未だにCDが売れないことを嘆くアーティストもいれば、お金がないからいい音楽が作れないと嘆くプロデューサーもいたが、もうそんな時代じゃないと感じ、新しい音楽のビジネスモデルを構築すべく、活動を行っている元大手レコード会社の方がいる。スティーヴ小山さん(本名:小山隆信さん・55歳)だ。「音楽を録音物として売る時代は終わった」「録音物は宣伝ツールに過ぎない」「CDを売るレコード会社の役目は終わった」「メジャーデビューという言葉は死語になった」と語る小山さんだが、CD全盛時代にバリバリ音楽業界で働いた方だ。高校卒業後、音楽の仕事をしたいと思い、上京。バンドグループ「ダニー飯田とパラダイスキング」の手伝いを2年間していたこともあり、その後は、ライブハウスのブッキングマネージャー、ヤマハ音楽振興会で制作ディレクターを務めた後、1987年(28歳)から1994年(35歳)まで、CBSソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。制作ディレクターやオーディションの企画制作を担当した。テレビ朝日の音楽番組「VIDEO JAM」の制作にも携わる。これまで関わったアーティストといえば、THE BOOM、X JAPAN、REBECCA、平井堅、CHARAなどそうそうたるメンバーだ。「音楽バブルの絶頂期で、当時は湯水のごとく金を使えた」というほど恵まれた時代に音楽業界にいたにもかかわらず、「いくらなんでもこのバブルは異常ではないか」「商業主義に走りすぎではないか」「独立して音楽のいろんなプロセスに関わりたい」との思いから、1994年に独立し、フリーのプロデューサーとして活動していた。そんな音楽業界にどっぷり浸かっていた人にもかかわらず、数年前から時代の変化を察知。「もうCDを売るビジネスモデルは終わる」「アーティストがレコード会社やメディアとお付き合いせずとも、独立してやっていける時代に変わる」と感じ、今はアーティスト自身がセルフプロデュースできるよう支援活動を行っている。メジャーデビューせずとも、レコード会社や事務所に所属しなくても、CDやダウンロード販売など録音物に依存しなくても、アーティストが食べていける独立型ビジネスモデルを作るため、数年前から、工藤江里菜さんというアーティストの支援にかかわるように。今ではアーティストさんがアルバイトせずとも、音楽だけで食べていけるようになったという。ではどんな風に活動を行っているのだろうか。・ネットプロモーションと路上ライブ&ワンマンライブのコンビネーション「2つの柱があります。1つはネット。ネットでプロモーションする威力はすごい。しかも本人が自らの手でほとんどコストをかけずにできる。今までのようにレコード会社や所属事務所に所属し、億単位のお金で宣伝するような時代は終わったんです。ブログ、Youtube、Ustream(ユーストリーム)などに力を入れ、宣伝活動を行っています。でももちろん毎回、試行錯誤。やってみて、反省して、もっとこうした方がいいんじゃないかと考え、ネットの活動を行っています」「ブログのおかげでファンになってくれる人が結構いるんです。例えば、工藤江里菜が大阪で初ライブをやった時のこと。そこの会場に来た人の多くが、今までライブは見たことないのに、彼女のブログを読んでファンになってくれた人たちばかりでした。普段は関東中心に活動していますが、ネットの宣伝活動に力を入れているおかげで、遠方のお客さんでもファンになってくれる人を増やすことができるのです」ブログの効果はやはりすごい。Youtubeではオリジナル曲よりカバー曲を中心に配信している。「メジャーのアーティストではないので、オリジナル曲を上げても検索に引っかからないし、曲を知らない人がほとんどです。だからオリジナル曲を上げるよりも、カバー曲アップに力を入れています。検索でカバー曲に引っかかった人が、工藤の歌声を聴いてもらい、そこで気に入った方に、ライブに足を運んでもらい、ファンになってもらうきっかけにしているのです」CDももちろん売っている。しかし「CDは音楽の録音物を売るというより、ファンのためのグッズの一つという位置づけ。曲を切り売りしているのではなく、曲が入ったパッケージとしてのグッズとして販売しています」という。「もう1つの柱がライブです。ライブといっても従来のライブハウスでの、複数アーティストが出演する対バン形式のライブにはあまり出ず、無料の路上ライブとワンマンライブの2つに力を入れています」現在、工藤江里菜さんは、藤沢のさいか屋前で、毎週日曜日に14時からと17時からの2回、キーボード弾き語りライブを行っている。「路上で無料ライブをすることで、多くの人に知ってもらうことが、ファンを増やす第一歩です。そこで音楽を気に入ってくれた方が、グッズを購入してくれて、そこそこの収入になります。