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「残業代ゼロ」法案にみる政策パッケージの矛盾

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
日沖 博道/業務改革
5.0
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2014年6月19日 14:03

安倍政権の掲げる成長戦略には様々な政策が含まれますが、大方針または優先度づけが欠如するためか、政策間に矛盾が見られます。企業での改革プログラムを立案・推進する人々にとっては「他山の石」とすべきものです。

国家、産業、企業のいずれの単位でも、大きな改革を進める場合には一つだけでなく幾つかの政策を組み合わせた「政策パッケージ」として打ち出して推進することが多いものです。安倍政権の掲げる「3本目の矢」である成長戦略もまた、多くの政策群から成り立っています。その中でも雇用・労働規制の緩和は注目すべき政策群となっています。具体的には(1)解雇ルールの明確化、(2)非正社員の継続雇用、(3)時間規制の適用除外の3つが代表政策で、安倍政権は雇用特区でこれらの規制緩和を行い、その後全国に適用を拡大することを狙っています。

こうした雇用・労働規制緩和の狙いは、「外国資本の日本への投資意欲を高めるため」や「働き方の多様性を広げるため」という建前が掲げられてはいますが、産業界(特に大企業)が強く要望しているもので、実際には「いかに安い労働力を確保するか」「働き盛りのサラリーマンにいかに安く働いてもらうか」といった当面の人件費総額圧縮が本音でしょう。

3つともそれぞれ重大な問題を内在する「劇薬」なのですが、特に3つ目の「時間規制の適用除外」は潜在的なインパクトが大きい上に、安倍政権、いや日本社会の最大の課題である「晩婚少子化対策」と真っ向から矛盾するという性格を持ちます。それゆえ仮に法案が成立しても、特区での実施状況とその副作用を慎重に検証する必要があります。

何を懸念しているのか、もう少しブレイクダウンして見てみましょう。

「時間規制の適用除外」とは「残業代ゼロ」の対象を、年収が1000万円を超える社員のほか、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員とすることを検討するものです。いずれも本人の同意を前提としています。ちなみに、現在の労働基準法で企業が労働時間にかかわらず賃金を一定にして「残業代ゼロ」にすることが認められているのは、部長職などの上級管理職や研究者などの一部専門職に限定されています。

既に現時点でも、年収が1000万円を超える社員だけでなく、本人および労働組合との合意があればという条件ながら一般社員への適用拡大の道筋が見えていますが、特区だけでなく全国に範囲が拡大されれば、やがて年収のハードルはじりじりと下げられていく可能性が高いでしょう。そして一旦労働組合が同制度を認めた会社において、上司から「よい評価をされたいのなら合意せよ」と迫られたときに拒否できる従業員は少ないでしょう。その主ターゲット管理職手前の層、30代の中堅サラリーマンです。まさに子育てに向き合わなくてはならない世代です。

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シリーズ: 業務改革

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