■モノローグの強さ
――マンガは読むほうですか。
川村 はい、子供の頃からずいぶん読みました。最初にハマった作品は『ドラえもん』。あの短いページ数で鮮やかに喜怒哀楽を描いているんですよね。全巻集めて何回も読んでいるので、かなり影響を受けていると思います。藤子・F・不二雄先生は僕がいちばん尊敬するクリエーターの一人です。
――F先生の他には、どんなマンガ家が好きなんでしょう?
川村 手塚治虫先生の主だった作品はすべて読んでいます。最初に『火の鳥』を読んで、マンガでここまで深い所まで行けるのか、と感動したのを覚えています。あとは井上雄彦さん、岩明均さん、松本大洋さん。記憶に残るマンガの要素はふたつあって、まず「キャラクターが魅力的」なもの。『ドラえもん』は、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかというキャラクターが良かったから、あれだけ長く続いたんだと思います。一方松本さんの『花男』や『鉄コン筋クリート』は全3巻という短さですが、いずれもキャラクターが濃厚で魅力的です。
――なるほど。もうひとつの要素は?
川村 終わり方が印象に残るものです。『SLAM DUNK』や『寄生獣』はいちばんいい所で鮮やかに終わる。連載マンガは、ヒットすると続けることを当然期待されると思うのですが、そんななかで人気がピークのときスパッと終わるのは勇気もいると思うし、それだけにその鮮烈さはすごく印象に残ります。少女マンガでラストシーンが忘れられないのは、吉田秋生さんの『BANANA FISH』や岡崎京子さんの『ヘルタースケルター』。羽海野チカさんの「ハチクロ」(ハチミツとクローバー)も、ラストシーンですごく感動しました。今連載している『3月のライオン』もどういうエンディングを迎えるのか、すごく興味があります。羽海野さんが毎回命がけで描いてるのが伝わってくる漫画だけに、どうやって終わるのかに注目しています。
――『デトロイト・メタル・シティ』や『モテキ』など、川村さんによって映画化されたマンガも少なくありません。
川村 さっきの話とも重なりますけど、マンガの最大の魅力は「キャラクターの発明」にあると思うんです。『デトロイト・メタル・シティ』のクラウザーさんというキャラクターは、実写映画の発想からは絶対に生まれない。マンガや小説を読んでいて、映画の発想では出てこないものを見つけると嬉しくなりますね。
――そういえば、『世界から猫が消えたなら』という小説を書いた動機は、「映像でできないものをやりたい」ということだったとか。
川村 はい。正確には、「映像が苦手なこと」をやりたいと思って。「世界から猫が消えた」という状況を実写で作れと言われると困っちゃいますよね。だけどテキスト(文章)なら、このタイトルだけで読者の想像力が働く。そこはテキストの強みですよね。
――そのマンガ版も今月発売されるわけですが、最初にマンガ化の話を聞いたときはどう思いましたか。
川村 映像と同じく、「何かが消えた世界」を絵にするのは大変だろうな、と思いました。ところが、(作者の)雪野下ろせさんはマンガならではのテクニックでうまく表現している。読んでみて感じたのは、少女マンガの特徴でもある「モノローグ」(独白)という技法が非常に有効だったことです。物語の根幹にあるファンタジー設定がモノローグと絵によってスムーズに説得されてしまう。この説得力は映画より強い時もあるなと思いました。音声でやっても、そこまですんなりと納得させられないことがある。これはやはり、「絵とテキスト」ならではの強みなのだなと思いました。絵と文字の組み合わせによって、文字だけなら何10行も必要な内容を1ページで表現できる。それは僕が絵本の文章を書く中で発見したことでもあります。
――主人公に名前があったり、猫のキャベツが第1話からしゃべりだしたり、原作と違う部分も多いですね。
川村 どんどん変えてください、とは言ってあるんです。原作以上にキャベツがコミカルなのは面白かったですね。「喋る猫」をどう魅力的に描くか、雪野下さんはすごく試行錯誤されていました。何パターンも描いてもらった中で、僕が選ばせてもらったのはちょっと不細工な子でした。僕自身のキャベツのイメージはそんなに美猫じゃなくて、ぶさ可愛い感じだったので。『夏目友人帳』のニャンコ先生みたいに人気が出るといいんですけど(笑)。
――原作者として、これからの展開に期待することはありますか。
川村 原作ではほとんど描かれなかった、主人公のラブストーリーを膨らませてもらえると面白いと思います。僕も読者の一人として、楽しみにしています。
◇
かわむら・げんき(映画プロデューサー、作家)
1979年、横浜市生まれ。『告白』『悪人』『モテキ』『青天の霹靂』などを製作。2012年、小説『世界から猫が消えたなら』で作家デビュー。翌年に絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、6月20日には白泉社から二作目の絵本『ムーム』(絵・ましこゆうき)が発売される。
この記事に関する関連書籍
著者:雪野下ろせ、川村元気/ 出版社:白泉社/ 価格:¥463/ 発売時期: 2014年06月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (1)
著者:藤子 F・不二雄/ 出版社:小学館/ 価格:¥463/ 発売時期: 1974年
