――湯気が薫る。 白い、 白い、 真っ白な世界。 熱気に包まれ、視界が煙る世界。 まるで濃霧の中に迷い込んでしまったみたいだ。 でも、体から沸きあがってくる熱く心地良い感覚は、自分が天国にでもいるかのような気分に錯覚させる。 「はあ・・・」 僕は思わず、溜め息を漏らした。 ――姉さんの声で。 そう、今僕は、姉さんの体で入浴中だった。 姉さんがお風呂に入ろうとしているのを知った僕は、すぐさま姉さんと意識を同調させた。 そして姉さんの視界で、服を脱ぎ裸になっていく姉さんの姿をたっぷりと覗き見させてもらったんだ。 僕はすっかり興奮した。 だって普通の覗きと違って、僕が見たのは姉さんの視点から見たアングルなんだもん。 覗き見する対象である人間のその視点から、覗き見する体を拝めたんだ。 他人に乗り移る事の出来る、僕のような人間でなければ味わえない特権さ。 もっとも、当然姉さん自身が自分の体をジロジロ見るなんて事はないんで、じっくり隅々まで覗けたワケじゃないけどね。 そして湯船に浸かった所で呪文を唱え、僕は姉さんに乗り移ったんだ。 ・・・え、何ですぐに乗り移らなかったのかって? だってお風呂に入ろうとしているところを最初から最後まで乗り移っちゃったら、姉さんお風呂に入った時の記憶がスッポリ抜け落ちて不思議に思うに決まってるじゃん。 こう言う時の行動は慎重を期さないと。 ――そんな事を考えながら、僕はミルク色の入浴剤に染まったお湯を手で掬い、そのまま姉さんの腕をツルリと撫でた。 ふふ・・・姉さんの肌は木目細やかで気持ちいいなあ。 僕は普段、お風呂って奴がそんなに好きじゃないんだけど、姉さんの体で入るお風呂は格別だった。 長い髪や柔らかい体の感触が瑞々しく、細胞の一つ一つが沸々と興奮しているようだ。 普段とは違う体のパーツを弄っているって事もあるんだろうけど、何気ないお風呂に入ると言う日常的な行為が、凄い新鮮なものに感じられた。 女の人がお風呂に長居してしまうって気分が、少しは分かった気がする。 ――それにしても・・・・・・ この、『オッパイの感覚』って奴は・・・! 湯船と言う人口の海に浸っている事で、姉さんのオッパイはユラユラと重力から開放され、僕の手を借りる事もなく持ちあがっていた。 胸の一部だけがお湯の中を浮かび上がっているこの不思議な感覚。 こんなものが自分の体に付いているなんて、やっぱり信じられないや。 「こりゃ、普段だって肩凝りまくりだよね」 僕は息を吐き出しながら、姉さんの肩を優しく揉んでやった。 う〜ん、姉さんの体って本当に、どこまでも柔らかいなぁ♪ 肩までお湯に浸かり、僕はお風呂の中で姉さんのオッパイをキュッと持ち上げた。 「ん・・・っ」 お風呂の生暖かい熱さに浸る中で、更に暖かい感覚が体中に広がっていく。 全身が、痺れる快感に包まれる。 いつもとはまた違う気持ちよさだ。 お風呂の中で女の体を楽しむなんてハジメテの事だしね。 気持ちよすぎて、体の不純な部分がお湯と共に流れていくみたいだ。 姉さん自身の疲れを、僕が癒してやっているってワケか。 へへっ、姉さんの体を乗っ取って操っているってのに・・・それが姉さんの為になるだなんて。 憑依術の練習は、姉さんにとってもプラスになるって事? な〜んて都合のいい解釈をして・・・僕って勝手だよね。 「ふう・・・」 もう一度溜め息を吐き、僕は胸を揉む手を止めた。 湯船の中の体感も覚えた事だし・・・そろそろこの辺で姉さんを解放してやろう。 え?お風呂の中でオナニーするんじゃないのかって? へへ、まあそれもいいんだけどね・・・ あんまり好き勝手やって、姉さんをのぼせさせちゃったら悪いし。 このままずっとお風呂に入ったまま姉さんの体弄くってたら、さすがに姉さんだって意識を取り戻した時に怪しむだろうしね。 大体、乗り移っている肉体に固執するのは、精神修行に取ってもよくない筈だ。 これまでの失敗からも分かる通り、もう少しだけ、もうちょっと楽しもうと言う気持ちが、術の限界時間を超えてしまう危険に繋がっちゃうんだよね。 いつでもこの体には戻れる―― だから今はこの位にしておこう―― そう言う余裕がないと精神の鍛錬にはならないんだ。 僕にはまだまだやるべき事がある。 僕の目的は姉さんの体を弄ぶ事じゃない。 姉さんの体を使って、憑依術の訓練をする事なんだ。 ――あらためて、自分自身にそう言い聞かせる。 よし・・・それじゃあ、そろそろ新しい訓練を試みてみよう。 新たな決意を胸に・・・僕は姉さんの体から離れるべく、鏡をじっと見詰めた。 |
STEP3:精神操作 自分の体に戻り、僕は机の上で講座のテキストを開いて、新たなページを読み始めた。 読むのは『精神の操作について』と言う項目。 ――乗り移る対象となる人間の、意識を操る訓練だ。 僕が前から、試してみたかった訓練さ。 今更ながら説明すると、憑依術ってのは相手の意識と自分の意識を同調させて、呪文によってその相手の体に入りこむ秘術だ。 つまり、相手の意識を掌握する事が、憑依術に取っては大事なワケで。 それってつまり相手の意識を自由に、自分の思い通りに出来る状態でもあるってワケだ。 え? その相手の体を乗っ取ってしまうんだから、別に相手の意識を操る必要なんてないだろう、だって? う〜ん、確かにそうなんだけど・・・ ほら、憑依術を実践する時って、何かと状況を見極めなきゃいけないでしょ? 他に人が多い時とか。 相手が移動している時とか。 いざ乗り移ろうと思っても、タイミングが悪くて術を発動できない状況ってのがどうしても出てくる。 ――僕みたいな小心者に取っては尚更だ。 そんな時に、乗り移りたい相手の行動をコントロールできるとしたら・・・便利だと思わない? 例えば、邪魔が入らないように人気のない部屋へ移動させたり、 移動している相手の足を止めさせたり・・・ つまり、術を使いやすい状況を、自分の手で作ってしまえるってワケだ。 それだけじゃない。 例えば今から姉さんにまた乗り移って、トイレに入って一人エッチをしたとする。 そこでフィニッシュを迎えて僕が体を離れたら・・・ 気付いた姉さんはどう思う? いつの間にこんな所にいるのか? どうして体が火照っているのか? 身に覚えのない行動、行為にパニくり、自分の頭がおかしくなったのかと思うかも知れない。 