小売業界で圧倒的な収益力を誇るセブン-イレブン・ジャパン。その創業者で、同社を傘下に置くセブン&アイ・ホールディングスのトップも務めるのが鈴木敏文会長だ。強烈なリーダーシップで君臨するカリスマに聞くグループの針路とは。
鈴木会長がリアルとインターネットを含めた様々な販路を連携させるオムニチャネル戦略というキーワードに注目したのはなぜですか。
鈴木:私は、10年以上前から、ネットとリアルの融合ということを、社内で言い続けてきました。まだ、どこでもそんなことが言われてなかった時から、必ず、そういう時代が来ると、感じていたからです。セブン&アイは、コンビニから百貨店まで、様々な業態を持っており、シナジー効果を出すということを考えていかなければならないと思っていた。そごう・西武と統合した時も、マスコミのみなさんから、スーパーと百貨店とコンビニがくっついても、どうにもならないんじゃないか、シナジー効果なんて出せないんじゃないかということを、相当言われました。その当時から、私は、従来の百貨店のあり方、スーパーのあり方など、従来の業態のあり方がなくなるのではないかということをひしひしと感じていました。
その中で、私が具体的に、グループに指示したのは、PB(プライベートブランド)の「セブンプレミアム」を開発すること。この取り組みを始める時も、百貨店の連中は、スーパーやコンビニで売るものを、なぜ百貨店で売らなくてならないのかと反発しました。コンビニも、スーパーで売るような値段を下げて売る商品を、なぜコンビニで売らなくてはならないのか。スーパーも、自分たちが適宜に、価格を調整することによって、売り上げ、利益を稼ぐビジネスなのになぜなのかといった反応でした。
それぞれの業態の特性を無視するような取り組みなので、関係者が反発するのは当然だったのかもしれません。
鈴木:業態に関係なく、同じ価格で全部売れといっても無理だと、三社三様に、反対していました。そこで私は、一喝して、どこでも売れる商品を作れと言いました。それは、質の高いPBを作るということです。それで各社が渋々取り組んだところ、結果、どの業態でも、同じ価格で販売し、非常に売れている。モノによっては、値下げしたNB商品よりも売れているのが実態です。「金の食パン」は、通常の商品の倍近く高いものでも、ヒット商品として売れている。
これまでの自分たちがもっている業態の壁というものを破れば、できないことはないんだという感覚を、みんなが何となく持つことができました。グループで何かをやろうといった時に、かつてのように、業態別の自分を守るための反抗というのはなくなってきた。業態の枠を超えたシナジーは実現できないわけじゃないんだという意識が、論理的ではないが、感覚的に広がってきました。
当時、私は、(オムニチャネルという)言葉こそ知りませんでしたが、ネットとリアルを融合させればいいじゃないかと思いました。それで、グループのみんなを納得させるいい言葉がないかなあと思っていたところに、たまたま米百貨店大手のメーシーズなどが取り組んでいたこともあり、オムニチャネルという言葉が耳に入ってきた。
だから昨年9月に、グループ各社のトップと幹部など50人を、1週間米国に送り出し、視察をさせ、現地の企業の取り組みを学ばせました。話をする中で、米国企業の関係者から「グループで、1万7000店以上の様々な業態の違う店舗を持っているのはすごい。オムニをやる価値はある。世界一になれる」というようなことを言われたようです。そういうことが彼らの意欲を大いにかき立て、いよいよ自分たちもこのオムニに取り組む価値があるという雰囲気になり、スタートラインに立てたということです。