対バン形式のライブをあまりしないのは、本人出演が30分程度しかなく、でも2000円~3000円のチケット代がかかるので、ファンの満足度が低くなってしまうから。ですので路上の無料ライブとワンマンライブ中心のライブ活動を行っています」小山さんは、工藤さんの活動支援を行い、時にはライブでギターを担当することもあるし、レコーディングなどを手伝ったりもするが、活動全般のお金を管理するプロデューサーとは違うという。「レコード会社にいた時に不思議に思ったんです。ミュージシャンはお金のことは知らなくていい。おまえらはただ音楽を作っていればいい。そういう風潮がありました。でも今の時代、それではミュージシャンは生き残っていけないと思うのです。音楽は何か特別なビジネスではない。飲食店の店主と同じように、個人事業主であり経営者。だから経理的なことやお金のことは、全部工藤本人にやってもらうようにしています。またプロデューサーというとまるでミュージシャンより、上の存在みたいに思われてしまうのもイヤでした。本来、プロデューサーとミュージシャンは対等であるべき」また小山さんはミュージシャン自身が、何でも自分でできるようセルフプロデュースの必要性を説いている。「お金のことはもちろん、プロモーションだって、ミュージシャン自ら考え、自分で行動する。レコード会社や所属事務所がプロモーションしてくれる時代は終わったんです。自分でプロモーションができないミュージシャンは、この先、生き残っていくのは厳しいのではないか」と話す。CDが売れなくなり、レコード会社や所属事務所に力がなくなり、ミュージシャン自身が何でもやらなければならない状況を、「大変だ」「厳しい」と嘆く時代錯誤な声も多いが、小山さんはむしろ「素晴らしい時代がきた」と語る。「確かにこれまでの古い業界常識やシステムから抜け出せない人にとっては、厳しいでしょうし、いずれ淘汰されていくでしょう。でも今はレコーディングにしても何にしても飛躍的にコストが安くなった。大資本がないと音楽が作れない時代ではなくなり、個人でも十分クオリティの高い音楽が作れるようになった。こんな可能性のある素晴らしい時代はない」「レコーディングのためにスタジオ代がかかるとか、そんなこと言っているのがもう時代遅れなのではないでしょうか。バンドのメンバーがそれぞれ自宅で録音し、メールで音源を送り、それを合わせて自宅で曲を作るのはもう当たり前の時代。だから必ずしも東京にいなくてもよくなった」「今はまだ古い業界の人や古いビジネスモデルが残っていますが、5年先、10年先になったら、がらっと業界は様変わりすると思います。またネットのプロモーションの主軸は、今はブログとYoutubeですが、時代の変化に合わせてプロモーションツールを変えていくことも大事。音楽業界に限らず、時代の変化に合わせて対応していくことが重要ではないでしょうか。セルフプロデュース、セルフプロモーションができるミュージシャンが、録音物だけの収入を依存しなくても、音楽で食べていける時代がやってくると思う」数々のメジャーアーティストにかかわり、CDバブル絶頂期に大手レコード会社に勤めていた人が、時代の変化を察知し、新しい音楽のビジネスモデルを作るために、活動を始めている。もう時代を嘆いても仕方がない。過去の異常なバブル時代を懐古しても仕方がない。時代は変わった。だから自分も変わらなければならない。小山さんは言う。「私の過去の実績なんて今、たいした意味はありません。重要なのは、過去に何をしたかではなく、これから何をするかです」小山さんはこれだけの経歴・実績を持ちながら、えらぶることも自慢することもなく、ものすごく腰が低く、あたりのやわらかい方だ。業界人にありがちな嫌味な雰囲気がまったくない。今後はミュージシャンがセルフプロデュースできるようなセミナーを、Youtubeなどで配信予定という。これからの音楽業界は変わることができない人にとっては、淘汰される厳しい時代かもしれないが、変わることができる人にとっては、今のデジタル技術や通信技術の恩恵を受け、今までとは格段にコストが安く音楽を作れたり、プロモーションができる、とってもよい時代が訪れたのだと思う。もう多くの業界関係者やミュージシャンは、過去のビジネスモデルが通用しないことをとっくに気づいており、新しい音楽ビジネスモデルを模索し、活動を始めている。(取材日:2014年6月18日)※ちなみに小山さんを知ったのは、小山さんが私のブログを今年から読んでくれるようになり、私のセルフマガジン講義に参加してくれたのがきっかけ。ブログをやっているとこんな人と出会えたりするからおもしろい。・小山さんが関わっているシンガーソングライター工藤江里菜さんホームページhttp://erinakudo.jp/
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- 2014年06月18日 20:44
