“禁断の設定”を開放!?――パイオニアが投入したUSB-DAC「U-05」のマニアック度
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「U-05」は、「USB-DAC内蔵ヘッドフォンアンプ」ではなく、「ヘッドフォンアンプ内蔵USB-DAC」をうたっている。まず、その理由をたずねると、「パイオニアはUSB-DACメーカーとしては最後発になりますが、AVアンプや単品ステレオアンプでDAC周辺のノウハウを蓄積してきました。2012年の『A-70』で初めてESSのDACを採用し、『SC-LX87』でマルチチャンネルのAVアンプに展開するなど、開発期間を含めると丸3年ほどになります」という。その技術を活かした製品だからUSB-DACをメインにしたわけだ。
蓄積したノウハウとは、主にマルチチャンネルDACの使い方に関する部分。「A-70」に採用した「ES9011」、「LX87」の「ES9016」はともに8ch DACだった。今回の「U-05」でも「ES9016」を2基搭載し、左右それぞれを8chパラレル駆動という、ぜいたくな仕様になっている。開発中にはハイエンドの「ES9018」を使うことも検討したが、「ES9018を1基で使うより、ES9016の2基使いにするほうが、これまでの技術が活かせる」と判断したという。
「パラレル駆動にする理由はS/Nの向上です。8ch DACを1chに使用する場合、信号レベルの上限が8倍に増える一方、ノイズは“ルート8倍”の計算となり、実質2.6倍です。相対的にS/Nが良くなる仕組みです」(同氏)。
「U-05」は最大384kHz/32bitのPCM音源とDSD 5.6MHzをサポートし、ASIOドライバーによるDSDネイティブ再生が可能だ。もちろん内蔵クロック回路で伝送を制御するアシンクロナス転送でジッターを低減。さらにヘッドフォンアンプ部は、ディスクリート回路で構成し、DACからヘッドフォン/ライン出力に至るアナログ伝送部はフルバランス方式とした。ヘッドフォン出力には標準ジャック(アンバランス)のほかにXLR3、XLR4という2つのバランス出力を設けている。
「このクラスの製品になると、大型ヘッドフォンがターゲットになります。4芯のXLR4、L./RタイプのXLR3の両方をサポートしておけば、そうしたユーザーのニーズに対応できます」。
●こだわりのデザイン
シルバーの筐体(きょうたい)は制振性の高い低重心設計で、前面から天面にかけてはアルミニウム板をL字にして使用している。このためネジ穴などはない。また側面にもアルミ素材を用い、シンプルながらも高級感のあるデザインに仕上げた。
また田口氏によると、「U-05」のボディーサイズは「トランスありき」で決められたという。電源トランスは、EIトランスを黒いシールドで覆い、中にエポキシ樹脂を充填したもの。「A-70」の時に開発した制振性に優れたトランスだ。
メインボリュームとは別に設けられた「FINE ADJUSTボリューム」もユニークだ。メインボリュームでおおよその音量を決め、その後で微調整が行えるというもので、「音が小さいときほど細かく調整できて便利」だという。
前面のディスプレイは再生楽曲のサンプリング周波数とビット数まで表示する。もちろん、ノイズが気になる場合はオフにすることも可能だ。
入力は6系統。PCを接続するUSB-Bのほか、同軸×2、光デジタル×2、AES/EBUを用意した。またボリューム連動/固定を選択できるアナログ出力も2系統(XLR、RCA)装備しており、プリアンプとしても利用できる。
また、「U-05」はネットワークオーディオ機能こそ搭載していないものの、同社製ネットワークプレーヤー「N-50」との相性は良いという。「N-50とならバランス接続ができます。またN-50にはヘッドフォン端子が付いていないため、システムとしてアップグレードできると思います」(同氏)
●禁断の設定(?)をユーザーに開放
田口氏によると、U-05の大きな特徴が、ユーザー自身で好みの音に調整できる3つの機能だという。まず「デジタルフィルター」は、ESS DACがもともと持っている機能で、ESSが開発した「SLOW」「SHARP」、およびパイオニア独自の「SHORT」から選択できる。標準では解像感の高い「SHARP」となっていて、リモコンのボタン操作で簡単に変更できる。
2つめは、アップサンプリングとビット拡張を行う「オーディオスケーラー」機能だ。基本的にはAVアンプからの流用だが、DSPは384kHzまで対応できるものに変更されている。設定は「Hi」「Low」「OFF」の3段階。また、逆に楽曲の信号を忠実に再現する「DIRECT」モードも設け、ユーザーの好みで選択できるようにした。
最後は「ロックレンジアジャスト」機能。これもDACチップがもともと持っている機能の1つだが、通常はユーザーに開放されることはない。なぜなら、ロックレンジを狭めるとUSB伝送時のジッターノイズが減り、「音が締まってくる」ものの、あるレベルを超えるとロックが外れ、“音切れ”が発生してしまうからだ。音切れの発生は製品の信頼性に直結するため、一般的には十分に余裕を持ったロックレンジを設定する。
しかし、ロックレンジを狭めることによる音の変化は、実際に試して見るとかなり魅力的だ。そこでパイオニアは、通常設定として4段階のロックレンジ設定を設けてユーザーに開放。さらに“裏モード”ではないが、リモコンのボタンを5秒以上長押しすることで移行できる“上級者モード”まで用意した。上級者モードにすると、7段階のロックレンジ設定が可能だ。
「おすすめは、楽曲を再生しながら1段階ずつロックレンジを狭めていき、音切れが発生したら1つ戻ること。昔、カセットテープで録音レベルを調整したように、ぎりぎりの線を見極める楽しさがあります」(同氏)。
U-05の価格は10万5000円。同社では6月17日(火)より東京・銀座にあるショールーム「パイオニア プラザ銀座」に「U-05」を先行展示する予定だ。
また、ヘッドフォン販売のフジヤエービックは「U-05」の試聴会を6月22日(日)に開催すると発表している。場所は、ヘッドフォン祭でもおなじみの中野サンプラザで、開場時間は11時30分から15時まで。参加は無料だ。詳細は同社の告知ページを参照してほしい。
[芹澤隆徳,ITmedia]