよ!?
他人の体では探索する事に我を忘れてタイムリミットを越えちゃうから、肉親相手なら大丈夫だと思っていたのに・・・!
僕の『タガ』なんてあっという間に、簡単に外れてしまった。
今までなんとも思っていなかった姉さんの体でさえ、こんな事になってしまうんだ。
憑依術って・・・やっぱトンデモないよ・・・・・・!!
今更ながら、自分が習得した技の恐ろしさに戦慄を覚える。
・・・とにかく、こうしちゃいられない。
取りあえず・・・自分の体に戻らないと!
僕はもう一度、鏡の前に立った。
えっと・・・憑依術を解除するには、鏡に今の自分の体を映しながらそれを見詰め、呪文を唱えればいいんだったよな?
まだ興奮した姉さんの顔を見詰めながら、僕は頭に手を置いた。
――姉さん・・・
また良からぬ考えが頭を過る前に、僕は心を真っ白にして呪文だけをその内に浮かび上がらせた。
「・・・どうも・・・失礼しました・・・!」
目の前がグニャリと歪む。 視界が暗転する。
「・・・・・・・・・」
気が付くと――僕は自分の部屋へ、自分の体へ戻っていた。
下を見下ろすと・・・うん間違いない、僕自身の体だ。
少し深呼吸して考えを巡らせてみるが・・・大丈夫、いつかみたいに意識の混濁はなかった。
よかった・・・慌てて元に戻ったけど正解だったな。
あのままの状態で姉さんの体にいたら、一体何をしていたか・・・自分でも分からない。
うん、やはり乗り移りは予想以上に理性のリミッターが外れやすいんだな。
それが分かっただけでも一歩前進だ。
――所で、姉さんの方はどうなったんだろう?
恐る恐る、壁に近づき、聞き耳を立てる。
・・・・・・・・・物音はしないな。
まさか、僕にカラダ乗っ取られた事に気付いているとは思えないけど・・・・・・
後で気まずい雰囲気になっても困る。
ちょっと怖いけど・・・様子を見にいこうか?
夕飯の献立でも聞くフリをして。
他人なら怖いけど・・・姉弟だし、多少不自然な行動を取っても大丈夫だろう。
僕は廊下に出ると、姉さんの部屋を数回ノックした。
「花織姉さん?」
声をかけながら、部屋の中を覗き込む。
姉さんは――鏡の前で、ボーっと突っ立っていた。
僕が先ほど、そこにいた時のまま。
「姉さん?」
もう一度呼びかけると、花織姉さんは虚ろな表情で、ゆっくりとこっちを振り向いた。
「どうしたの?ボーっとして」
「ああ・・・うん・・・」
力のない声で姉さんは答え、頭痛でもするのか、手で額を押さえた。
「アタシ・・・何してたんだっけ?」
「知らないよ、そんなの」
首を傾げる姉さんの言葉に、僕は内心焦りながらも笑って見せた。
「それよりさ、今日の夕飯何作るの?」
「・・・ゆうはん・・・?ああ、うん・・・・・・どうしよっか・・・」
気だるげな姉さんの声。
心ここにあらずと言った感じだ。
「・・・なんでもいいから、人の食べれるものにしてよね」
このまま問答を続けても無駄と思い、僕は会話を切り上げる事にした。
普段を装い、嫌味を言い残して、姉さんの部屋から出る。
気付かれないように、僕は早足で自分の部屋に戻った。
息が荒い。
アソコが反応している。
部屋に戻ると、僕はベッドに倒れ込み、枕を抱き締め、声にならない絶叫を上げた。
すごい・・・・・・!
姉さんは、僕に体を乗っ取られていた事に、全然気付いていない!
見た?あの呆けた顔。
自分の身に何が起きたのか・・・まったく理解していない。
前回の実践では分からなかったけど・・・乗り移られた人って、意識が戻った後はあんな風になるんだ・・・!
魂が抜けたような・・・まるで壊れた人形のような姉さんの姿に、僕は激しく興奮していた。
たまらない・・・!
今すぐさっきの姉さんをオカズに、オナニーしたいくらいだ。
――けど、今はそんな事してる場合じゃあない。
バレる心配がないと分かった以上、これで思う存分練習に打ち込めるってもんさ!
さすがに今の姉さんの様子を見た後じゃ、すぐにまた試すって気にはなれないけど・・・
少し休憩してから、今日の間だけでももう何度か、術を試してみよう。
二回三回と続けていくうちに・・・憑依術の持続時間も伸びていく筈だ。
経験値が上がれば、乗り移られた人がさっきの姉さんみたいに、疲れた様子でボーっとする事もなくなるのかな?
相手が、いつ自分が意識を失ったか気付かせないくらい、自然に乗り移れるのが理想だもんね。
よぉし・・・課題はまだまだ多い。
――辛抱してよね、姉さん。
この夏休み中、姉さんのカラダは僕のものなんだからね・・・!
ぐしししししし!!
枕をギュッと抱き締めながら、僕は次の練習で姉さんに何をさせようか、悶々と楽しい妄想を思い浮かべた・・・・・・
(つづく)
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考察〜精神修行について
みなさんこんにちは、チャー・佐藤です。
えー、今日の憑依術講座は、ズバリ『精神力』について、です。
本文中で十郎君が言っている通り、憑依術を左右するのは、術者の精神力です。
精神――『心』が強ければ強いほど、その人は術の使い手として、有能であると言えます。
体力のあるなしは関係ありません。
重要なのは、体力ではなく精神力。
相手の意識を封じ込める為に、自分の意識を強く持つ。
相手の肉体を動かす為に、感覚を鋭く研ぎ澄ませる。
相手の意識と混ざり合わない為に、自我をしっかりと保つ。
心の力がすなわち魂の力。
憑依術は精神を、己の内面を高める――まさに、日本が古来より提唱してきた『精神論』を実践している技術と言っていいでしょう。
いやいや皆さん、心配しないで下さい。
自分が小心者だとか、傷つき易い性格だとか、そんな事は関係ありません。
精神力は、訓練によっていくらでも高められるのです。
誰でも最初は少しの間しか、他人の体には乗り移れないものなのです。
それを訓練を続けていくうちに1分が10分に、10分が30分に、30分が1時間に・・・・・
そして、最後には自分の思うままに、憑依術を操る事が可能となるのです。
皆さんも日々、たゆまぬ訓練を続け、早く一人前の憑依術者になってください。
それでは、また次回。
チャー・佐藤
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・本作品はフィクションであり、実際の人物、団体とは一切関係ありません。
・当作品の著作権は作者が有するものであり、無断に複製、転載する事はご遠慮下さい。
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