2014年06月19日

灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい その1

じつは、僕は大学生をしていたときに4年間、東京の某最大手中学受験塾で講師をしていた。そして、最近、身内に中学受験する子供がいて、再び日本の教育制度というものを考える機会があった。そこで僕なりに考えたことをメモ代わりに残しておくことにする。これから書くことは、灘中学や開成中学に受かるような子供の将来の話だ。昔書いた記事の続編だと思ってもらえばいい。しかし、今回はかなり真面目な記事だ。

中学受験こそ日本のエリート教育の本流、東大なんてクソ、2010年2月10日
天才小学生たちはどこに消えた? 2010年2月13日

大学入試は少子化で年々簡単になっているが、トップ層の中学受験は厳しさを増している。これの一番の原因は、僕が昔働いていたような中学受験塾による際限のない塾間の競争である。SAPIXが開成に何人合格させた、日能研が何人、関西のほうだと浜学園が灘に何人合格させた、と競い合う。灘中学や開成中学が受け入れる生徒の数は決まっているので、これはゼロサム・ゲームだ。そして、子供を受験戦争で勝利させるためのこうした塾のトレーニング法は洗練を極め、果てしない軍拡競争を繰り広げていく。

こうした塾では、6年生になると、月から金まで、だいたい夕方の5時ぐらいから9時ぐらいまでの4時間の授業が3回ある。たとえば、月、水、金みたいに。間の塾のない曜日は宿題で家庭学習。土曜日には毎週テストがあり、月に1回は範囲の指定がない公開模試がある。日曜日は入試問題を解く演習の授業を5、6時間やる。成績順にクラスが毎月変わる。また、同じクラスの中で、毎週のテストの成績順に、座る席が変わる。だから、同じクラスで、この前のテストで誰が1番で誰がビリだということは、皆に一目瞭然になる。

カリキュラムはどこの塾もスパイラル形式になっている。4年生の1年間で小学生で習う全範囲を終える。それで5年生では、また1からはじまってやはり1年間で全範囲を終える。6年生は、また1からはじまって、今度は夏休みまでに全範囲を終える。こうしておくと、塾には4年から入ることもできるし、5年から入ることもできるし、6年から入ることもできるというわけだ。もちろん、学年が上がるごとに、学ぶ内容の深さや、演習問題の難易度は上がっていく。

それで首都圏の最難関中学や灘中学に合格しようと思うと、いまは4年生から塾に入るのが主流だ。昔は5年生からが主流だったのだが、5年生からだとちょっと慌ただしい。国語と社会と理科なら、5年生から入ってもぜんぜん大丈夫なのだが、算数は学校教育のレベルとの差が異常にあり、4年生の1年間でかなり難しい問題を解けるようになってしまっているので、5年生から入って、塾の算数の授業についていくのは結構大変だ。5年生から入っても、家庭で子供の算数を見れる親がいれば問題ないけど、4年生からはじめた生徒に追いつくまでが、ちょっと慌ただしくなる。まあ、でも将来、灘や開成に受かるような子供なら、5年生から入っても、夏休み前ぐらいには、ふつうに追い抜かしているので、5年生からでも問題ないといえる。

6年生から塾に入るのは、最難関中学を目指すには、不可能ではないが、かなり厳しいと言わざるをえない。首都圏のトップレベルと関西の灘以外の中学なら、子供が勉強するやる気があり、活字をたくさん読むのが好きでそこそこ国語力があるという前提だが、6年生からでも合格確率50%ぐらいのラインに乗せるのは大丈夫だろう。偏差値60ぐらいの学校だ。とは言っても、6年生からでは、毎日勉強しないと間に合わないので、かなりハードな1年になってしまうだろう。

ちなみに、日本で中学受験をする小学生は全体の1割〜2割ぐらいで、この小学生の上のほうだけの集団での偏差値60は、感覚的に言えば、ほぼ全ての子供が参加する高校受験の偏差値で65〜70ぐらいだ。首都圏だけ異常に中学受験が流行っているので、首都圏だと偏差値60では、二番手、三番手の中学になるが、日本全国の他の地域では、灘中学などの特殊なケースを除けば、偏差値60ぐらいで、だいたいその地域のトップ中学に合格できる。まあ、合格確率8割以上にしたかったら偏差値63ぐらいは欲しいところだけれど。
(余談だが、ざっくりと僕が調べた結果、同じ偏差値60でも、中学受験が加熱している首都圏の二番手、三番手の中学より、地方のトップ中学のほうが、大学進学実績、卒業生の活躍などでは上のようだ)

3年生までは、塾などで勉強する必要は全くないと言っていい。むしろ、漫画をやたら読んだ子供とか、テレビゲームで長時間の集中力を高めた子供なんかのほうが伸びるような気がする。あくまで、個人的にそんな気がするだけで、統計的なデータを知っているわけではないが。

このように最難関中学を目指す中学受験、首都圏なら二番手、三番手の中学を目指すのさえ、かなりハードになる。だから、子供を塾に入れて、そんなに勉強をさせて、健全に育つのか、などという批判があったり、受験テクニックだけに長けた偏差値エリートばかりでは、日本はどうしようもなくなる、という批判もある。しかし、こうした批判はとても見当違いであると思う。以下にその理由を述べよう。

