一迅社文庫編集M木のブログ

一迅社文庫編集M木のブログです。

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編集のM木です。今回の記事は余談の方が本題より長いです。
今日は20日発売の『不本意ながらも魔法使い〈ソーサラー〉』特典情報など!

ゲーマーズさまでは、購入特典として書き下ろしブロマイドがついてきます。

また、紀伊國屋書店新宿本店、別館「フォレスト」にてサイン本の販売も行われます。

明日発売の『不本意ながらも魔法使い〈ソーサラー〉』をよろしくお願いいたします!


余談ですが、前回の記事をみた知り合いから「お前が書け」という罵声を多数投げられたため、自分が在学中に見聞きした『新入会員にオススメしたけど読んでもらえなかった傑作10冊』をリストアップしました。

〈ぴよぴよキングダム〉シリーズ(既刊三巻)
いきなり他社さんのシリーズから入ります。
青春どたばたラブストーリーではじまり、幻想文学に潜り込んだと思えばスペキュレイティブ・フィクションで思索を広げ、最後はスラップスティックに落とし込む。最後のほうでのイメージの豊饒さがとんでもないことになっているシリーズです。
とてもおもしろい作品なのですが、これが新入生に読んでもらえなかったのは勧めた本人も持っていなかったからでした。
ぴよぴよキングダム (MF文庫J)/メディアファクトリー

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ぴよぴよキングダム〈2〉ときのしおり (MF文庫J)/メディアファクトリー

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ぴよぴよキングダム〈3〉あかりの国のあかり (MF文庫J)/メディアファクトリー

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『正常小説』
ライトノベル作家さんたちによる短編アンソロジーです。橘ぱんさんや森田季節さん、十文字青さん、大樹連司さんに日日日さん、愛上陸さんなどが執筆しております。
自分が勧めても誰も読まなかったのに、大学を卒業した先輩がつぶやいた
「大樹連司「劇画・セカイ系」はセカイ系に思い入れのあるやつは絶対読め。「イリヤが空に帰って十五年後ふたたび浅羽の元に戻ってきたらどうなるか」というif。セカイ系へのアンサーのひとつ」
というコメントをきっかけにみんなが嬉々として読みはじめたときはこいつら琵琶湖に沈めたろかと思いました。

『素晴らしき日々 ~不連続存在~』
2012年の7月に世界が滅びる――学校に蔓延するそんな噂が、一人の少女の自殺がきっかけで加速し、日常は次第に狂い始める。世界の終わり=「終ノ空」で待っているものとは……?
他の会員に作品を勧めたいけどおそらく誰にも読んでくれない場合は読書会の課題本にすれば読んでもらえる。そう考えた某会員は本作で読書会を開いたそうな。しかしこれはエロゲであって、普段買わない人間からすると8000円は高い。三か月前から告知し、夏休みを挟んでプレイ期間を挟み、事前申告で買ってプレイすると言っていた6人が当日には半分欠席。担当者は泣いて夜を明かしたそうです。

レイナルド・アレナス『めくるめく世界』
実在の修道士セルバンドが辿った人生を、一人称・二人称・三人称三つの文体から語りつつも、その三つの視点が語る話は何度も何度も相矛盾してくる。読んでるうちに何が嘘か本当かなんてどうでもよくなる、めくるめく読書体験が味わえる傑作です。
しかしながら、本を勧める……しかも新入会員、つまりあまりほぼ初対面の相手に本を勧める際、最初にやるべきことははひとまず「ご趣味はなんですか?」とでも聞いて相手の趣味嗜好を奥ゆかしく瀬踏みすることであり、たとえば国書刊行会の〈文学の冒険〉シリーズなどを勧めるなんてもってのほか。それもなしに熱烈に作品の愛を語ってしまえば「愛が……重い……」などと避けられることもありましょう。それをわからなかった自分がつい勧めてしまったのがこの作品。勧めたのは俺です。
まあ一年二年根気よく勧めたら一人・二人は読んでもらえた気がします。
めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)/国書刊行会

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トマス・ピンチョン『ヴァインランド』(河出書房 or 新潮社)
元ヒッピーのゾイドは奇行を演じて精神障害者の補助金を得ながら14歳の娘プレーリーとの二人で暮らしている。だがそんな彼の元に、長年の因縁の相手・麻薬取締官ヴォンドが現れる。それを皮切りに生活がなんだか物騒になってきたので、ゾイドは娘を旅行に送り出すのだが……。
娘を狙う連邦政府! 母捜しの旅! 旅先で出会うニンジャ! 娘出生の秘密! 60年代の因縁! ニンジャ! ニンジャ! ニンジャ! ギャグでポップな装いのなかに詰め込まれたアメリカ、重厚な語りとひたすら凝りに凝った訳が魅力的。
「ピンチョンを翻訳したい!」という熱意のもと入会したという逸話を持つ会員が果敢にも読書会を開いた結果、一時期会員内の既読率が非常に多かった一冊。そのため会員が新入生に勧める回数も読書会後の二年間ほどは増えたのですが、同時に「上下二段組みの単行本500ページを『1ヴァインランド』と呼ぼう」みたいなアホな遊びも流行ったため、新入生は誰も手に取ってくれなかったらしいです。
ヴァインランド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第2集)/河出書房新社

