(写真・午後1時11分のパフオーマンス:撮影=高地秀征)
(こうち ひでゆく・ジャーナリスト)
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(2004.1.11) 脱原発への大きな課題
伴 英幸
アイゼンハワー大統領の「アトムズ・フォア・ピース」提案の3ヶ月後、日本は最初の原子炉予算2億3500万円を通した。50年前の話である。科学振興追加予算として突如国会提案した中曽根康弘は、原子力の自主研究開発を主張していた学術会議に対して、「札束で頬をひっぱたいた」つもりだったらしい。数年の後には戦前の財閥を中心とする原子力5グループが形成されて「だいたいひと口原子力に乗らなきゃという時代」(『原子力開発の30年』原子力産業会議)が出来上った。
珠洲原発が白紙へ
『原子力王国の黄昏』(伊原辰郎著 日本評論社)が出版されたのは1984年のことで、すでにその頃には開発の勢いが衰えてきていたといえよう。現在52基(4574万kW)が16の発電所で稼働しているが、最盛期の計画では、原発で1億kWの発電能力が目指されていた。計画通りに建設がすすまなかったのは、原発建設に対する強い反対運動があったからだ。いまもなお原発建設を止め続けている地域は22ヶ所におよぶ。
1994年には豊北原発計画(中国電力)が撤回され、96年には巻原発計画(東北電力)が住民投票で拒否され、2000年には中部電力が芦浜原発計画を白紙撤回した。地元の30年にわたる猛反対を見て、当時の北川三重県知事が撤回を求めたことが断念につながった。同県海山町での住民投票(01年11月)は原発推進派から出されたが、結果は原発の拒否だった。03年12月には珠洲原発計画(関西電力、中部電力、北陸電力)が事実上断念された。報道によれば「電力自由化や需要低迷を受け、難航する計画を3社相乗りで続けるリスクが高すぎると判断」(11月27日、朝日新聞朝刊)したためである。地元での反対に加え、電力自由化の流れが新規立地断念に影響したと考えると、建設計画が公表されている原発の10基以上が、これから断念されていく可能性が強くなった。
再処理ウラン試験入りを止める
経済産業省の諮問機関で原発のバックエンドコストの検討が行なわれている(本誌4―6ページ記事参照=略)。しかし、コストの検討は再処理の検討にはつながっていない。明らかに合理性がないことがわかっているにもかかわらず、建設中の六ヶ所再処理工場は、次の段階であるウラン試験に突入しようとしている。燃料貯蔵プールの不正溶接とその後の処理で計画は遅れているとしても、ウラン試験に入れば施設は放射能で汚染される。そうなると後戻りすることがさらに困難となる。早春に大きな山場が来るだろう。ウラン試験に入らせないことが、03年に引き続き04年の最大の課題のひとつである。
もんじゅを廃炉へ
先のコスト小委ではプルサーマルが想定されているのみである。高速増殖炉開発は電力会社の取り組みではないわけだ。03年8月に原子力委員会が発表した「核燃料サイクルについて」では、プルトニウム利用「2段階論」が展開されていて、当面はプルサーマルの実現が課題だとした。それと符合しているようにも見える。