そんな時、相手の精神を操る事が出来たら・・・不自然な行動を、不自然じゃないと錯覚させる事も可能になるんだ。 うろたえている人の心に、気にするなと言う意識を芽生えさせるだけで・・・ その人は自分が意識を失っていた事さえ、まったく気にしなくなる。 つまり、憑依術の後始末に使えるってワケだ。 これなら人の体を乗っ取った後、意識を取り戻した本人に気付かれたらどうしようなんて心配する必要もなくなる。 無茶をしたなと思ったらすぐに精神を操って、体の異変を異変と思わないようにさせてしまえばいいんだ。 なにせ他人の肉体を勝手に拝借しているんだからね、アフターケアは万全にしなくちゃ。 チャー・先生だって「愛ある乗り移りを心掛けよう」と言ってるし。 いくら他人の体を自由に動かせるからって、その人の人格や社会的立場を無茶苦茶にするワケにはいかないからね。 特に、今日みたいに何度も同じ人に乗り移っていたら・・・さすがに本人が不審に思うかも知れない。 そんな時に、相手の精神を静める役割を果たせられるんだ。 この夏休み中、何度も姉さんに乗り移りたいと思っている僕にとっては、是非とも習得しておきたいスキルなのさ。 え? そんな、憑依術のサポートに使うようなスキルを覚えるだけなのに、妙に嬉しそうだって? やっぱりそう見える? へへへ・・・まあ、無理もないんだよね、これが。 ――実は以前、パラパラとテキストを先の方まで流し読みした時に、ふと目に止まったのがこのページだったんだ。 その時は相手の精神を操作するなんて、僕にはまだ無理だと思っていたんだけど・・・ 今なら確実に精神強化が進んできている。 是非ともチャレンジしてみたいんだ。 でも、この技を習得したいのはなにも憑依術をする上で便利だから、なんて理由だけじゃないんだよ。 散々乗り移りが好きだとか言ってきておいてアレだけど・・・ 実は僕、マンガとかアニメによくある人を操ったりする話も大好きだったりする。 催眠術ショーでアイドルや女性キャスターが催眠術を掛けられたりするのもたまらないし、アニメなんかで悪役がヒロインとかを洗脳する話も大好きなんだ。 だから姉さんを操れると思っただけで、乗り移る時と同じ位ワクワクしてきちゃうのさ! 僕はドキドキしながら、精神操作の項目に目を通した。 さて、それでは精神の操作の訓練に移りましょう。 憑依術の基本が、乗り移りたい相手の姿をイメージする事から始まるのは、もう皆さん理解していますよね? この時、術者と憑依術対象者の間には気の流れ、『気の道』のようなものが生まれます。 チャー先生の説明の横に、図解が描かれている。 精神集中を行っている憑依術者と、乗り移る対象となる相手の姿だ。 術者の周りには、アニメとかでよく見るオーラのようなものが浮かび上がっている。 相手の方もぼんやりとオーラに包まれていて、互いのオーラの一部が伸び、細長い線のようになって繋がっていた。 これが先生の言う『気の道』と言う奴なんだろう。 確かにいつも精神集中を行った時、相手の意識と繋がったような瞬間を覚える。 この時に、その気の道が発生するんだろう。 目には見えないけどね。 気の道とは、いわば精神を移動させる為の通路。 つまり、相手と自分の精神が見えない道で通じ、意識と意識が同調している訳ですね。 術者の意識は自分の体にいながら、相手とも意識が一体となっているのです。 そのまま呪文を唱えれば、皆さんご存知のように相手の体に完全に乗り移る事が出来るのですが・・・実は佐藤流憑依術は、相手と精神が同調したこの状態を維持し続ける事が出来ます。 少し分かりにくいかもしれませんが・・・つまり、相手と精神を同調させた状態と言うのは、相手に『半分乗り移っている』とも言い換えられる訳ですね。 この状態を維持すれば、不完全とは言え相手の体に入り込んでいる為、相手の感覚を一部だけ共有できます。 具体的に言うと相手の視覚を共有し、自分の体の中にいながら相手が何を見ているのかを、まるでCCDカメラを通して見た映像のように追体験出来るのです。 ・・・ふむふむ。 自分の中にいながら、相手の中にも入りこんでいるって変な感じだと前から思ってたけど・・・成る程、半分乗り移っているって事なのか。 やっぱそれって、精神のコントロールが無茶苦茶難しいんだろうなぁ。 逆に言えば、それが出来る人が憑依術使いって事なんだろうね。 実際、姉さんに乗り移る直前―― つまり精神集中してから呪文を唱える間、確かに自分の周囲に姉さんの気配を感じていたし。 さっきの着替えの時のように、姉さんが見ていたものを僕も見る事が出来たもんな。 これは、フィクションによくある普通の乗り移り能力ともちょっと違うハズ。 憑依術ならではの特徴だ。 でも先生が言っているように、あの状態だと共有出来る感覚は一部だけで、姉さんの目を通して周囲は見れるんだけど、音や触感は共有出来なかったりする。 どう言う事かって言うと、姉さんが耳で聞いた音を僕が聞く事は出来ないし、姉さんが触った物の感触や感じた感覚なんかを僕が一緒に感じるのは無理ってワケ。 相手の姿をイメージする精神集中は、憑依術に慣れれば慣れるほどやり易くなります。 初心者はすぐ近くにいる対象者をイメージする事しか出来ませんが、熟練者ならば一度乗り移った相手なら、どんなに離れていてもその姿を捉える事が出来るようになるのです。 つまり、遠く離れた人間にも乗り移る事が可能になるのですね。 ――ふむ、今朝に比べて、確かに姉さんの姿をイメージする事は簡単になっている。 この遠く離れた人をイメージする能力――『千里眼』とでも呼びましょうか? これは目ではなく、心で遠く離れた人間を視る。 そう、いわゆるテレパシーのようなもので、相手の姿を感じ取る事が出来るようになるのです。 そして『千里眼』を鍛えれば鍛えるほど、『気の道』も長く長く伸びていき、それによって遠く離れた人間の体にも入り込めるワケですね。 『気の道』、 『千里眼』、 この二つは佐藤流憑依術の基本です。 この能力を使いこなせるようになる事が、一人前の憑依術者になる第一歩といえるかもしれません。 へえ、テレパシーか。 確かに頭の中に姉さんを思い浮かべようとすれば、間にある邪魔な遮蔽物とかも通り抜けて、姉さんの姿だけが見えるモンな。 「心の目」で見る―― 話にはよく聞くけど、これがそうなんだ。 