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スティーヴン・キング〈ダーク・タワー〉シリーズ(新潮文庫)

多作で有名なホラー作家、スティーヴン・キングの作品群は全ての世界観が繋がっているという設定があるのですが、そんなキングの作品群を全てまとめあげるのが長大長編ファンタジーシリーズ〈ダーク・タワー〉。別名スーパーキング大戦。
これをしきりにすすめていたとある会員は
「とりあえず『アトランティスのこころ』(※500ページ上下巻)と、『IT』(※500ページ4分冊)と、『ザ・スタンド』(※500ページ5分冊)を読んでからの方がより楽しめるよ。あ、〈ダーク・タワー〉は全17冊でね……」
といったことを嬉々として話していたもので、そういう愛はしばしば相手に伝わらないのでありました。
ダーク・タワー1 ガンスリンガー (新潮文庫)/新潮社

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マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』
ゾンビの脅威が世界中を襲ったゾンビ世界大戦の発生から収束までをルポルタージュ形式で語るゾンビものの傑作。盲目で被爆者のアイヌが日本刀を持ったひきこもり青年と日本を立て直す話は世界中を探してもこの本でしか読めないのでぜひ読むべき。
これが読んでもらえなかったのは、勧めていたゾンビフリークの人間が熱く語りすぎて周囲から引かれたのが原因と聞ききます。作品に罪はないんです、作品に罪は……。
WORLD WAR Z 上 (文春文庫)/文藝春秋

¥710 Amazon.co.jp
WORLD WAR Z 下 (文春文庫)/文藝春秋

¥741 Amazon.co.jp

Joe Hill"Twittering from the Circus of the Dead"
ゾンビアンソロジー"The New Dead: A Zombie Anthology"掲載の一編。邦題にするなら「死のサーカスなう」。
ギスギスした家族旅行の様子をTwitterにつぶやいている主人公。そんな彼の家族の乗る車は郊外で開催されている不気味なサーカスに遭遇し……というオーソドックスなホラー短編。
ページレイアウトがTwitterを完全に再現しているという遊び心満載の一編で、Twitterユーザーが多かった当時の会員たちには結構評判がよかったものでした。ただ、いかんせん新入生にいきなり英語の原文を投げつけるのはやめましょう、泣いてしまいます。
Twittering from the Circus of the Dead/William Morrow

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森晶麿『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』(スマッシュ文庫)
この辺りで気がついていただけたと思いますががゾンビものを新入生に推す先輩は碌なやつじゃないわけで、読んでもらえなかったのも作品の問題ではなく勧めるやつがろくでもなかったのが悪いのです。だがそれはそれとして、本作はゾンビものにおける傑作の一つ。
これを勧めていた会員と読み終えた自分が
「「空前絶後の元禄パンク!」ってキャッチを見て「なんぞ……」って思ったんですが、読み終わったらマジで元禄パンクなんですよ……マジなんなんだよこれ……なんなんですかこれ……」
「いや俺に言われても……でもこれすごいね……」
なんて会話をしていたのが懐かしい。もののあはれを全編に感じさせるゾンビものは他に類を見ないですね。いや、ホントすごいんですって。
奥ノ細道・オブ・ザ・デッド (スマッシュ文庫)/PHP研究所

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箕崎准『えでぃっと! -ライトノベルの本当の作り方?!』
9本まではあっさり決まったんだけど10本目は宇宙ヤバイでいいかな、などと思いつつ、便宜的にみさきを選んだ。
自分が在学中にみさきさんと顔を合わせた際、「サインください!」と頼み込んでもらった思い出の品ですね。そういえば、T澤さんいわく女子高生編集者にはモデルの編集者さんがいるとのことです。
えでぃっと! -ライトノベルの本当の作り方?! - (一迅社文庫)/一迅社

¥689 Amazon.co.jp

元いたサークルは手に入らないもの、本人の興味がないものを先輩が勧めてきても読まなくていいという雰囲気もかなりあったので、好きに本が読めたいい場所でした。あと、他人に本を薦めるスキルが磨かれましたね。こういう10選記事が話題になって『不本意ながらも魔法使い』の宣伝になってくれたらいいなと思っているのは言うまでもありません。
ちなみに、執筆は元記事が話題になった一ヶ月前から書きためていたのであって、仕事ほっぽって書いてるわけじゃないよと言い訳します。
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