他方、文部科学省や核燃料サイクル開発機構などは、ナトリウム漏れ対策を施す改造工事に向けて動いてきた。とくに7月以降の動きがめまぐるしかった。国は名古屋高裁で破れ最高裁へ上告受理の申し立てをしたが、この間の動きは、むしろ、力でねじ伏せようとしているものだ。福井県が設置した「もんじゅ安全性調査検討専門委員会」は、国や核燃機構の説明を聞いただけの調査で、改造工事を安全としてゴーサインを出した。もんじゅ廃炉を求める運動は04年の改造工事入り阻止が焦点となって動く。そのためにも高裁判決の内容を広めて、廃炉運動を盛り上げる年としたい。
予断を許さないプルサーマル計画
東電が計画したプルサーマルは事前了解取り消しで白紙に戻っている。他方、関電の方は不正が行なわれた燃料をイギリスへ送り返し、今度はフランスのコジェマ社と燃料製造契約を締結すると発表している。05年の実施をめざすという。プルサーマル問題が再燃してきた。再処理〜プルサーマル〜高速増殖炉という核燃料サイクル計画の矛盾がいよいよ煮詰まってきている。政策転換の正念場を迎えている。
避けられない応力腐食割れ
維持基準は90年代後半から準備されてきていたが、東電の損傷隠し事件を利用して、ドサクサ紛れに法制化された。今もなお、SUS316配管には適用できないでいる。亀裂の測定精度や亀裂の進み具合の不確定さなどに課題が残っているからだ。SUS316材は応力腐食割れを解決してくれるはずの材料だった。それに亀裂が多数発生していた。しかも発生までの時間が予想外に早いようだ。沸騰水型炉では再循環配管の多くに使われており、取替え工事が行なわれている。
維持基準導入が議論されているとき、アメリカでは導入することで稼働率が90%に上がったなどと宣伝されていたが、稼働率の上昇は定期検査間隔の延長によると言うべきだ。アメリカに見習って原発を色分けし、事故・トラブルの少ない原発には定期検査の項目を減らしたり、検査間隔を延ばそうという案が出てきている。
これに原発の老朽問題が重なってくる。稼働から30年を経過した原発は04年現在で7基であるが、2010年になると20基に達する。そもそも定期検査で見る部分はほんの一部である。チェックしない部材に老朽化がおこるのだからトラブルは増える。
圧力抑制プールのゴミ問題
さらにつけ加えると、圧力抑制プールがゴミ箱化していた。東電や中国電力などで、ここに電動グラインダ、レンチ、靴、ビデオテープ、布類などなどが捨てられていた。東電だけでもその数は1000点を超えている。管理が正常に行なわれていたなら決して起きないことである。東電の管理能力の欠如あるいは下請けとの馴れ合いが明白になった出来事である。上記3つの要因を重ね合わせると、これらによって深刻な事故の危険は増えているといえる。
このような状況の中で、福島、新潟、福井の三県知事が連名で、原子力安全・保安院の分離独立と核燃料サイクルの見直しを提言したことは非常に大きな意味を持つ。東電損傷隠し事件以来、佐藤栄佐久福島県知事は機会あるごとに原子力安全・保安院の独立を主張してきた。にもかかわらず対応が遅れていることに対して、提言という形で再度突きつけたのである。維持基準の本格的導入と絡んで、この問題が今年の大きな焦点のひとつとなるだろう。
廃炉時代を迎えるスソ切り基準つくり
老朽化の先には廃炉が待っている。原研・動力試験炉JPDRに続いて、東海1号炉とふげんが廃炉となった。2010年には敦賀1号炉、福島第一1号炉が廃炉となるだろう。東海1号炉の解体が始まる前に、放射性廃棄物のスソ切りを法制化しようと国は動いている。そうなれば、住居のコンクリートや食卓のスプーンが原発廃棄物の再利用品という時代がやってくる。再利用のためのスソ切り問題に切り込んでいくことが求められている。
脱原発の道筋を!
