「メタンハイドレート商業化は無理」の声が噴出 資源大国という壮大な幻


(更新 2014/6/16 17:31)

週刊 東洋経済 2014年 6/21号

東洋経済新報社
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 当のJOGMECは、EPRについて「公式的な算定値がないため何も言えない」と答えるのみだ。

 運営側の本音を探っても、懐疑論が聞かれる。JOGMECからの委託で上述の愛知県沖の海洋産出試験で運営を担った石油資源開発の元役員が語る。「メタンハイドレートの商業化は、今の1バレル=100ドル台の原油価格では絶対に無理。遠い将来、石油資源が枯渇して油価がさらに上がったとき、もしかしたら商業化できるかもしれない、という時間軸のものと理解してほしい」。

 石油資源開発の首脳もメタンハイドレートの実用化には懐疑的との情報が漏れ伝わる。平成30年代後半の商業化という国の方針について、「立場上オフィシャルには言えないが、難しいとの認識」と複数の関係者は証言する。

 海底熱水鉱床はどうか。海底資源開発に携わる企業に尋ねると、技術的な壁は低そうだ。「メタンハイドレートは生産技術を一から開発しているが、海底熱水鉱床は採掘・揚鉱(引き上げること)などに陸上の鉱山技術が応用しやすい」(三井海洋開発の中村拓樹事業開発部長)。

 実際、ビジネスになると見込んで開発に乗り出すベンチャー企業が海外には複数存在する。

 著名なのはカナダに本社を置くノーチラス・ミネラルズ社だ。パプアニューギニア沖に保有する海底熱水鉱床権益「ソルワラ1」の開発計画を進めている。

 権益の分配をめぐるパプアニューギニア政府との交渉に時間を要してきたが「現地政府との協議はようやく決着した。年内にも採掘用の船を発注する」と同社のマイク・ジョンストンCEOは熱を込める。商業採掘は17年ごろになる見通しだという。

 1997年の設立後、費用が先行し経営は苦しい状況が続いてきた。だが英アングロアメリカン社やロシアのメタロインベスト社など出資者には資源メジャーが名を連ね、資金繰りを支えてきた。実際に投資が集まる背景に、ソルワラ1の品位(有用鉱物の含有率)が挙げられる。

 海底熱水鉱床の鉱物のうち、経済的に重要性が高いのは銅と金だ。この点、ソルワラ1の銅品位は8.1%。枯渇が進む陸上での銅鉱山の平均的な品位は0.6%程度のため、驚異的な数値といえる。「だから陸上より採掘コストが低く採算が取れる。これがもし2%だったらできない」(ジョンストンCEO)。

 ひるがえって、日本の海底熱水鉱床の品位を、ソルワラ1と比較してみよう(右表中段)。現時点でJOGMECが品位を明らかにしているのは沖縄海域と伊豆・小笠原海域の2地点だが、銅品位の低さは一目瞭然だ。ノーチラス社の探査開発担当役員のジョナサン・ロウ氏はこう評価する。「伊豆・小笠原海域は銅は少ないが、亜鉛と金が多く含まれており採掘価値はある。しかし沖縄海域は、銅の含有率が低すぎて、これでは儲けがでない」。

 品位だけではなく鉱量の問題もある。日本近海で発見された鉱量は、商業化するにはあまりに少ない。

 JOGMECによれば、海底熱水鉱床生産が商業的に成り立つには最低でも2000万トンの埋蔵量が必要だと推計される。三井物産戦略研究所で海洋政策を担当する織田洋一氏はそれ以上必要と見る。「機材購入に400億円、償却20年と考えると、国際基準の鉱量計算で測定した埋蔵量が最低4000万トン必要だ」。

 08年に海底熱水鉱床の開発計画が始まってから5年経つ。が、現状で確認できたのは340万トンの資源量にすぎない。海底熱水鉱床も「平成30年代後半」の商業化を目標とするものの、あと13年で2000万トン近い埋蔵量が見つかるだろうか。

 それ以外にも、高い濃度で含まれるヒ素や水銀の処理をどうするか、深海底に生息する生物への悪影響はないかなど、課題は山積だ。「現実的には商業化はうまくいって平成50年以降になるのでは」。取材に対してJOGMECの辻本崇史理事はあっさりとそう答えた。


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