さて、相手と意識を同調させた状態では、一部感覚の共有以外にも出来る事があります。 それが、相手の意識への干渉、 つまり、『精神の操作』です。 お、いよいよ精神操作の実践だな!? やり方は簡単です。 まず、相手と精神を同調させた状態を維持してください。 通常はこのまま呪文を唱え、乗り移りを完了させるのですが、精神操作を行う場合は、この段階で相手の精神に強い命令を送り込めます。 「眠れ」と念じて相手を眠せる事も、「笑え」と念じて相手を笑わせる事も、何でも思いのまま。 自分がさせたい命令を強く思い浮べるだけで、相手にその通りの行動を取らせる事が可能です。 先程も説明した通り、乗り移れば乗り移るほど、相手の姿をイメージしやくすなり、遠く離れた人間にも乗り移れるようになります。 つまり、憑依術に慣れれば慣れるほど、相手の意識を支配する精神操作も身に付けやすくなるという事です。 慣れれば簡単ですので、皆さんも是非試してみてください。 ふ〜ん、以外と簡単なんだな。 つまり、相手をイメージするのに慣れてしまえば、自動的に精神操作も出来るようになるって事? じゃあ、今の僕なら姉さん相手に簡単に試せるってワケか。 よーし、それなら早速試してみようかな!? 何事も実践だと、チャー先生も言っていたしね♪ 僕は本を閉じ、目を瞑って姉さんの姿を思い浮かべた。 ――足元に気配。 1階か? 後ろを振り返り、下を見る。 お、いたいた。キッチンだ。 夕飯の準備かな? ふふん、気配を察知して相手を見つけられるなんて・・・まるでニュータイプだね。 僕は立ち上がり、1階へと移動した。 「あ、十郎?夕飯もうちょっと待っててね」 ドアを開ける音で気付いたのか、フライパンを使っている姉さんがこちらを見ないまま声を掛けてきた。 お風呂上りだからか、昼間とは違って髪を後ろで結っている。 服もすっかり部屋着の、タンクトップとショートパンツに着替えていた。 う〜ん、いつも見慣れた格好なのに、今日はなんだか凄くセクシーだなぁ。 いわゆる湯上り美人って奴? 髪を結い上げた事で見えるうなじも、見事に色っぽい。 僕は暫し、姉さんの姿に見惚れていた。 僕の気持ちなど知るよしもなく、姉さんは楽しそうにフライパンで調理を続けている。 夕飯を作るの久しぶりだから、楽しいのかな? 愛らしいなあ、もう。 思わず抱き締めたくなっちゃうじゃないか。 静かに興奮しながらも、僕は平静を装いつつテーブルにつき、姉さんの後ろ姿をこっそり覗き見た。 これがもうすぐ、僕のものになるんだ・・・ごくん。 ・・・い、いやいや、違う違う! 何度も言うように、別に僕の目的は姉さんとエッチをする事じゃないんだって! 姉さんを完全に操る事が出来るか、それを今から実験するんだ。 落ち着け・・・落ち着けぇ・・・十郎! もう一度自分自身に、強く言い聞かせる。 さ、さあ、いよいよ試すぞ・・・! ・・・また心臓がバクバクと鳴り出した。 くそ、つくづく臆病だな、僕って奴は。 落ち着けっての! 姉さんにはもう、3回も乗り移っているだろう!? リラックスだ、リラックス! 自分を鼓舞しながら、僕は姉さんの背中を睨みつけた。 ――相手をイメージしながら、強く念じればいいんだったよな・・・? ・・・何をさせよう? 取りあえず実験だし、簡単な事でいいよな・・・ ・・・よし。 笑わせてみるか。 僕はこめかみに力を込めながら、姉さんに『笑え』と念を送った。 ――笑え・・・ ――笑え・・・ ――大きな声で笑え・・・ ――何も考えずに、笑うんだ・・・! 頭の中で意識を姉さんと同調させながら、そんな言葉を念じ続ける。 すると、背中をゾクゾクッと悪寒が走った。 な、何だ・・・!? 悪寒の正体を確かめようとしたその時―― 「プッ、アハハハハハハハハハハ!!」 突然姉さんが、けたたましい声で大笑いしたんだ! 「ね、姉さん?」 ビックリした僕は、つい姉さんに声をかけてしまった。 「・・・っ!?」 姉さん自身も驚いたようで、料理を作る手を止め、自分の口を押さえている。 「何、どうかしたの?急に大声出すから、ビックリしたよ・・・」 内心の動揺を気取られないように、僕はわざとらしく姉さんに再度声をかけてみた。 「・・・ヤダ・・・どうしたんだろ?なんか、急に・・・思い出し笑いかしら?」 姉さんは首を傾げながら、僕の方を振り返った。 TVでバラエティ番組が流れていたワケでも、僕が変な事を言ったワケでもないのに、突然大笑いしたんだ。 不思議に思うに決まっている。 不安そうにキョロキョロと周囲を見回し、熱でもあるのかと額を押さえている。 ――そんな姉さんの様子を確認し、僕はテーブルの下で密かにガッツポーズを取った。 やった・・・! 本当に姉さんが、僕の命令した通りの行動を取った・・・! 精神操作ってこんなにも簡単に出来るものなんだ! それじゃあ今の僕は、乗り移らなくても姉さんに思い通りの事をさせられるって事・・・? 素晴らしい! 今度こそ完全に、姉さんを僕の支配下に置いたんだ! 姉さんの全てが・・・身も心も全てが、僕のものに・・・! そう思っただけで、あっさりと僕の中の何か大事な物が、プツリと切れた。 花織姉さん・・・・・・っ! 僕は邪悪な笑みを浮かべながら、もう一度姉さんと意識を繋げた。 頭がおかしくなったなんて勘違いされても困るしね・・・気分を落ち着かせるよう、新たな『命令』を送ってやる事にする。 ――何でもない・・・気にするな、料理を続けるんだ・・・! そう念じながら、精神を集中させる。 すると、目を瞬かせていた姉さんが、何事もなかったかのようにフライパンを手に取った。 再び肉を焼く音が聞こえてくる。 今の今まで不安げに立ち尽くしていたのが嘘みたいだ。 ――これで確認できた。 姉さんは完全に、僕のものとなった。 僕の操り人形になったんだ。 テーブルの下で、股間がムクムクと膨らんでいく。 しかし気にする必要はない。 だって、姉さんにどう思われようと、すぐにその記憶を書き換えられるんだからね! ぐしししし♪ さっき背中を走ったあの悪寒―― あれは、対象に命令を送り込んだ合図だったんだね。 あ〜楽しい! 人を操るのが、こんなにも快感だなんて! 僕はすっかり、他人を意のままに操る支配感の虜となっていた。 今では姉さんと僕の間に、見えないハズの『気の道』が見える気さえする。 