原発の老朽化―廃炉、そして、廃炉・解体の後に新設するまでに15〜20年を要することをあわせて考えると、近い将来に原発による発電能力が少なくとも現状の4分の1に下がる。最初の原子力予算導入から50年、いよいよ脱原発の道筋を議論する時期に来ている。当室は『市民のエネルギーシナリオ2050―将来の望ましいエネルギー構造』(勝田忠広、2003)をまとめたが、省エネ努力と省エネ技術開発そして新エネの導入という方向性が、脱原発へ向かう上で一番重要なことだ。
(『原子力資料情報室通信』355号(2004.1.1)より転載)
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(2003.12.13) 自衛隊のイラク派遣に反対する総会決議
2003年12月6日
日本国際法律家協会第26回総会
11月29日、イラク北部ティクリート近郊において、日本の外交官2名が殺害された。 尊い人命が失われたことを残念に思い、ご遺族に対して心から哀悼の意を表したい。
しかし、原点に戻って冷静に考えなければならない。この事件は、米英軍が国連憲章に反し、国際法上違法な武力行使を行ったところに端を発している。その後、米英軍を中心とする同盟国の軍隊による占領が継続している。軍事占領は、イラク国民の要請に基づくものではなく、武力行使を原則として禁止する国連憲章に反する。武力介入の目的とされた大量破壊兵器の存在も確認されていない。フセインの圧政からイラク国民を解放するという、もうひとつの目的も、武力介入の根拠とならない。そればかりか、イラク国民の中には、米英軍を「解放軍」として歓迎する気持ちは生まれず、占領を押しつける闖入者あるいはイラク国民を潜在的な「敵」とする圧制者として見る傾向も生まれている。
またそもそも日本は、憲法において「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し、国際社会において名誉ある地位を占めたい」と宣言している。国際法の基本的な枠組みを承認し、平和のための国際的なイニシャティブを強化するために全力を注ぐことこそ、求められている。国連憲章に従い、唯一の被爆国として軍事力によらない「平和外交」を一心に追求することが、日本の国際的責務であり、憲法の要請するところである。
日本政府は、十分な国会審議も、国民に対する説明責任も果たさずに成立させた「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」による自衛隊の派遣時期を決めようとしている。「法律」に基づいて委任された「基本計画」を閣議で決定すればよいと考えているとすれば、それは重大な過ちである。「安全な地域への非軍事的な貢献」という枠組みそのものが、国際法に違反して行われた武力行使とこれに続く軍事占領においては、原理的に成り立たないのである。 もとより、文民に対する攻撃は国際法に反する戦争犯罪に当たる。しかし、このことを定めたジュネーヴ諸条約に追加される議定書も、国際刑事裁判所設立条約も、日本はまだ批准していない。軍事行動および軍事占領の国際法上の評価を曖昧にしたままで、イラク復興を口実として、なし崩し的に軍事占領を支援し、さらにこのような誤った国策のために、自衛隊を派遣することは、二重の過ちを犯すと言わなければならない。
掛け違えたボタンをはじめから掛け直すこと以外、方法はない。国連安全保障理事会を中心とする協議の場とともに、(1)米英軍の即時撤退と、国連安保理によるすみやかな治安維持部隊の派遣、(2)イラク人民への主権の移譲、人民が選んだ政府2>の早期形成に よる治安回復および法の支配の確立、(3)日本政府とNGOによる非軍事的寄与を進めることなどに関して、あらゆる当事者の正当な代表による協議の場をつくることが、先決である。その中で、復興支援として何が必要とされ、何が求められているのかについて、当事者間の合意を形成し、限られたものでも緊急なものについて、合意に基づいて、誠実に実施することが求められている。
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(2003.10.10) 【緊急提言】 改憲と軍事法制
2005年に向けた実質的な
改憲の措置を許すな
松尾 高志
有事法制の完結、海外派兵「恒久法」の制定、防衛庁の省昇格の実現