音楽の録音物を売る時代はとっくに終わった~元レコード会社社員が語る、ミュージシャンは個人事業主たれ
未だにCDが売れないことを嘆くアーティストもいれば、お金がないからいい音楽が作れないと嘆くプロデューサーもいたが、もうそんな時代じゃないと感じ、新しい音楽のビジネスモデルを構築すべく、活動を行っている元大手レコード会社の方がいる。スティーヴ小山さん(本名:小山隆信さん・55歳)だ。「音楽を録音物として売る時代は終わった」「録音物は宣伝ツールに過ぎない」「CDを売るレコード会社の役目は終わった」「メジャーデビューという言葉は死語になった」と語る小山さんだが、CD全盛時代にバリバリ音楽業界で働いた方だ。高校卒業後、音楽の仕事をしたいと思い、上京。バンドグループ「ダニー飯田とパラダイスキング」の手伝いを2年間していたこともあり、その後は、ライブハウスのブッキングマネージャー、ヤマハ音楽振興会で制作ディレクターを務めた後、1987年(28歳)から1994年(35歳)まで、CBSソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。制作ディレクターやオーディションの企画制作を担当した。テレビ朝日の音楽番組「VIDEO JAM」の制作にも携わる。これまで関わったアーティストといえば、THE BOOM、X JAPAN、REBECCA、平井堅、CHARAなどそうそうたるメンバーだ。「音楽バブルの絶頂期で、当時は湯水のごとく金を使えた」というほど恵まれた時代に音楽業界にいたにもかかわらず、「いくらなんでもこのバブルは異常ではないか」「商業主義に走りすぎではないか」「独立して音楽のいろんなプロセスに関わりたい」との思いから、1994年に独立し、フリーのプロデューサーとして活動していた。そんな音楽業界にどっぷり浸かっていた人にもかかわらず、数年前から時代の変化を察知。「もうCDを売るビジネスモデルは終わる」「アーティストがレコード会社やメディアとお付き合いせずとも、独立してやっていける時代に変わる」と感じ、今はアーティスト自身がセルフプロデュースできるよう支援活動を行っている。メジャーデビューせずとも、レコード会社や事務所に所属しなくても、CDやダウンロード販売など録音物に依存しなくても、アーティストが食べていける独立型ビジネスモデルを作るため、数年前から、工藤江里菜さんというアーティストの支援にかかわるように。今ではアーティストさんがアルバイトせずとも、音楽だけで食べていけるようになったという。ではどんな風に活動を行っているのだろうか。・ネットプロモーションと路上ライブ&ワンマンライブのコンビネーション「2つの柱があります。1つはネット。ネットでプロモーションする威力はすごい。しかも本人が自らの手でほとんどコストをかけずにできる。今までのようにレコード会社や所属事務所に所属し、億単位のお金で宣伝するような時代は終わったんです。ブログ、Youtube、Ustream(ユーストリーム)などに力を入れ、宣伝活動を行っています。でももちろん毎回、試行錯誤。やってみて、反省して、もっとこうした方がいいんじゃないかと考え、ネットの活動を行っています」「ブログのおかげでファンになってくれる人が結構いるんです。例えば、工藤江里菜が大阪で初ライブをやった時のこと。そこの会場に来た人の多くが、今までライブは見たことないのに、彼女のブログを読んでファンになってくれた人たちばかりでした。普段は関東中心に活動していますが、ネットの宣伝活動に力を入れているおかげで、遠方のお客さんでもファンになってくれる人を増やすことができるのです」ブログの効果はやはりすごい。Youtubeではオリジナル曲よりカバー曲を中心に配信している。「メジャーのアーティストではないので、オリジナル曲を上げても検索に引っかからないし、曲を知らない人がほとんどです。だからオリジナル曲を上げるよりも、カバー曲アップに力を入れています。検索でカバー曲に引っかかった人が、工藤の歌声を聴いてもらい、そこで気に入った方に、ライブに足を運んでもらい、ファンになってもらうきっかけにしているのです」CDももちろん売っている。しかし「CDは音楽の録音物を売るというより、ファンのためのグッズの一つという位置づけ。曲を切り売りしているのではなく、曲が入ったパッケージとしてのグッズとして販売しています」という。「もう1つの柱がライブです。ライブといっても従来のライブハウスでの、複数アーティストが出演する対バン形式のライブにはあまり出ず、無料の路上ライブとワンマンライブの2つに力を入れています」現在、工藤江里菜さんは、藤沢のさいか屋前で、毎週日曜日に14時からと17時からの2回、キーボード弾き語りライブを行っている。「路上で無料ライブをすることで、多くの人に知ってもらうことが、ファンを増やす第一歩です。そこで音楽を気に入ってくれた方が、グッズを購入してくれて、そこそこの収入になります。