すこし前までは原宿系の個性的なファッションが奇抜だとまとめサイトでネタにされておりましたが、 今はゆるふわ女子大生ファッションが量産型だと面白がられています。
女子大生のファッションが見分けがつかない程似ているのは今に始まったことではなく、 例えばエビちゃんブーム時の量産系は「小エビ」といじられておりました。 海老で鯛(イケメン・お金持ち)を釣る的な。
にも関わらず、今また没個性(量産型)が度々話題になっているということは、 それだけ目につく機会が多いということであり、 トレンドが原宿系から量産系へとシフトしたのでしょう。没個性のターンです。
もう少し長い目で見ると。ショッピングセンターに行けばどこも似たり寄ったりのテナントが並び、ショップに入れば売れ筋の同じような商品が置いてある(00年代後半から顕著ですね)。結果、似たようなファッションスタイルが街に量産されるわけですが、そこにタイミングよく投下されたのが日経MJ6月2日号の「イオン女子」です。
■「イオン女子」と「イオニスト」という造語が登場
ファッション消費が開花する年代、女子大生。その物欲を満たす「聖地」として存在感を増しているのが、 巨大ショッピングセンター(SC)のイオンモールだ。 最大の魅力はあれこれと比較することが可能な店数の多さ。 特定のテイストやブランドにこだわらない彼女たちは、 仲間内で共感する手ごろな服や雑貨を選びに選び抜く。 日本が脱デフレを果たしても、当面のファッションリーダーは こんな「イオン女子」が担いそうだ。
イオンのオリジナルブランドを買うからイオン女子ではなく、 イオンモールで買い物をするからイオン女子。ブランド、 背伸びとは無縁に近く、ショップへの執着も薄い。 重視しているのは友達のファッションとの調和だと日経MJの記事では紹介されています。
このイオンモールに限らず、ファッション業界では服が一番 売れる場所としてショッピングセンターが注目されており、 WWD5月19日号では「SC新時代」と特集が組まれています。
詳細はWWDをお読みいただきたいとして、特集では「イオニスト」と「ららぽーたー」という造語が登場。 「イオニスト」を3世代でコト消費、地元大好きファミリー、「ららぽーたー」をのんびりと買い物、 お洒落カップルとしその生態をレポートしています。
食品から衣類までイオンのプライベート・ブランドを利用し、 日頃の買い物はもちろん、休日も家族揃って過ごす「イオニスト」。 主な来館者は2人以上の子供を持った家族で、広い館内に設置された ベビーカーや大きなソファを、1日回遊するマストアイテムとして使いこなしている。 また、多数の体験型ショップやイベントを利用するおじいちゃんと おばあちゃん連れの3世代家族も多い。動きやすいななめバッグやスニーカーを愛用する。
残念ながら「マイルドヤンキー」の話は出てきませんでした。 ギャルを卒業したママ世代に向けた業態が急増しているという指摘があったくらい。
■「イオン女子」は昨年から流れがきていた
「イオンモールがお洒落!?イオン女子がファッションリーダー?」と 衝撃を受けた人も多いかと思います。私も一年前にその道を通りました。
女性誌mina2013年7月号「この夏、日本中でリアルに流行っていることNews5」の 1つにイオンモールが挙げられていたのです。パンケーキ、スニーカー、 ベースボールキャップ(どれも大ヒット)と同列にイオンモールです。
全国のおしゃれガールは今、イオンモールに夢中!minaの定番ブランドのショップはもちろん、 話題のファストファッションや雑貨ショップ、カフェの充実度もハンパない!との噂。 スナップ常連読モも地元のイオンモールを愛用中!
今月号のminaに「イオンモールがオシャレで人気」みたいなことが書いてあり衝撃を受けた。ファッション誌がイオンモール!?と思ったけど、今はイオンモールが昔の百貨店に当たるのかな。それともこれもリアルクローズ志向の表れか。東京のオシャレな街なんてもはや幻想なのかもね。
— Elastic (@Elasticdale) 2013, 7月 25
ツイッターで感想を述べずにはいられないほど驚きました。
で、この年に他に何があったのかと振り返ると、黒髪ブーム、ぷに子(ぽっちゃり系)、 ギャルの清楚化宣言、シンプル・ナチュラル系の好調(例:in red)などが女性誌で話題になりました。 皆さん覚えていますか?