自民党総裁選挙で再選された小泉純一郎総裁は自らの任期中である2005年の自民党結党50周年にむけて自民党としての改憲案をまとめるとぶちあげた。と同時に、改憲の際には第一党と第二党の賛成による改憲が望ましいとも願望を述べた。
これに関連して、山崎拓自民党副総裁は(1)2005年11月15日(結党記念日)までに「少なくとも自民党の憲法改正案をまとめて、世に問いたい」、(2)その際は「部分的な改正案でなく、全体像を出す」とし、(3)防衛問題では第9条の改正の骨子として「自衛権を明記するということ、自衛隊を軍隊に変えるということ、そして国際貢献のために軍隊を海外に派遣し得ることを明記すべきである」ことを明言している(「正論」・03年11月号)。
いよいよ改憲が政治の最大のイッシューとして登場するに至ったのである。
だが、ここで見逃してはならないのは、このアドバルーンに目を向けている間に、地上では実質的な改憲の措置が2005年に向けて着々ととられようとしていることである。
それは来年、2004年の通常国会での有事法制の完結、04年ないし05年の自衛隊海外派兵「恒久法」の制定、防衛庁の省昇格の実現である。これらが実現すれば、憲法の平和主義は実質的に破壊され、あと残るのは憲法の「文言」だけという事態となることに注意を喚起したい。
有事法制シフト
その具体的な動きはすでに着手されつつある。
まず、有事法制であるが、9月22日に発足した第二次小泉改造内閣が「有事法制シフト」を敷いていることである。有事法制制定のキーマンとして、かねてより有事法制の早期成立を主張してきた井上喜一保守新党政調会長を新たに設けた有事法制担当大臣(防災担当大臣兼務)に据えた。加えて、「国防キッズ」の一人・石破茂防衛庁長官を留任させている。また、9月26日に召集された第157臨時国会では、同日の衆議院本会議で有事法制特別委員会が設置された。
すでに成立した武力攻撃事態法など関連3法の基本法的部分については、7月21日にすでに安全保障会議に補佐機関として新設された事態対処専門委員会の第1回会合を開催した。このメンバーは福田内閣官房長官を委員長として、官房副長官(政務、事務計3人)、や防衛庁、外務省、警察庁、財務省、法務省、経済産業省の各局長クラス、そして自衛隊ミリタリーのトップ・統合幕僚会議議長ら22人で構成されている。政府はこの事態対処専門委員会に常設の事務局を設置する方針を決めており、来年度からの正式発足に先立ち、本年度内に準備室を設けることとしている。
政府は来年の通常国会に、武力攻撃事態法のプログラム法部分(第3〜4章)の個別法案(国民保護法制、対米軍支援法など5〜6本)を一挙に提出して、制定を急ぐこととし、有事法制の完結を目指している。現在のところ国民保護法制だけが「骨子」と称するものを示しているが、他の法律案については内閣官房のプロジェクトチームで策定作業を進めてはいるものの密室状態で、その内容については全く国民に示されてはいない。
この国民保護法制については、すでに着々と政府は布石を打っており、8月7日には首相官邸で、全国の知事を招集して意見交換会を開催した。この席上、石破防衛庁長官は想定される日本への武力攻撃について「大規模な(外国軍の)着上陸侵攻は今、なかなか考えにくい。いきなりミサイルが飛んでくるというより、テロ・ゲリラ的なものがまず起こると考えた方が素直だ」と述べ(「毎日新聞」・8月8日付)、こうした事態を念頭において住民避難などの措置をとることを想定していることを明らかにしている。
政府の法制化のスケジュールは、10月に本部会議で法案の「要旨」を決定した後、地方公共団体、関係民間機関との意見交換を実施し、12月に法案を策定して、本部会議で決定した後、来年1月に法案を閣議決定して、国会に提出することとしている。
これに関連して、総務省消防庁は8月16日に都道府県に対して、管内の自主防災組織を取りまとめるための連絡協議会を設置するよう要請する方針を固めている(「読売新聞」・8月17日付)。また、有事に備え、自治体に国民保護の体制づくりを促進するための「国民保護課」(仮称)を2004年4月に総務省消防庁に新設する方針を固めた(同紙・8月24日付)と伝えられている。加えて、総務省は9月1日に全国の自治体に対して、有事の際の国民保護を担当する専門の部署や職員を置くように要請することも決定している(同紙・9月3日付)。