対バン形式のライブをあまりしないのは、本人出演が30分程度しかなく、でも2000円~3000円のチケット代がかかるので、ファンの満足度が低くなってしまうから。ですので路上の無料ライブとワンマンライブ中心のライブ活動を行っています」小山さんは、工藤さんの活動支援を行い、時にはライブでギターを担当することもあるし、レコーディングなどを手伝ったりもするが、活動全般のお金を管理するプロデューサーとは違うという。「レコード会社にいた時に不思議に思ったんです。ミュージシャンはお金のことは知らなくていい。おまえらはただ音楽を作っていればいい。そういう風潮がありました。でも今の時代、それではミュージシャンは生き残っていけないと思うのです。音楽は何か特別なビジネスではない。飲食店の店主と同じように、個人事業主であり経営者。だから経理的なことやお金のことは、全部工藤本人にやってもらうようにしています。またプロデューサーというとまるでミュージシャンより、上の存在みたいに思われてしまうのもイヤでした。本来、プロデューサーとミュージシャンは対等であるべき」また小山さんはミュージシャン自身が、何でも自分でできるようセルフプロデュースの必要性を説いている。「お金のことはもちろん、プロモーションだって、ミュージシャン自ら考え、自分で行動する。レコード会社や所属事務所がプロモーションしてくれる時代は終わったんです。自分でプロモーションができないミュージシャンは、この先、生き残っていくのは厳しいのではないか」と話す。CDが売れなくなり、レコード会社や所属事務所に力がなくなり、ミュージシャン自身が何でもやらなければならない状況を、「大変だ」「厳しい」と嘆く時代錯誤な声も多いが、小山さんはむしろ「素晴らしい時代がきた」と語る。「確かにこれまでの古い業界常識やシステムから抜け出せない人にとっては、厳しいでしょうし、いずれ淘汰されていくでしょう。でも今はレコーディングにしても何にしても飛躍的にコストが安くなった。大資本がないと音楽が作れない時代ではなくなり、個人でも十分クオリティの高い音楽が作れるようになった。こんな可能性のある素晴らしい時代はない」「レコーディングのためにスタジオ代がかかるとか、そんなこと言っているのがもう時代遅れなのではないでしょうか。バンドのメンバーがそれぞれ自宅で録音し、メールで音源を送り、それを合わせて自宅で曲を作るのはもう当たり前の時代。だから必ずしも東京にいなくてもよくなった」「今はまだ古い業界の人や古いビジネスモデルが残っていますが、5年先、10年先になったら、がらっと業界は様変わりすると思います。またネットのプロモーションの主軸は、今はブログとYoutubeですが、時代の変化に合わせてプロモーションツールを変えていくことも大事。音楽業界に限らず、時代の変化に合わせて対応していくことが重要ではないでしょうか。セルフプロデュース、セルフプロモーションができるミュージシャンが、録音物だけの収入を依存しなくても、音楽で食べていける時代がやってくると思う」数々のメジャーアーティストにかかわり、CDバブル絶頂期に大手レコード会社に勤めていた人が、時代の変化を察知し、新しい音楽のビジネスモデルを作るために、活動を始めている。もう時代を嘆いても仕方がない。過去の異常なバブル時代を懐古しても仕方がない。時代は変わった。だから自分も変わらなければならない。小山さんは言う。「私の過去の実績なんて今、たいした意味はありません。重要なのは、過去に何をしたかではなく、これから何をするかです」小山さんはこれだけの経歴・実績を持ちながら、えらぶることも自慢することもなく、ものすごく腰が低く、あたりのやわらかい方だ。業界人にありがちな嫌味な雰囲気がまったくない。今後はミュージシャンがセルフプロデュースできるようなセミナーを、Youtubeなどで配信予定という。これからの音楽業界は変わることができない人にとっては、淘汰される厳しい時代かもしれないが、変わることができる人にとっては、今のデジタル技術や通信技術の恩恵を受け、今までとは格段にコストが安く音楽を作れたり、プロモーションができる、とってもよい時代が訪れたのだと思う。もう多くの業界関係者やミュージシャンは、過去のビジネスモデルが通用しないことをとっくに気づいており、新しい音楽ビジネスモデルを模索し、活動を始めている。(取材日:2014年6月18日)※ちなみに小山さんを知ったのは、小山さんが私のブログを今年から読んでくれるようになり、私のセルフマガジン講義に参加してくれたのがきっかけ。ブログをやっているとこんな人と出会えたりするからおもしろい。・小山さんが関わっているシンガーソングライター工藤江里菜さんホームページhttp://erinakudo.jp/
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