へへへ、この精神のケーブルを通じて、姉さんは僕の命令を忠実に遂行するロボットになってくれるんだ。 じゃあ・・・今度はどんな事をやってもらおうかな〜? 僕は姉さんに、今度は更に無茶な命令を送ってみる。 パンツをたくし上げろ・・・ 限界まで上に引っ張り上げるんだ・・・ その姿勢を維持したまま、気にせず料理を続けろ・・・! するとどうだろう? 命令を思い浮かべた途端に、姉さんは片手でフライパンを持ったまま、もう片方の手を自分の後ろに回したんだ。 そしてショートパンツの生地を掴み、グッと力強く、上に引っ張り上げた。 僕の目の前には、短パンをTバックのようにお尻に食い込ませたまま、気にせず料理を続ける姉さんの姿があった。 半ケツ状態で、姉さんが料理をしている。 自分のその格好にまったく疑問を抱いていない。 姉さんの半ケツが、その白い肌が、目に焼きついて離れない。 ううん、こりゃまたエロい・・・! 姉さんがこんな姿で料理をしているなんて・・・母さんが見たら卒倒しそうだよ。 飽きることなく姉さんのお尻を眺め、楽しい妄想を膨らませながら、取りあえず僕は料理の完成を待つ事にした。 「――はい、それじゃあいただきます」 料理がテーブルに並び、食事が始まった。 僕と姉さんは、正面で向かい合いながら座っている。 2人だけの食事。 まるで新婚夫婦みたいだね。へへっ。 (・・・まあ、姉さんの方はなんとも思っていないだろうけどさ) チラリと見ると、姉さんはTVのニュースを見ながらご飯を頬張っている。 僕がどんな気持ちでいるかなんて、これっぽっちも考えていないだろう。 ・・・・・・じゃあ、姉さんを僕と同じ気持ちにさせたらどうなるんだろう? 悪戯心が湧きあがる。 姉さんの横顔を見ながら、僕は頭の中に命令を思い浮かべた。 ――弟の事が可愛く思えてくる。 ――可愛くて可愛くてしょうがない。 ――もう、顔を見ているだけで癒される。 ――どんなイケメン俳優よりも、弟の十郎を眺めているだけで気持ちいい・・・ ――ああ、なんて可愛いんだ・・・! 僕の中にある粘っこい思いをそのままに、姉さんに移してやる。 ・・・変化はすぐに現れた。 箸を持っていた姉さんの手が、ピタリと止まった。 口の中の食べ物をゴクリと飲み込み、 ゆっくりと、 ゆっくりと僕の方を見る。 「・・・・・・」 僕は気付かない振りをし、TVに目を向けている。 しかし姉さんの視線が、いつもとは明らかに違う事を肌で感じていた。 視線が熱い。 母親が可愛い我が子を見るような、そんな視線だ。 「・・・はぁ・・・っ・・・」 微かに、姉さんの口から熱い吐息が漏れた。 箸を置き、頬杖をつくと、じっとりと僕の顔を眺めだす。 そこで僕は、ようやく姉さんの方に顔を向けた。 姉さんは幸せそうに目を細め、うっとりとした表情で笑っている。 「・・・どしたの?」 「ん〜?んふふふふ・・・」 僕の質問にも上の空で、お酒に酔っ払ったような顔でこっちを見詰めている。 「・・・なんか、いいわね・・・」 「え?何が?」 「こうして2人っきりで食事するなんて、どれくらいぶりかしら?」 「さあ・・・考えた事ないから」 「たまには姉弟水入らずってのもいいもんじゃない?」 「そんなもんかねぇ・・・」 無関心な素振りを装い、僕は麦茶を飲み込む。 しかし内心は、笑いが込み上げてくるのを必死になって耐えていた。 ふふふふふ、僕の送り込んだ感情通りに、姉さんが動いている。 ・・・でも、思ったよりはイヤらしくなってないなあ。 ま、それは姉さんが僕みたいなエロエロ坊主じゃないって事だよね。 ――じゃあ、姉さんをエロくしたらどうなるんだろう? 僕は、今や完全に自分のものとなった精神操作の触手の鎌首をもたげさせ、姉さんに侵入させた。 ・・・そうだな・・・ 今のままだと、命令を送ってからそれを実行してくれるまで、姉さんが操られているのかどうか分かりにくいよな・・・ ・・・・・・よし、 じゃあ姉さんと『気の道』が繋がった時に、それが分かる合図を作ろうか? 僕は目を瞑った。 ――姉さん・・・アナタは僕と意識が繋がった瞬間、とても気持ちがよくなる・・・ ――気持ちよくて気持ちよくて、思わず喘ぎ声を上げてしまう・・・ ・・・こんな感じでどうだろう? しかし、このままだと気の道は接続されたままで確認できないから、一度精神を切り離す事にする。 ――姉さんに特に変化は見られない。 わくわくしながら、僕は再び姉さんと意識を繋げた。 「あんっ!」 すると、姉さんは面白いぐらい色っぽい声で喘いでくれた。 仰け反る事でピンと張った鎖骨が、妙にエロく見える。 大成功・・・! 姉さん自身は、僕と意識を繋いでいる実感なんてないハズなのに、気の道が通じただけでちゃんと反応してくれるなんて・・・ やっぱり憑依術はすごいや! 僕は畳みかけるように更に、姉さんに命令を送り込んでやる。 ――弟をからかいたくなる・・・ ――弟を誘惑してみたくなる・・・ ――お前は十郎が大好きだ・・・ ――十郎と、男と女の関係になりたいと思っている・・・ ――さあ、心を開放しろ・・・ ――自分たちが姉弟である事は頭から消し去れ・・・ ――十郎の存在が、お前の全てになるんだ・・・ ――心の奥底に潜む欲望を吐き出せ・・・ ――十郎にお前の魅力を教えてやるんだ・・・ ――恥ずかしがるな・・・ ――何も考えるな・・・ ――ただエッチな気持ちで十郎を見詰めろ・・・ ――たっぷりと、お前の体を見せつけてやれ・・・ ――十郎にさりげなく、セクシーなポーズを披露するんだ・・・! 「・・・ふ・・・あん・・・はぁ・・・」 僕が念を飛ばすと、姉さんはどこかのスイッチが切り替わったみたいにいきなり喘ぎだした。 自分の体を抱き締め、椅子の上でモジモジしている。 心がエッチな気持ちに支配され、それを持て余しているようだ。 くねくねと体を艶かしく動かしながら、姉さんはニヤニヤと妖艶な笑みを浮かべ、僕に熱い視線を注いだ。 さっきまでの慈愛の視線ではない。 これは、アツアツのカップルが恋人に向けるような目付きだ。 「んふ・・・」 髪を掻き揚げ、姉さんは体を前に傾けた。 タンクトップの胸元。 そこから覗く、胸の谷間。 姉さんはそれを、ワザと僕に見えるように強調している。 「ふふ・・・」 今の姉さんの頭の中には、エッチな考えしかない。 