June 19, 2014
『世界の食料ムダ捨て事情(Waste: Uncovering the Global Food Scandal)』(NHK出版、2010年)の著者で、イギリス人の活動家トリストラム・スチュアート(Tristram Stuart)氏はこのほど、世界の食料廃棄の削減に取り組んできた功績を認められ、新たにナショナル ジオグラフィック協会のエマージング探検家の1人に任命された。スチュアート氏の計算によると、西洋諸国で廃棄される食料の4分の1以下があれば、地球上の10億人の飢餓に苦しむ人々を養うことができるという。
食料廃棄問題への注意を喚起すべく、スチュアート氏は数多くのキャンペーンを立ち上げてきた。「Feeding the 5000(5000人へ食料を)」は廃棄されることになっていた食材を使った食事を無料で公共に振舞い、「Gleaning Network(落穂拾いネットワーク)」のボランティアたちは、余剰農作物が腐って捨てられる前に刈り取って集めている。
◆食料ムダ捨ての問題に興味を持ったきっかけは何ですか?
15歳の時、私はイギリスで、かつて小さな農場だった場所に住んでいました。そこで、豚と鶏を飼うことにしました。豚の餌はとても高価で、環境にどんな影響・・・
食料廃棄問題への注意を喚起すべく、スチュアート氏は数多くのキャンペーンを立ち上げてきた。「Feeding the 5000(5000人へ食料を)」は廃棄されることになっていた食材を使った食事を無料で公共に振舞い、「Gleaning Network(落穂拾いネットワーク)」のボランティアたちは、余剰農作物が腐って捨てられる前に刈り取って集めている。
◆食料ムダ捨ての問題に興味を持ったきっかけは何ですか?
15歳の時、私はイギリスで、かつて小さな農場だった場所に住んでいました。そこで、豚と鶏を飼うことにしました。豚の餌はとても高価で、環境にどんな影響があるかも分からなかったので、学校の給食室から廃棄された食べ物を無料でいただくことにしたのです。地元のパン屋、八百屋、市場、農家など、10代の少年にとっては宝の山でした。農家では、形が悪いとか大きさが規格外などの理由でスーパーマーケットに卸せないジャガイモをただ捨てていたのです。
そればかりか、農家から食卓の皿の上に乗るまで、供給チェーンのあらゆるつなぎ目で、食料が廃棄されていることに気付きました。もう記憶にないほど昔から環境保護家だった私は、こうしたつなぎ目から食料をいただくだけではなく、もっとできることがあるだろうと考え、食料廃棄を一般大衆へ訴えるキャンペーンを立ち上げることにしたのです。
◆なぜこれほどの食料が廃棄されているのでしょうか?
それは農場からすでに始まっています。見映えのよい新鮮な野菜や果物をそろえるために、店は高い基準を設けています。大きなスーパーマーケットになればなるほど、その基準は厳しくなります。そうすると、見映えのよくない、基準に満たない農作物は廃棄されます。農場から出荷すらされないことも多いです。
工場も毎日のように食料を廃棄しています。サンドイッチ工場ではパンの耳が捨てられ、パイ工場ではパイ皿の外に出た生地が切り取られて捨てられます。販売店では、豊作とか豊かさといったイメージを演出するため、棚に商品を過剰に並べます。消費者がそれを求めていると考えているからです。
◆発展途上国でも食料が廃棄されているそうですね?
飢餓問題を抱えている国ですら、食料のムダ捨てが起こっています。個人経営の小さな農家では、収穫した農作物を市場へ運ぶ基本的なインフラへ投資するだけの余裕がなく、せっかく育てた野菜が市場まで届かずに無駄になってしまうことがよくあります。本当に些細なことなのですが、穀物を売るにしても、アフリカの小さな商店はあまりに貧しく、シリアルにカビが生えてしまうこともあります。殺菌処理、冷蔵設備、果物箱、市場のひさしすらないことが多いです。そのため農作物は、熱い太陽や害虫、昆虫にさらされて結局捨てられてしまいます。
◆食料廃棄を削減するために政府にできることは?
多くの場合、解決法は規制の強化ではなく、緩和にあります。欧州連合は、農作物の見た目の基準を定める法律を緩和しようとしています。欧州の農業助成金制度も、余剰生産を助成する今までの流れから転換しようとしています。
しかし、規制を強化することで改善へつながっているケースもあります。ベルギーの法律は、スーパーマーケットが余剰食料を捨てる前にチャリティ団体へ寄付することを義務付け、アメリカには『良きサマリア人法』といって、善意を持って食料を寄付した企業を保護する法律があります。その法律によって、企業は訴訟を恐れることなく安心して食料を寄付できるようになりました。
PHOTOGRAPH BY MARTIN BUREAU/AFP/GETTY IMAGES