「恒久法」のための準備室もすでに設置
04年あるいは05年に制定を予定している自衛隊海外派兵「恒久法」についてはすでに内閣官房に準備室を設置した。その内容は福田官房長官の諮問機関である国際平和協力懇談会が昨年12月にとりまとめた報告書(明石レポート)をベースとすることとしており、今年の「防衛白書」も「自衛隊の国際平和協力への取組は、いわゆる「若葉マーク」を卒業する時期に来た」、「今後、自衛隊が国際平和協力を行うにあたっては、より一層自衛隊の特性を活かし、今まで以上に困難な任務を的確に遂行することが求められているということを自覚すべき時期に来たと考えられる」と記述し、「明石レポート」の内容の要旨を掲載している。
防衛庁の省昇格については、すでに法案が国会に提出され、継続審議が続いており、有事法制完結の次の政治課題として位置づけられている。この法案推進の議員の集会には石破茂防衛庁長官以下、内局各局長、統幕議長、陸・海・空各幕僚長らがそろって列席して防衛庁のなみなみならぬ執念を示してもいる。
こうした動きは05年をめざして推進されているのであり、自民党の改憲案が打ち出された時には実質的な改憲状態となっていたということにしないための取り組みが求められている。有事法制の完結、自衛隊海外派兵「恒久法」、防衛庁の省昇格といった個別・具体的な政治課題を着実に闘うことが、すなわち改憲阻止の闘いであることを肝に銘じる必要があると強く訴えたい。
(まつお たかし・ジャーナリスト、大阪経済法科大学客員研究員)
『JCJふらっしゅ/2003/10/04』より転載
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(2003.9.19) 《マスコミを斬る
「開き直り」の石原知事記者会見< FONT>
●石原慎太郎東京都知事の「爆弾を仕掛けられても当然」「これまでの経緯から見れば当然」という発言について、東京都庁の知事の記者会見を東京メトロポリタンテレビの中継で見た。会見中に放送時間が終わったので、すべてを見たわけではないが、少なくとも放映された約1時間の間の知事の発言は、一方で「誤解されたのは遺憾」と言いながら、取り消しはなく、問題のすべてを外務省と田中審議官に押しつけ、べらべらと悪口雑言を並べる開き直りそのものだった。
●石原氏の発言の特徴は、常に印象論を「国」や「役人」や「メディア」の「責任」にすりかえ、多弁でごまかすというものだ。「第三国人が犯罪を犯す」話も、「女性の長生き批判」の発言も、非論理のデマゴーグのばらまきである。
今回も「文章を勝手に削った」と根拠も明らかにせず田中審議官を誹謗し、特別支給の年金の金額が低いことや、街頭カンパが被害者に届いていないことも、東京湾からの不法入国者があることも、全部まとめて「外務省と田中均」の攻撃に使っていた。
「真意を申し上げた」という冒頭の発言に対して、記者からの質問が繰り返された。 −よくわからないが遺憾だというのは発言を撤回するのか、訂正か。 「撤回ではない。訂正でもない。詳しく考えを申し上げた」「ああいうことが起きるのは当たり前だ、ということだ。よくないが、当たり前のことが起きてしまった」 −野中さんのところに銃弾が送られてきたが、それはどうか。 「わからない。私には関わりがない。人間の怒りが暴力行為になることはあり得ることだ。人間はそういうものを持っている」
−爆弾を仕掛けるのはいけないが、そういう犯罪が起きたのは外務省と田中さんのせい、ということか。 「そりゃそうだ。怒りに燃えてやったのだろう。不信、不安、屈辱…。そう言うことはいっぱいあるだろう」
−犯人を勇気づける発言にならないか。
「そこまで考えたことはない」
−国民の怒りの代表的手段になってしまったということか。
「そうじゃない。ただ総体としてエネルギーが噴出したものだ。浅沼稲次郎も変なこと言っているな、と思っていたら、山口二矢君が出てきてやってしまった」
●残念だったのは、質問がいずれも質問者によって、ポツン、ポツンと切れてしまい、答えを受けて続けて質問をする形にならなかったことだ。 その結果、石原知事の「真意」、それは暴力の連鎖を肯定する思想だったかもしれないのだが、それを明らかにするまでにはどうしても至らなかった。
●聞いていた私に残った「質問」は次のようなことである。