だから、普段なら絶対取らないような信じられない行動を、 僕ら男が妄想の中で勝手に膨らませて楽しんでいるようなトンデモない行動を、姉さんは嬉しそうに平気で取ってくれた。 僕がドギマギした顔で胸元に目を向ければ、更に興奮したみたいに大胆に、セクシーな格好を披露する。 まるでうぶな少年をからかう、年上のおねーさんと言った感じで。 僕目掛けて注がれる熱い視線は、明かに男を誘う女のそれだった。 「・・・ねぇ・・・十郎ぉ・・・」 「何?」 酔っ払ったような姉さんの声に、僕は心の中で笑いながら答えた。 「あなた・・・好きな子とかいるの?」 「なんだよいきなり」 「いいから答えなさいよぉ」 姉さんはテーブルに体を押しつけながら、上目遣いで僕を睨んだ。 「ん〜・・・いると言えばいる、かなぁ・・・?」 僕は明後日の方向を見つつ、意地悪な答えを返す。 「ホント?どんな子よ?」 姉さんの目付きが、また変わった。 「別に誰でもいいでしょ?」 「ダ〜メ、ちゃんと答えなさい」 少し怒ったように、姉さんは僕の腕に拳をグリグリと押しつけてきた。 痛い痛い。 明かに姉さん、僕に好きな人がいる事に嫉妬している。 もはや僕が弟だって事を、完全に忘れてるみたいだ。 さっき与えた命令通りに、今やすっかり僕に対して性的感情を抱いている。 まったくもう・・・その好きな相手が、花織姉さん自身だって言うのにねぇ・・・ 「よぉし・・・それじゃあ明日は、その話をたっぷりと聞かせてもらいますからね」 「明日?」 「そ、明日。2人でどこかに出かけましょう」 「2人で?どこに?」 「ん〜・・・そうね、映画なんてどう?」 「映画ぁ?なんでまたイキナリ・・・」 「たまにはいいでしょ〜?決まりだからね、ちゃんと予定空けておきなさいよ」 姉さんは嬉しそうに、そう断言した。 サービスとばかりに、テーブルに押し潰された胸の谷間を僕に見せつけてくる。 本当に幸せそうだ。 ――ふ〜ん、姉さんをエッチにさせると、こんな風になるんだ。 本当は僕をからかう命令だった筈なのに、今やすっかり姉さん自身が、僕に夢中になっているみたいだ。 あっけらかんでさばさばとしていた花織姉さんを、こんな風に変えてしまえるなんてね。 でも、これが本当に姉さんの中に潜んでいた欲望なのかな? 僕の精神操作によって解き放たれたものなの? それにしては、僕が頭の中で想像した通りの行動ばかり取っている気がする。 ひょっとして・・・精神操作ってのは念じた言葉だけじゃなく、頭の中でイメージした『映像』も、相手に植え付ける事が出来るのかもしれない。 どう言う事かって言うと――例えば女の人に、オンライン小説によくあるような男の人格を植え付けるべく命令を送り込んだとする。 この時、只漠然と「お前は今から男になる」と念じちゃうと、その『男性像』は操られた人の中にあるイメージで作られる筈だ。 誰もが想像するような男らしい男のイメージだったり、その人の身近な男性のイメージだったりとね。 でも、そこで術者が『スケベ親父の姿』をイメージしながら男の人格を植え付けたとしたら・・・きっと操られた人はその通り、スケベな中年の人格に変貌させられていると思うんだよね。 つまり精神操作って奴は・・・一語一句命令を言葉で送り込まなくても、頭の中に漠然と広がるイメージをそのまま、相手に植え付ける事が出来るんじゃないだろうか? だから、今の姉さんは隠されていた欲望が開放されたワケじゃなく、僕が妄想した『年下の男をからかうセクシーなおねーさん』的な人格に、性格を作り変えられているのかもしれないんだ。 面白いなあ。 憑依術の精神操作って、意外に奥が深いのかもしれない。 でも――昨日まではどこにでもいるような普通の姉と弟だったのに・・・ 気付けば、肉親の垣根なんて物はあっという間に取り払われてしまった。 これが憑依術の凄さなのか? それとも、人間の心なんてこんなものなのか? 僕が念じるだけで、いとも簡単に人の心を操作できるんだ・・・ 例えそれが、どんな人間の心だろうと。 実の姉弟でさえも、赤の他人に変えられたんだ。 それじゃあこれが親子だったら? それとも逆にいがみ合うもの同士だったら? 愛するものの、その育まれた愛を摘み取る事も・・・ 嫌悪感を抱くものの心に、好意を植え付ける事も・・・ 今の僕には出来る。 簡単に出来るんだ。 言いようのない昂揚感が全身を包み、僕は身悶えしそうになった。 人を支配する快感に浸りつつ、僕は更に姉さんをオモチャにするべく、催眠術ショーによくあるような命令を送り込む事にした。 ――関ヶ原花織・・・ ――今からあなたは何も考えられなくなる・・・ ――何も感じなくなる・・・ ――あなたは意志を持たない人形になる・・・ ――僕が命令するまでは動く事も出来ない、喋ることも出来ない・・・ ――しかし僕の命令を聞けば、たちどころにその命令を実行しなければならない・・・ ――僕の命令は絶対だ・・・ ――僕の命令には、お前はどんな事でも従わなければならない・・・ ――お前は人形だ・・・僕の人形になるのだ・・・! すると、姉さんの瞳から光が消えた。 表情も弛緩していく。 筋肉の緊張も解け、手がダラリと下がり、体が少し傾いた。 全身から、姉さんの力の全てが逃げていったみたいだ。 「姉さん?」 声をかけるてみるが、反応はない。 よし・・・ちゃんと僕の命令は効いているのかな・・・? 「姉さん・・・立て・・・立つんだ・・・」 ――僕の声に対する姉さんの反応は、迅速だった。 学校の朝礼の号令もかくやと言うくらい、素早く姉さんは席から立ち上がった。 まるで体を、見えない糸にでも引っ張られたみたいに。 僕も席を立つと、姉さんのすぐ側に移動した。 顔を覗き込む―― 反応はない。 「姉さん?」 声をかけてみるが、やはり反応はなかった。 目の前で手を振ってみたが、変わりない。 姿勢よく立っているが、その体から意志の力みたいなものはまったく感じられない。 デパートにあるマネキン人形みたいだ。 意志のない姉さんの姿に、僕は益々興奮した。 「姉さん・・・僕の声が聞こえる?」 先ほど姉さんに与えた命令がちゃんと機能しているのか確かめる為、声をかけてみる。 姉さんは表情を失ったまま、コクンと頷いた。 「僕の質問には、「はい」で答えるんだ。分かったね?」 「・・・・・・はい・・・」 姉さんは従順に、抑揚ない声で答えてくれた。 