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (1)
著者:---/ 出版社:小学館/ 価格:¥309/ 発売時期: 2013年08月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:手塚治虫/ 出版社:講談社/ 価格:¥918/ 発売時期: 2011年10月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:手塚治虫/ 出版社:講談社/ 価格:¥918/ 発売時期: 2012年03月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:松本大洋/ 出版社:小学館/ 価格:¥510/ 発売時期: 1992年
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:松本大洋/ 出版社:小学館/ 価格:¥510/ 発売時期: 1992年
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:松本大洋/ 出版社:小学館/ 価格:¥700/ 発売時期: 2013年01月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (1)
著者:松本大洋/ 出版社:小学館/ 価格:¥700/ 発売時期: 2013年02月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (1)
著者:井上雄彦/ 出版社:集英社/ 価格:¥421/ 発売時期: 1991年
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (2)
著者:井上雄彦/ 出版社:集英社/ 価格:¥421/ 発売時期: 1996年
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (2)
著者:岩明均/ 出版社:講談社/ 価格:¥500/ 発売時期: 2014年08月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:岩明均/ 出版社:講談社/ 価格:¥500/ 発売時期: 2014年09月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:吉田秋生/ 出版社:小学館/ 価格:¥401/ 発売時期: 2004年10月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:吉田秋生/ 出版社:小学館/ 価格:¥401/ 発売時期: 2005年01月
著者:岡崎京子/ 出版社:祥伝社/ 価格:¥1,296/ 発売時期: 2003年04月
著者:羽海野チカ/ 出版社:集英社/ 価格:¥401/ 発売時期: 2008年01月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (1)
著者:羽海野チカ/ 出版社:集英社/ 価格:¥401/ 発売時期: 2008年03月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:羽海野チカ/ 出版社:白泉社/ 価格:¥504/ 発売時期: 2008年02月
著者:羽海野チカ/ 出版社:白泉社/ 価格:¥525/ 発売時期: 2013年09月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:若杉公徳/ 出版社:白泉社/ 価格:¥545/ 発売時期: 2006年05月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:若杉公徳/ 出版社:白泉社/ 価格:¥555/ 発売時期: 2010年07月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:緑川ゆき/ 出版社:白泉社/ 価格:¥463/ 発売時期: 2005年10月
著者:緑川ゆき/ 出版社:白泉社/ 価格:¥463/ 発売時期: 2014年01月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:湊かなえ/ 出版社:双葉社/ 価格:¥669/ 発売時期: 2010年04月
著者:吉田修一/ 出版社:朝日新聞出版/ 価格:¥1,944/ 発売時期: 2007年04月
著者:久保ミツロウ/ 出版社:講談社/ 価格:¥648/ 発売時期: 2009年03月
著者:久保ミツロウ/ 出版社:講談社/ 価格:¥494/ 発売時期: 2010年09月
著者:劇団ひとり/ 出版社:幻冬舎/ 価格:¥520/ 発売時期: 2013年07月
著者:かわむらげんき、さのけんじろう/ 出版社:マガジンハウス/ 価格:¥1,620/ 発売時期: 2013年11月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)
著者:かわむらげんき、ましこゆうき/ 出版社:白泉社/ 価格:¥1,512/ 発売時期: 2014年06月
マイ本棚登録(0)
レビュー(0)
書評・記事 (0)