児童買春・児童ポルノ処罰法改正案が衆院法務委員会で可決された。参議院でも可決すると、児童ポルノの単純所持が禁止され、自己の性的好奇心を満たすための所持者は処罰されることになる。ただ、どのようなケースが処罰対象になるのか。審議過程からみると、危うさも見え隠れする。
児童ポルノの所持の処罰対象については、三号ポルノ、つまり「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、性欲を興奮させ又は刺激するもの」が曖昧との批判がされていた。そのため、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至ったものであり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)」に限定した。また、盗撮も対象に入れた。また、施行までは成立後一年間は猶予があることは附則に入った。
三号ポルノについては「性欲を興奮させ又は刺激するもの」については、これは個別具体的な人の基準ではない。児童ポルノ愛好者の基準でもない。警察庁の刑事局長は自民党の土屋正忠委員の質問に「構成要件は、一般人を基準にしている」と答弁した。そのため、Facebookなどで子どもの写真をあげている人がいるが、普通の笑顔写真を愛好者は性的好奇心を持つかもしれない。その意思を持って所持したとしても処罰対象ではない。
民主党の枝野幸男委員は4日の法務委員会で「単純所持全般が処罰対象ではない」ということを法案提出者と政府側参考人に答弁させ、言質を取る質問をしていた。「立件対象となる所持の時点での認識の要件」で、「処罰範囲に限定をかけるもの」で、時期や経緯を証拠により立証しなければならないということだ。
「自己の意思に基づいて」について、たとえば、メールで児童ポルノ画像が送りつけられて所持となった場合、あるいは鞄に放り込まれた場合、自分のロッカーに入れられてしまった場合は、「自己の意思に基づいて」ではない。しかし、送りつけられた画像を児童ポルノと認識した上、積極的な利用が前提で保存した場合は、「自己の意思」となる可能性があるとの答弁がされた。ただし、そもそもパソコンと動作ミスで保存してしまうこともあり、それとの区別をどう判断するのか。そこまでの質疑はなかった。
かつて児童ポルノの製造、売買、譲渡は違法ではかった。形式的には児童ポルノとなるようなものが映画や雑誌にはある。そうしたものを図書館、アーカイブス、雑誌社の倉庫に保管されている可能性がある。家探しをする必要はないかと質すと、提案者は「『自己の性的好奇心を満たす』とは考えにくいので構成要件を満たさない」、または性的搾取や児童虐待を許さないというのは一般的理念であり、「廃棄、削除の義務を課すものではない」ともした。
また、改正法施行前に所持をした児童ポルノについて、その時点では「自己の性的好奇心を満たすために」取得したが、罰則が適用される施行後一年後に目的がなくなった場合はどうか。「施行後所持している場合であっても、立件対象となる一年経過後に性的好奇心を満たす目的がなければ、処罰対象にはならない」(提案者)
自己の性的好奇心が認めれる場合は「所持の時点でその有無を判断する。その有無は所持者の内心の供述だけでなく、内容等の客観的事情からの推認により認定されるもの」。所持の時点で性的好奇心を満たす目的で、かつ保管されている場合であっても、罰則適用開始後に目的が失われた場合には、家探しまでして破棄することまでは求めないという。
ただ、引っ越しや大掃除の際に「児童ポルノ」を発見した場合、発見しただけでは「自己の性的好奇心を満たす目的」とは言い難い。しかし、枝野委員は「そこで何かをすれば別ですが」と言ったが、発見した時点で自己の性的好奇心が一瞬でも生じた場合は、所持罪に問われることがあることも示唆しているのではないかと思われるやりとりもあった。そもそも児童ポルノは性的好奇心を満たすようにも作られており、それを見て、好奇心が高まるのは自然ではないか。
この点については、「積極的な利用の意思に基づいて新たな所持が開始されたかどうかが重要」と提案者。しかし、そうした資料を保存している場合、どうやって「自己の性的好奇心」を判断するのかは難しい。土屋委員は「ほこりがどれだけたまってるかだろう」とヤジを飛ばした。しかし、「自己の性的好奇心」の有無をそれだけで判断できるのかは難しい点もあるだろう。
なお、運用上の注意として、「学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利」には配慮するとした。たとえば、立法者が参考資料として所持している場合があるが、処罰対象ではない。医療関係者や弁護士が業務の一環で所持する場合も処罰対象から外れる。報道関係者が取材過程で入手したものも処罰されないというものだ。
しかし、フリージャーナリスト、フリーライター、フリー編集者、漫画家らが取材過程で入手した場合、どのように「報道」目的と証明するのか。そもそも、身分をどのように証明するのか。のちに証明されたとしても、それまでは逮捕される可能性はある。枝野委員は「フリージャーナリスト」を例にあげたが、その部分は具体的な答弁はなかった。
Written by 渋井哲也
Photo by jordia.sintes
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