「僕が誰だか分かるかい?」 「・・・じゅうろう・・・わたしの、おとうと・・・」 「違う。僕はお前のご主人様。お前は僕のしもべだ。お前は僕に絶対服従する奴隷なんだ。僕の事は「十郎様」と呼べ。分かったら、ちゃんと返事をしろ。自分と僕の関係を、もう一度声に出して言うんだ」 「はい・・・十郎様・・・アナタは、私のご主人様。私は、アナタのしもべです・・・」 ・・・・・・ はい、十郎様・・・ 『十郎様』、だって・・・! くは〜っ! 姉さんが、弟である僕の事を「様」付けで呼んだよ!? しかもホンモノの人間に、催眠術もののお約束台詞を言わせちゃった! 他人を自由に出来る喜び。 他者を支配下に置く優越感。 僕はたまらなくなり、姉さんの体をギュッと抱き締めた。 意志のない姉さんは、当然抗う素振りすら見せない。 ふふふ、昨日までは姉さんとこんな事が出来るなんて夢にも思わなかったもんな。 髪の毛を触ってみる。 頬を撫でてみる。 姉さんのふっくらとした唇を、指の腹で撫でてみる。 柔らかい。 お風呂上りだから化粧は落としたハズなのに、グロスを塗ったみたいに美しく光っている。 思わずキスしたくなっちゃうなあ。 意志のない人間の顔を弄くり回すなんて、まるで人形でも触っているみたいだけど、この柔らかさは作り物では絶対に有り得ないものだ。 抵抗しない姉さんを前に、僕の悪戯心はビンビンとに刺激され、アソコが爆発しそうになっていた。 鼻息を荒くしながら、姉さんの胸元に手を伸ばしてみる。 タンクトップの上から、柔らかい乳房を持ち上げた。 柔らかくも、それでいて重い感触。 弾力を確認するように、掌全体を使って揉んでみる。 う〜ん、これが姉さんのオッパイの感触なんだ。 ついさっき、お風呂で散々弄くった気もするけど・・・よく考えたら今までは姉さんに乗り移って、姉さんのその手で体を撫で回していたんだモンな。 僕自身がこうして女性の体を触るのは、これがハジメテなんだ。 ――そう思うとなんだか感慨深い。 (・・・まあ、その相手が肉親だって言うのは哀しいけどね) 僕は両手で、姉さんのオッパイを鷲掴みにし、力いっぱい揉みしだいた。 胸を揉むごとに、僕の鼓動もどんどん激しくなってくる。 頭の後ろがカ〜ッと熱くなってきた。 ヤバイヤバイ。 また暴走しそうだ・・・ が、我慢しなくちゃ! 僕と花織姉さんは家族なんだから・・・ 勝手に体を操ってはいるけれど、それはあくまで『悪戯』レベル。 この後の家族関係までは粉々にできないっての! 悪戯――そう、悪戯だ。 あくまで僕のやっている事は悪戯なんだ。 ガチで姉さんを犯してどうするんだよ! しっかりしろ十郎。 お前はそんなに姉さんとエッチしたいのか? 違うだろう! 確かに今の姉さんなら僕が命令するだけで、 例え相手が弟だろうと喜んでエッチでも何でもしてくれるだろうけどさ・・・ 最後の防波堤は守らないと。 僕が興奮しているのは、あくまで人を操る楽しさに対してだ。 姉さん個人に対してじゃない。 絶対ない。 今は訓練。 相手を操る訓練でもあり、僕自身の精神の強化だって目的なんだ。 興奮しても、それをすぐに冷却できるような境地に辿りつかないと! 逸る気持ちをどうにか押さえつけ、僕は自己暗示をかけるように冷静な気持ちを維持しながら、精神操作の訓練を続けた。 ・・・様々なシチュエーションを試してみる事にする。 僕らの関係を新婚夫婦に錯覚させ、ご飯を食べさせてもらったり―― 服を脱がせ、裸で食器を洗わせたり―― 風呂場で背中を流してもらったり―― 僕はたっぷりと、姉さんを操る事を満喫した。 そんな事を続けていると次第に姉さんの事が生身の人間ではなく、只の人形に思えてきて、僕の心が只々人を操る楽しさだけに満たされていった。 よしよし、いい感じだ。 この気持ちを維持していれば、暴走する危険もないだろう。 姉さんに対しては、あくまでもモルモットだと思って接しないと。 ――気付けば時間はあっという間に過ぎ去り、真夜中になってしまった。 一通りの精神操作に満足した僕は、取りあえず訓練を終了させる事にした。 体を休める為に自分の部屋に戻り、ベッドに寝そべる。 ふう・・・結構疲れたなあ。 まあ、普段の何倍も神経を消耗したんだから仕方がない。 でも、これはこれで心地良い疲労だ。 姉さんの意識は、すでに元に戻してある。 今は隣りの部屋で休んでいるだろう。 ――どうしよう、今日の訓練はこれで終わりにしようか? ・・・・・いや・・・まだだ。 まだ物足りない。 僕の中の『獣』が、まだ腹を空かせている。 僕はゆっくりと、目を瞑った。 本日最後の実験は、少し趣向を変えてみよう。 ・・・さっきは姉さんの意識に命令だけを送り込んだ。 じゃあ今度は、姉さんと意識を同調させながら、そのまま体を操ってみようか? 姉さんに半分乗り移り、あえて呪文を唱えて完全に意識を乗っ取ることはせずに、中から姉さんを操ってみる―― つまり姉さんの中で、姉さんの視点で、操られる姉さんの姿を観察してみるんだ! 自分の思いつきに満足した僕は、すぐに姉さんの姿を頭に思い浮かべた。 今や一瞬で気の道は繋がり、姉さんと僕は一心同体となれる。 いつものように周囲に広がる、暖かい感覚。 ふふふ、こうしてベッドに寝っ転がったまま精神操作ってのも楽でいいなあ。 精神を集中するのに、かなり楽だ。 リラックスした姿勢で、僕の意識は姉さんの中に浸透していった。 さて・・・気の道を繋げるだけなら、慣れた今なら離れていても簡単に出来るけど・・・精神操作の方はどうなんだろう? 千里眼で観察すると、姉さんはどうやら髪を梳いているらしく、化粧台に座っている。 僕は取りあえず、姉さんをこっちの部屋へ呼ぶ事にした。 ――寝る前に、弟の顔が見たくなる・・・ 念を送り込むや、姉さんは目を瞬かせ、一度僕の部屋の方を振り向いた。 櫛を手に持ったまま、鏡を見詰めてなにやら考えている。 今送り込んだ命令を実行しようかどうか、迷っているみたいだ。 姉さん自身が鏡を見ているから、こうして離れていても表情が確認できるんでありがたい。 僕は更に、姉さん目掛けて念を飛ばした。 ――十郎の顔がみたい。 ――今すぐ可愛い十郎の顔を見にいきたい・・・! ――ほらほら、十郎の寝顔を見ない事には、居ても立ってもいられなくなる・・・! 