「朝鮮総連にも銃弾が撃ち込まれたりして、テロ的な行為が行われているが、それについてはどう思うか。やはりこれも怒りの発露として当然のことなのか」
「エネルギーの噴出という話なら、9.11テロもアメリカへの怒りの噴出。とすればそれに『報復』するのは当たり前。文明社会でも避けられないことか。怒りが暴力になるのは自然だとして、それを文明社会はどうしたらいいのか」
「田中さんが文書を勝手に削除したというのは事実か。誰に聞いた話か」
「単独で外交をしているわけではない、と外務省は言っている。役人をこんな形で批判するのは適当でないのではないか」
●最後は「見解の相違」になるはずである。しかし、そこまで、しつこく質問して欲しい、と考えるのは私だけなのだろうか?(S)
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イラク医師が語る劣化ウラン弾被曝被害の実態(2003.8.9)
前田 丈志(JCJ会員)
●8月2日、東京・文京区民センターで来日中のイラク医師が、劣化ウラン弾による悲惨な被曝被害の実態を語った。
アル・アリ医師は、イラク南部のバスラ教育病院がんセンター長兼教授。ジャナーン医師は、バスラ産科子ども病院・バスラ大学助教授。
13年前の湾岸戦争時に使用された劣化ウラン弾の被曝被害と言われる。がん、白血病、奇形児などについて、英文の解説・統計とスライドを使ったお話は、劣化ウラン弾による健康被害に関する、臨床医学的な症例報告であった。おそらくイラク戦争後に世界で初めて、実際に患者の治療にあたっている専門医が語る、イラク国内の放射能兵器被害の実態報告であろう。
イラク全土に放射線被害が広がるおそれ−−アル・アリ医師
「イラクの本当の状況を日本のみなさんに知らせたい。私はヒロシマ、ナガサキを訪れます。私が語るのは大きな悲劇のほんの一部に過ぎないのです。
劣化ウラン弾をアメリカは、史上初めて湾岸戦争でイラクに対して使った。私たちは、放射線被曝の影響を13年間受け続けている。子どもの先天性奇形や白血病、がん、内臓障害の異常な増加が、この間顕著である。バスラ地域では、がん発生率は1988年の19倍。
今回のイラク戦争でも、大量の劣化ウラン弾を米英軍は使用した。バクダット市内では500トンもの劣化ウラン弾が使われたという。バスラでも空港での攻撃に使用され、実際に飛行機が劣化ウラン弾で、戦車を攻撃するのを自宅の屋上から目撃した。より毒性の強いプルトニウムを使用していることも知っている。今後は、イラク全土に被害が拡大するだろう。南部だけでなく、バクダットを中心としたイラク中部でも高い確率でがんや白血病、先天性奇形児といった病気が発生すると思っている。放射線被害を防ぐ方法はありません。
幸運にも、私たちの病r>院を自分たちで略奪から守ることはできましたが、医薬品のストックは無くなりつつある。外からの援助が無ければ、あと数ヶ月で私たちの病院の状況も悪くなります。薬も医療機器も必要です。今は、患者がどんどん増えていて、私の治療もやりきれない。日本から医者が来て、私たちの病院で一緒に患者さんを治療してくだされば助かります。
日本の自衛隊イラク派遣については、もし日本から軍隊を送れば、米英の侵略を助けるためですから、そうしたことはしてほしくない。入ってきて欲しくない人がくれば、戦いが起きるかもしれない。短期であれば影響は小さいと思いますが、イラク駐留が長期化すれば、自衛隊も被曝被害を受ける危険性はあると思います。
この戦争をどうしてもやめさせたい。私のお話を聞いて誰が大量破壊兵器を使ったのかは明らかでしょう。私は、医者ですから自分の患者を治療して、治すことが使命だと思っています。」
イラクの女性が抱く”母になる不安”−−ジャナーン医師
「私は、産科小児科医です。複数の障害をもって生まれる赤ちゃんが増えています。出産後、先天性奇形児の多くは長くは生きられません。子どもの白血病も増えています。どうして子どもたちが犠牲になるのでしょうか。国連の経済制裁で医薬品が不足して多くの子どもが死亡しました。
イラクの女性は、子どもを生むことに気持ちが沈んでいます。不安につきまとわれています。普通の母親は、出産すると医者に男の子ですか、女の子ですかとたずねるものです。イラクの母親は、まず正常ですか、異常ですかときくのです。