今年はイオン女子と量産型女子大生がキーワードです。 ここで線が繋がりました。この流れはノームコアで説明がつきそうだなと。 今話題のノームコアにこじつけて記事にしようと思い立ったわけです(笑)
■ノームコアとイオン女子
「ノームコア」とは「ノーマル」と「ハードコア」を組み合わせた造語で、 「究極の普通」という意味です。トレンド予測集団K-holeが提唱し、 今年の2月に『New York Magazine』で紹介されました。
それが日本に入ってきたのが春先。現在、お洒落な人たちが俺的・私的ノームコア論を展開しており、 今ファッション界で最も熱く香ばしいキーワードになっております。
「究極の普通」というバズワードのため、「普通」に関する解釈だけでも、 シンプル、ミニマム、クラシック、スタンダード、ベーシック、オーセンティック、 プレーン、普段着、没個性など多岐にわたります。具体的なイメージだと、 あえてダサい格好をするのがノームコア、スティーブ・ジョブスがロールモデル、 NBを履くような本物志向な人、モードへのアンチテーゼ、 ファッションマニアがやる一般人のコスプレ、快適さを重視した気取らない格好、 シティーボーイの延長、と収集がつかない状態で私も全てを追い切れてはいませんし、 正確に理解もできておりません。「究極の普通」がどのような形で流行るのか ウォッチしている段階です。
上記のような独り歩きをしているノームコアではなく、 原義の概念や図の解説については原文(PDF)を読んでいただきたいとして、 ノームコアの「普通」とは「気取らない大衆的な格好」くらいで私は解釈しています。 K-holeのレポートにも「普通などない」と書いてありますので。
もう少しノームコアに関するポイントを挙げておくと、
・ショッピングモールで買ったような服(ブランドや本物らしさにこだわらない)
・コア(≒特化したライフスタイル、しっかりとした価値観やバックボーン)を持っている
・あえて「sameness(同一性)」を選ぶ(差異化ゲームによるお洒落の否定)
・ファッション界のインサイダー、お洒落に敏感な層がやり出した
これがただの普通とは違うところ。「普通」を意図しながら ディテールや素材にこだわりそこで大衆と差異化を図るタイプはActing Basic、 コアを持たない人が「普通」の格好を目指せばそれはただの普通、 コアを持つ人があえて大衆に埋もれるような格好をするとノームコア。 そこに目を付けたのがファッション界のインサイダー、 いつも通りトップダウンのトレンド構造です。
これをイオン女子に当てはめると、
・ショッピングモールで買ったような服⇒イオンモールで買った服
・sameness⇒友達のファッションとの調和を重視
・お洒落に敏感な人々がやり出した⇒スナップ常連読モもイオンモール
コアを持っているかどうかは見分けがつかないので、 目の前の「イオン女子」がノームコアかどうかは判別がつきませんが、 これが「清楚ギャル」だとピタリと当てはまります。
トレンド感度が高いクラスターであるギャルもイオンモールを愛用しており(将来の量産型女子大生候補)、清楚メイク・黒髪で同一性重視、ギャルマインドというコアを持っています。見た目は一般的な女子高生とそう変わりません。
そう考えると、2013年には普通(シンプル・ナチュラル)、同一性(量産系の増殖)、 気取らない(頑張り過ぎない)というノームコア的な流れがぼんやりときており、 それを「イオン女子」というキーワードで切り取ったのが日本だと言えます。
共有と共感を重視する世の中になりつつあるので、 見た目の個性を競い合って差異化ゲームに勤しむよりも個性をあえて消し 格好を画一化することで他人と繋がりやすくする。ノームコアにはこのような背景があり、 それが目に見える形で現れたのが量産型女子大生ではないでしょうか。