僕が頭の中で精神操作の言葉を思い浮かべるごとに、見る見る姉さんの頬がうっすらと赤く染まってきた。 再び欲情した女の顔に変わっていく。 よし・・・計画通り、今度は姉さんを操りながら、僕自身も意識を姉さんの中に残留させつつ、その行動を観察してみよう。 目を瞑ったまま、更に念を頭の中で増幅させる。 ――さあ立って・・・ 櫛を置き、姉さんは化粧台から立ちあがった。 ――十郎の部屋へ行こう。 クルリと視点が変わり、姉さんは移動を始めた。 うお、ちょっとビックリ。 自分自身はベッドの上に寝そべっているのに、視界だけが勝手にグルグルと動き出した。 なんだか勝手に体が動いてるみたいで、少し気持ち悪い。 姉さんの体の中に入り込んでいると言うか、これじゃあまるで画面の動きに合わせて動くアトラクションにでも乗っているみたいだ。 目の前の風景に合わせて、ベッドの上で自分の体も思わず動き出しそうになる。 う〜ん、変な気分だなあ。 姉さんは廊下に出ると、ゆっくりとした歩き方で、僕の部屋へとやって来た。 部屋のドアも、音が鳴らないようにゆっくりと慎重に開く。 すでに部屋の電気は消していたので中は真っ暗だった。 暗闇の中、姉さんは必死に目を凝らしているようだ。 しばらくすると、ベッドで寝ている僕の体がどうにか確認できるようになった。 ・・・不思議だよな・・・ 昼間も同じような事をしたけれど、あの時は姉さんに乗り移っていた。 でも、今は僕の精神はまだ僕自身の体から切り離していない。 それなのに、こうして他人の視点で自分の姿を見ているんだ。 TVのカメラが寄るように、どんどん目の前に僕の体が近づいてきた。 姉さんが、僕のすぐ側にやって来たんだ。 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」 必死に気配を殺そうとする姉さんの息遣いが、聞こえてくる。 そう、これは僕自身の耳に聞こえてくる、姉さんが発する音なんだ。 本来なら、姉さんと意識を同調したままでは姉さんが見た物が見えるだけで、姉さんの発する音なんかは聞こえる筈がない。 でも、今は僕の体がすぐ近くにあるから、姉さんが発する音や口から漏れる声も聞こえるってワケだ。 それじゃあ・・・姉さんに僕の体を触らせたら、どう感じるんだろう? ――十郎の唇を見ろ・・・ ゆっくりと姉さんの視点が、僕の顔に移った。 ――キスをしたくなる・・・ ――十郎のあの唇に、キスをしたくなる・・・! 側まで近づいた姉さんの視点が、僕を見下ろすアングルになった。 姉さんの手が持ちあがり、僕の顔に掛かる。 姉さんの細く柔らかい指が、僕の唇をくすぐる。 それと同時に、自分の唇にくすぐったい感覚が生まれた。 その感覚に驚く暇もなく、見る見る僕の顔がアップになった。 ぶつかる!と思った瞬間、唇に広がる熱い感触。 姉さんが僕に――キスをしたんだ! 口内に甘い味が広がる。 うわあ・・・僕は今、姉さんとキスをしているんだ! 見た目には自分にキスしているだけだから気持ち悪いけど、唇に触れる柔らかい感触は姉さんの唇。 僕は姉さんとして僕にキスをしながら、姉さんにキスをされているんだ。 本当に不思議だよ。 姉さんを操り、僕に触った所でその触れた感触を僕が共有する事は出来ない。 僕が今受けている感覚は、あくまで姉さんが「触った」感触ではなく、姉さんに「触られた」感触なんだ。 例えば、このまま僕の腕をつねった所で、痛みは僕に返ってくるんだよね。 ・・・何だか自分の五感が、無茶苦茶になったみたいだよ。 それにしても・・・姉さんのキスは気持ちいいなあ・・・! 頭がボ〜ッとなってきた。 夢みたいだけど・・・これは夢じゃない、現実だ。 あの花織姉さんが、本当に自分から僕にキスをしているんだ・・・! 興奮で、僕のアソコが勃起してきた。 ああ、駄目だ。 もう、我慢できない・・・! 今すぐにでもオナニーしたい! でも、折角側に操り人形となった姉さんがいるんだ。 それを利用しない手はない。 僕は姉さんが昂ぶらせた性欲の捌け口を、姉さん自身に発散してもらう事にした。 ――十郎のアソコを触ってみろ・・・ 貪欲に僕の唇を貪る姉さんに、更なる獲物を与えてやる。 姉さんはキスを止めると、僕の下半身に注目した。 左手を恐る恐る、僕の股間へと伸ばす。 しかしやはりまだ躊躇があるらしく、中々触ろうとしてくれなかった。 ――見ろ、十郎のアソコが頂きを高くしている・・・ ――あれが硬く、大きくなればなるほど、お前は嬉しい・・・ ――さあ、お前自身の手で、あれを扱くのだ・・・! ・・・仕方がないので、最後の抵抗を外してやる。 すると、姉さんの手の震えが止まり、自然な動作で膨らんだ僕の股間にそっとあてがわれた。 同時に、僕の股間が何かに包まれた感触。 姉さんはゆっくりと、勃起した僕の股間を上下に擦り始めた。 うおお、気持ちいい・・・・・・!! なんとか寝たふりをしたまま、姉さんの動きに身を任せる。 いや、別に起きた所で姉さんの意識は僕が支配しているから気にする必要もないんだけど、今はこのシチュエーションを楽しみたかった。 花織姉さん――こんな状況でこんな事をした経験なんて、今まで一度だってないだろう。 そんな姉さんに、弟のイチモツを扱かせているんだ。 僕の意志で、しかし姉さんの綺麗な掌に包まれる僕の股間。 これで興奮しない方がどうかしているよ。 最初はぎこちなかった姉さんの動きも、次第に激しく、イヤらしくなってきた。 姉さん自身も興奮してきたようで、今や僕の顔に姉さんの熱い吐息がかかっている。 今、姉さんはどんな顔をしているんだろう? 目を開ければそれも確認できるが、僕はあえて精神集中を解かず、姉さんの中でこの状況を楽しむ。 姉さんはと言えば、命令したワケでもないのに勝手に僕の口に舌を入れ、ディープキスを始めた。 僕の舌を求めながら、必死に左手を動かしている。 姉さんの口と手が生み出す刺激。 鼻腔をくすぐる姉さんの匂い。 心臓を高鳴らせる姉さんの喘ぎ声。 す、凄すぎる。 気持ちよさと、精神操作の板ばさみで、気が狂いそうだ。 げ、限界だよ・・・・・・!! たまらず僕は、極限まで高まったものをパンツの中に放出してしまった。 同時に、あまりの気持ちよさに精神集中を解いてしまう。 「――くはっ!」 息を吐き出し、目を開く。 薄暗い部屋の天井が、目に飛び込んできた。 