バスラの小児病院も略奪の襲撃を受けました。イギリス軍に守ってくれと頼みましたが、断わられました。我々は、石油施設を守るためにいるのだと言われました。私たちは、平和を望んでいます。私は医師として、イラクの人が健康に生きられることを望んでいます。」
「ノーモア・ヒロシマ!ノーモア・イラク!」
スライドを使って、がん、白血病、先天性奇形児の患者症例が報告されました。
写真家の森住卓氏のイラク写真で、数点こうした症例を見たことがありましたが、あまりの生々しい姿に正視するのに勇気がいりました。会場の女性参加者には、すすり泣く人もいました。国立小児病院の看護師さんは、仕事柄かなりの奇形児をみることがあったが、これほどひどい症例は見たことがないと、声を詰まらせました。
イラク戦争報道で隠蔽されてきた真実が、そこにはありました。アル・アリ医師とジャナーン医師は、「原爆の日」にヒロシマとナガサキを訪れ、8月12日に帰国します。いま、日本人には被爆体験に根ざした真の人道援助が求められています。
かつて、アメリカ占領下の被爆地ヒロシマの惨状を目にした、イギリス人ジャーナリスト・バーチェットは、世界に向って打電しました、「ノーモア・ヒロシマ」と。いま、日本人は、「ノーモア・イラク」の声を上げる時なのかもしれません。
みなさま、この真実を勇気をもって伝えていきましょう。
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「イラク特措法」採決強行に抗議し
イラクへの自衛隊派兵実施に反対する(2003.7.30)
2003年7月26日
日本民主法律家協会理事長 鳥生忠佑
本日未明、「イラク特措法案」は与党3党の採決強行によって成立した。
この採決強行は、強い野党の反対を押し切ったというだけでなく、各種世論調査に表れた「自衛隊のイラク派兵反対」という圧倒的な世論に対する挑戦して行われた。国論を二分してまで、自衛隊のイラク派兵を強行しようという、小泉内閣と与党三党の憲法無視・対米追随姿勢に強く抗議する。
本法は、戦闘継続中の軍事占領地に自衛隊派兵を行おうとする違憲の立法である。当然のことながら当事国であるイラクの国家的承認なく「派兵」を行うものであって、国際法上もその正当性を支える法解釈は成り立たず違法である。 本年3月20日に開始された米英軍による先制攻撃としてのイラク侵攻は、明らかに国際法に違反し、国連秩序を蹂躙する暴挙である。本法は、これを糊塗し正当化しようとしているが、国連安保理決議678、687、1441、1483号等の決議はいずれもイラク攻撃を正当化する根拠となるものではなく、米英暫定行政当局(CPA)に国際法上正当な統治主体としての地位を認めたものでもない。米英軍の軍事占領が、国際法上の合法性を欠くものであることは明白である。
この米英の違法な軍事占領に参画することは交戦権の行使に当たり、日本国憲法9条2項に違反するものである。
また、本法における「安全確保支援活動」とは、具体的には米英軍の軍事占領に反対するイラク国民への軍事作戦を支援するものであって、米英軍の軍事作戦と一体不可分の武力行使にあたるものである。 本法は、自衛隊の活動範囲を「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域と限定することによって、その批判をかわそうとしている。しかし、5月1日の米軍の戦闘終結宣言以後も、現に日々戦闘が継続し各地で米英軍の死者がでている現実が、「戦闘地域」と「非戦闘地域」を区別することの不可能を如実に示している。
イラクの国土に自衛隊を派遣し米英軍を支援することは、実質的に米国のイラク戦争に参戦することであって、憲法違反の暴挙にほかならない。 イラク派兵を可能とする本法が制定されても、直ちに自衛隊派兵の実行を意味するものとはならない。自衛隊のイラク派兵は、限りなく高い確率で自衛隊員に戦闘死者の生ずることを意味する。また自衛隊員がイラク国民を殺傷することの危険も否定しがたい。その事態は、日本の平和国家としての国際的地位の放擲である。
日本民主法律家協会は、平和を求める多くの法律家と国民の声を代弁して、本法の採決強行に抗議するとともに、イラク派兵を実施することがないよう強く求める。
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