仙人の祈り

自分の夢に生きるということ

創業社長とミーティングをする時に、私が相手に必ず質問することがある。それは「貴方の夢は何ですか?」ということだ。機関投資家からそのような抽象的な問を投げかけられたことに対して不意をつかれたようなリアクションを見せる人もいるが、大概の社長がとても嬉しそうに、そして少しあらたまって話しを始める。

「戯言だと思って聞いて下さい」と言いながらも、力のある人物ほどにその眼差しは強く、イキイキと話をする。「時価総額1兆円の会社になりたい」とか「世界中の人々に自分たちのサービスを届けたい」とか「圧倒的なパイオニアである競合他社をいつの日か抜き去りたい」というようなことを語る社長が多い。

NYC201406大風呂敷を広げているなどとは誰も思うまい。彼らはある程度の成功を収めて上場企業にまでなったわけだし、今も無我夢中(我なし夢の中)で夢の軌跡を歩んでいる最中である。逆に、今の延長線上にあるようなものを夢として語るようでは、この先の成功は期待できないだろう。

こうした中で、特に印象に残っている人物がいた。私がいつものように夢を聞くと、彼は自分で描いた夢を生きることが如何に大切なことかを切々と語り始めた。学生時代から他の誰にもできない新しい価値を創造したいと思っていたため、卒業後もどこにも就職せずに自宅で新サービスの構築を黙々と準備していた。

そのような彼を見て、多くの友人は時の経過とともに彼のもとから去っていったが、同時に新サービスが軌道に乗り始めると、新たに集まってくる人も大勢いた。「今一番に考えていることは何ですか?」と聞くと、彼は「まず社員たちに報いてあげたい。何もないところからリスクを負って私の夢の中に入ってきてくれた人たちに対して感謝を表したい」と答えた。

私が面白いと思ったのは彼の人生観というか、夢というものに対する考え方である。何故なら彼は、社員を大切な仲間とする一方で、自分の夢の中でプレーする人たちと言い切っていたからだ。それはある意味では冷酷なことで、己の夢に殉じる自分と、その夢に付いてくる社員とで、明確な線引きをしていたのである。

そのミーティングの数日後、中国人の友人から話したいことがあるとディナーに誘われた。彼は中国で圧倒的な会員数を誇る某ネットサービスの創業メンバーであったが、NY市場への上場を機に会社を去り、そして新たに事業を始めようと準備をしていた。

私は最初はてっきりブレストか、資本政策などのアドバイスを求めてくるものと思っていたのだが、彼の本題は私にジョインして欲しいという話であったため、とてもビックリした。確かに、彼の述べる新しいアイディアは、金融系のプロが欠かせないものであったが、まさか私をパートナーの一人に選んでくるとは思ってもみなかったのである。

私は少し考えたのだが、しかし意外にもすんなりと自分の中で答えが出てしまって、その場でオファーを断った。すでに億万長者であり、実績も知名度も十分の友人と新しく事業を始めるというのは、とても面白い話であると思う。創業メンバーとして会社を立ち上げ、再び上場となれば、私にも巨万の富が舞い込んでくるだろう。

それでもその時、私の中ですぐに断る返事ができたのは、先日の創業社長との会話が影響していると言える。「応援はする。でも申し訳ないけどジョインはできない。」という私の返答に対して、当然、彼は理由を聞いてきた。私はそれに対して「それは君の夢であって私の夢ではない。私はもう誰かの夢のもとで働くことは卒業したいんだ。」と、自然と言葉が口から出てきた。

私がキッパリとそう答えると、友人はそれ以上突っ込んではこなかった。思えば彼にその言葉の意味が分からないわけがなかった。何故なら、彼もまた、他人の夢に生きることを卒業したからこそ、今こうして新たな事業を模索しているのだから。

食事を終え互いに別れると、私はColumbus Circleを半周して、少し遠いがそのまま歩いて帰ることにした。次の日はオフであったし、熱冷ましにはちょうどよい。夢という漠然としたものと、自分の人生を重ね合わせて真剣に考えたことなど久しくなかったが、度重なる2つの出来事が、私にそのことを思い出させてくれたようだ。

大きな組織の中で悪戦苦闘を繰り返しているうちに、己の夢に生きることができるのは特別な人の話であって、自分には縁遠いものと思い込んでいたのかもしれない。私がサラリーマンである限りは、どんなに成果をあげたとしても、それは広い意味では創業者の夢の中で踊るプレーヤーにすぎない。

月の灯りは、都市の明かりと混じらずに川面に映る。「誰の夢でもない、己の夢に殉じるような生き方をしよう」。その夜の月灯りは、何も持っていなかったあの頃の自分の心を映すように、細く青白い光の帯となって、私の足元を微かに照らし出していた。
[ 2014/06/19 18:00 ] 雑感 | コメント(2)
ジャックウェルチさんの言葉
まさに、
control your destiny. or someone will
ですね(^^)

その気持ち分かるな…
スタッフ達に支えられながらも、私は逆の立場なら自分の人生生ききってるか?と言われたら、即答できないかもしれません
よく、来てくれた…とゆーか、感謝しながらも線は引いてると思います
これは、失礼なコトだとは思いません
要は、リスクを取れるか、続ける能力や責任、やり甲斐、喜びがあるのか…
でも、きっと、ココで悩むよーな人は、小松原さんのように、能力あるし、結局やっちゃう人だと思うんです
フツーは、文句だけ垂れて人生終わるんですよ

でも、私の第六感ですが、小松原さんは、もー実は仕事やめて、全く違うコト始めてるんだろなーと思います♪
当たるんですよ〜私の感(´・Д・)」コワイくらい♡

もーしこたまお金は貯まったコトでしょう!!
好きなコト、やっちゃって沢山の人、ハッピーにして下さい!!

あ〜っ!!
前のコメント、消しましたね?なんで???
いやいや、いーんですよ答えなくとも分かってますとも…
私の感って、当たるから…たぶん…

( ゚д゚)??←ホントは分からないヒト、笑
[ 2014/06/19 21:14 ] [ 編集 ]
月の明かり
以下の曲を思い出しました。
http://youtu.be/Pr7lGz9jkwA

小松原さんにいろんな人がやってくるのは、芸術家のように繊細で、子供のように正直で、そして傷を負った狼のように独り悩み続けているからではないでしょうか?そういう人の方が信用できるんだと思います。
まるで美しい絵画のような光景が浮かびます。
[ 2014/06/19 21:48 ] [ 編集 ]
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自己紹介

check 小松原 周 (あまね);

ファンドマネージャー・アナリスト。日本株(東京)や米国株(ウォール街)の経験が長く、取材した会社は5,000社を超える。ここでは資本市場全般に関する見方や、経済、社会について、個人的に思うことを語っていきます。

*筆者はどのような場合であっても個別銘柄の投資判断に関して述べることはありません。**当ブログは基本的にフィクションです。***再三の警告にもかかわらず迷惑行為を続ける方には法的措置を取ります。

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