視界の隅には、取り憑かれた様な顔の姉さんがいる。 意識の接続が途切れたんだ。 ハア・・・ハア・・・ハア・・・ ・・・・・・す、凄かったあ・・・・・・! 一頻り――余韻を楽しむ。 こんなに気持ちいいのは・・・ハジメテだ。 これじゃあ今までのオナニーなんて、只の子供だましだよ。 脳味噌が吹っ飛ぶかと思った。 僕は姉さんと意識を繋げながら・・・『男』として果てたんだ。 女の中で――男として。 ふふふ、ある意味すごい事だよね、これって。 しかしなんだかアソコが痛い。 見ると、姉さんはまだ僕の股間を必死に擦り続けていた。 イテテテテ! ちょ、ちょっと待ってよ姉さん。 これ以上はキツイって・・・! 姉さんの指テクでアソコはすぐにムクムクと復活してきたけれど、そう続けざまじゃあ僕の体力が持たない。 でも姉さんは、そんな事はおかまいなしで只手だけをシコシコと、機械のように動かしていた。 どうやら、僕との意識の同調は途切れたけど、先ほど与えた命令はまだ機能しているらしい。 僕が止めろと言わなければ、姉さんは止めないってワケか。 ・・・仕方ない。 痛みに耐えながら、もう一度姉さんに気の道を侵入させる。 「んあっ!」 意識が繋がった合図を、すぐに姉さんが教てくれた。 僕はすぐに姉さんの意識を操作し、動きを止めさせる。 ――止めろ。 ――動きを止めろ。 ――手を止めて、気持ちを落ち着けるんだ・・・! 僕の呼びかけで、姉さんはようやく股間から手を離した。 ・・・・・・ふう、助かった。 あのまま続けられてたら、ミイラになっちゃうとこだったよ。 姉さんは憑き物が落ちたような顔で、ボーっと中空を見詰めている。 と、頭が下がり、自分の体を眺めだした。 ・・・ん? なんか様子が・・・ 「・・・え・・・あれ・・・?アタシ、何を・・・」 ゲ!?やばい! 姉さんの様子が・・・普通だ! さっき命令を取り消したから、正気に戻っちゃったんだ! この状況で元に戻られたら一大事だっての! ――関ヶ原花織・・・人形になれ・・・人形になるんだ・・・! 僕はすぐに、姉さんを操り人形へと変えた。 姉さんの瞳から光が消え、首がダラリと垂れ下がる。 なんとか倒れ込まずに、姉さんの体はベッドの横に膝を突いた状態で、動かなくなった。 ・・・・ふう・・・・・・焦った。 あのまま姉さんが意識を取り戻していたらどうなっていた? 自分がやっていた事を、そして僕がやらせていた事を知ったら・・・ 想像するだけで、背筋が震える。 いくら記憶を操作出来るからって、僕のやっていた事を知りショックを受ける姉さんの顔なんて見たくない。 ――マネキンのように動かない姉さんを見上げ、僕は身近な人間操る危険性を、身に染みて思い知った。 取りあえずベッドから立ちあがり、深呼吸する。 ・・・パンツの中がヌラヌラしていて気持ちが悪い。 ひとまず着替えようか? 僕は人形となった姉さんを部屋に残したまま、一階に降り、シミの付いてしまったパンツを洗濯機の中に放り込んできた。 部屋へ戻り、パンツを履き返る。 そして、気持ちを落ち着けた所で再度、姉さんの姿を確認した。 さっきからピクリとも動いていない。 表情も能面のように固まっている。 ついさっきまで僕の股間を扱いていた手を持ち上げて観察すると、指の辺りがヌラヌラと粘つく液で濡れていた。 このままこれを嘗めろと命令すれば、姉さんは喜んで犬のように嘗めるんだろうな・・・ ・・・ごくん。 しかし、姉さんを操るのはもう十分だ。 今やこの人は、僕の思い通りに何でもしてくれる。 ――精神操作の訓練も大成功ってワケだ。 ・・・これで僕の精神力は大分強化されたのかな? 今、姉さんに乗り移ったとしたら――僕はどの位の間乗り移り続けていられるんだろう? そうだ・・・折角だから試してみようか! 今日一日の訓練の成果だ。 取りあえず僕は、姉さんを部屋へ帰らせる事にした。 ――自分の部屋へ戻れ・・・ ――部屋へ戻ると、お前は正気に返る。 ――そのままお前は、なんの疑問も持たずにベッドに入り、眠りにつくんだ・・・! 姉さんはすぐに、でもいつもからは考えられない愚鈍な動きで、のろのろと僕の部屋から出て行った。 時間はすでに、深夜1時を回ろうとしている。 しかしこのままでは眠れない。 体も心も昂ぶっていて、とてもじゃないけど寝る事なんて出来やしない。 今日の訓練はまだ終わりじゃないんだ・・・ 最後の最後に――僕の今のレベルを確かめなくっちゃね! 今朝までの僕は憑依術を使った所で、他人には1時間足らずしか乗り移る事が出来なかった・・・ でも、今では何度も姉さんに乗り移る事によってその時間を伸ばす事に成功し、『千里眼』や『精神操作』と言ったスキルまでも身に付けたんだ。 僕は成長している―― 僕は近づいているんだ―― チャー先生のような、一人前の立派な憑依術使いに! それを証明する為にも・・・ 本日のメインイベントとして、姉さんに完全に乗り移ってやるんだ! そう、今度こそ姉さんと、身も心も一つになるのさ・・・ニヒッ♪ 僕はベッドに腰掛け、姉さんの部屋がある壁を、じっと睨みつけた。 姉さん・・・ 花織姉さん・・・ 今、行くよ・・・・・・! ニヤニヤと笑いながら、右手を持ち上げる―― 指を二本立て、鼻に挿入する―― そして僕は――いつもの呪文を唱えたんだ。 「サトちゃん・・・・・・・・ぺ」 (つづく) |
考察〜精神操作について みなさんこんにちは、チャー・佐藤です。 今回登場した精神操作は、いかがでしたでしょうか? 十郎君も、一端の催眠術師のようでしたね。 本編の中でも説明のあった『気の道』は、術者とターゲットをつなぐ精神の通り道、意識を操る為のケーブルです。 憑依術者の腕が上がるほど、気の道の長さも伸びます。 遠く離れた相手の体に乗り移る事も、相手の精神を操作して自分の傍へ呼び寄せる事も思いのまま。 精神操作を訓練すれば、憑依術の新しい面白さが皆さんの前に開かれるでしょう。 ぜひ、鍛錬に励んでください。 それでは。 チャー・佐藤 ・本作品はフィクションであり、実際の人物、団体とは一切関係ありません。 ・当作品の著作権は作者が有するものであり、無断に複製、転載する事はご遠慮下さい。 ・本作品に対するご意見、ご要望があれば、true009@mail.goo.ne.jpまでお願いします。 |