そもそも勉強時間は、大してハードではない。塾の拘束時間がぐっと増える6年生を例に取ろう。塾にいる時間は、平日の4時間✕3=12時間と、週末のテストの3時間、日曜日の講座の5時間ぐらいだ。週に20時間ぐらい。これに家庭学習やテストの見直しで週に10時間ぐらい。合計はたったの30時間しかない。一番楽な公務員や、ぬるいサラリーマンの週の労働時間は8時間✕5=40時間だ。子供は、小学校で友だちと遊んだり、息抜きできるので、週に30時間程度の勉強時間はまったくハードではないだろう。実際に、ほとんどの子供が毎日8時間は睡眠を取り、余裕を持った生活をしている。

また、毎月のテストによるクラス分けも、毎週のテストによる席順替えも、ほとんどの子供は、テレビゲームのスコアみたいに楽しんでいる。実際に、学校ではぜんぜん勉強が好きじゃなかった子供が、塾に入った途端に、テストですぐにスコアが出る塾のゲームに熱中しはじめて、勉強が好きになったりする。特に男の子は競争心が旺盛で、こうしたクラス替えを楽しんているように思える。

それに終身雇用でまったく研究しなくても首にならず、毎年、毎年頭が劣化していく大学の先生たちと違って、こうした大手塾の先生たちは、生徒からのアンケートなどで評価され、面白くて、子供の成績を伸ばせない授業をしていたら首になってしまう。だから、塾の先生は有能で、教え方の上手い先生が多いのだ。実際に、多くの子供が塾の授業をとても楽しみにしている。

そして、小学生が勉強する内容は、さすがに社会常識的なことが多いので、中学受験の勉強は、大人になっても無駄にならないものばかりだ。中学受験の国語で鍛えれば、将来、本を読むのに苦労しないだろう。実際に、大手塾の国語のテキストには、子供が教養を身につけ、楽しんで読めるような文章が多数収録されており、国語の授業やテストで読む文章がとても楽しみだという子供が多い。理科や社会は、まさに社会常識レベルの内容だ。

ちなみに、最難関中学の国語の問題や、社会に必要な日本地理、日本の歴史に必要な知識レベルは、大学入試センター試験よりも難しく、大学受験で言えば、だいたいMARCHレベルだと思ってもらえばいい。理科は大人の社会常識レベルだが、これは中学、高校とどんどん習うことが増えるので、さすがに大学受験レベルとはぜんぜん違う。文系科目は大学受験レベルだけれど。それでこのように大人になっても役に立つ中学受験の知識なのだが、ちょっと可愛そうなのは算数だ。

中学受験は算数で決まると言われるほど、算数は重要なのだが、文科省が定める小学生の算数の範囲は非常に狭くて、これが大いに問題なのだ。よく知られていることだが、小学生は方程式を習わないのだ。そして、中学以降の数学は方程式が全ての基本になる。なので、この非常に狭い範囲の中で、どんどん問題を難しくしていかないといけないので、その後の数学の勉強を考えると、中学受験の算数の勉強はちょっと無駄になる部分が多い。

じゃあ、小学生に方程式を教えればいいだろう、と思うかもしれないし、実際に多くの小学生は方程式ぐらい解けるのだが、いちおう方程式は使わない約束になっていて、大手の塾のカリキュラムは基本的に線分図や面積図を使った、方程式を使わない解法になっている。もちろん、そうした解法を学ぶのも悪いことではないのだが、何が言いたいかというと、中学受験の国語も社会も理科も、その後の大学受験や社会人の常識的にも、とても役に立つのだが、算数だけはちょっぴり無駄だということだ。最難関中学の算数を解くのに必要なトレーニング時間は、ざっくりと言えば、中学1年〜3年までの3年分の数学を勉強するのに必要な時間と同じぐらいだ。だったら、中学入試を、ふつうの高校入試にしてしまって、中学1年から高校1年の数学の授業をはじめたほうがよっぽどいい、と思うのだ。

とは言え、僕が高校生のときに勉強していた(実際は全部捨てたので勉強していないが)古文とか漢文とかに比べて、中学受験に必要な知識は、その後にまったく無駄にならないものばかりだ。

ここまでに、塾間の競争、子供同士の競争という側面を強調したが、実際のところそれぞれの中学の入試問題の難易度や、合格に必要な点数が毎年大きく変動するわけではないから、受験勉強というのは、必要な学力に達するための個人競技とも言える。まあ、所詮は小学生同士の戦いだし、いまの大手塾のカリキュラムも、説明したようにそこまでハードなものじゃないから、必要な学力もたかが知れている。百聞は一見にしかずなので、今年の灘中学の入試問題をアップしておこう。画像をクリックすれば、大きくなる。

平成26年度灘中学算数1日目(60分間)1〜6

平成26年度灘中学算数1日目(60分間)7〜11

灘中学の試験は2日に分かれていて、これは1日目の簡単な計算問題のほうだが、60分間でこの問題を解いて、7割〜8割程度の点数を取れば合格点に達する。やはり少子化で、灘中学も多少は簡単になっていて、昔は、このような問題が15問あって、それを60分で解かなければいけなかったが、いまでは11問だけでいい。今年の入試は簡単だったらしく、できる子供はこれぐらいの問題なら、半分の30分ぐらいで解ききってしまうだろう。

さて、この続きは、また、明日でも書くことにする。

kazu_fujisawa at 13:07│Comments(0)TrackBack(0)│ │徒然草 

トラックバックURL

コメントする

名前
URL
 
  絵文字