昨日のブログで「「研究費獲得に目がくらんで、偽物(最終的には検証実験を待つ必要があるが)をつかんだ」という、日本科学史に残る前代未聞の不祥事」と書いたが、これに追加を。「研究費獲得に目がくらんで、偽物(最終的には検証実験を待つ必要があるが)をつかみ、その結果起こった問題を隠蔽しようとした」という、日本科学史に残る前代未聞の不祥事」がより正しいだろう。
5月末からCDBに保存されているサンプルの分析を始めたらしいが、多くの人が指摘していたことを、「意味がない」としてなぜそれまで行わなかったのか?実際、分析を始めたらすぐに、若山教授が保存していたSTAP幹細胞と遺伝子の特徴が一致するES細胞がフリーザーから発見されている。不正を裏付ける証拠が出る可能性があるのに、それを行わなくては「隠蔽」と言われても仕方ないだろう。「目がくらむ」という表現も、やや言葉が過ぎているかもしれないが、なぜ「CDB解体」とまで提言されたのかを、トップが未だに理解していないことを考えると適切なような気もする。
さて本題である「理研CDBの日本語名称と英語名称の違い」について述べよう。
大阪大学には、Institute of Laser Engineering(以下、ILE)なる研究所がある。このセンター(研究所)は1976年に開設され、英語名称はまったく変わっていない。ところが、日本語の名称は当初は「レーザー核融合研究センター」であり、それが2004年に「レーザーエネルギー学研究センター」に変更された。開設時の日本語名称には「核融合」が入っているが、英語名には‟Nuclear Fusion”はない。これは理研CDB(Center for Developmental Biology)の日本語名称が「発生・再生科学総合研究センター」というのと瓜二つである。
ILEが設置された1970年代後半は、トップ大学が独自の核融合技術の開発を進めていた。ややうる覚えであるが、京都大学はヘリオトロン、名古屋大学はトカマクだったと記憶している。そして大阪大学はレーザー。これらの研究は、当時のマスコミをしばしば賑わせた。学生だった私は、後10〜15年くらい経てば、放射能汚染の恐れのある原発に代わって、クリーンな核融合発電が行われるものと思っていた。この話は、何となく今の再生医療の話と似ていなくもない。
ILEには、文部大臣を始めとする政府要人やトップ官僚がしばしば訪れていたらしい。この話は、2013年1月8日の安倍総理が理研CDBを視察したということを思い起こさせる。ところで、この写真(http://www.cdb.riken.jp/jp/04_news/articles/13/130118_primeminister.html)を見ると、今回の事件の予兆を感じさせる。CiRAの所長であり、ノーベル賞受賞者の山中先生がわざわざ京都から神戸まで来て、笹井先生の安倍総理への説明を聞かされている(それにしても、安倍総理の白衣の着方はあまりにも間が抜けている感がある。SPは気がつかなくても仕方ないが、CDBの人はもっと注意すべきだろう)。この後、総理は高橋政代先生のiPS細胞を用いた網膜再生の説明を受け、最後に「再生医療の分野を今後一層支援することを表明し、同時に国民や世界の人々の健康を守る研究成果に期待する旨」を述べている。
ここまで書けばおわかりになるだろう。大阪大学ILEは、政府から巨額の支援を受けるために、日本語名称には「核融合」を入れ、一方、国際的には誇大宣伝とならないように‟Nuclear Fusion”を入れなかったのだ。同様な理由で、CDBの場合にも、英語名にはない「再生」の文言が日本語名では入る必要があった。
以前、CDBの「昔を知る者」さんから、「CDBは元々、N先生が科技庁に働きかけて作ったものです」というコメントが寄せられている。「再生」という「金の卵を産む鶏」をもっているが、ネームバリューからセンター長は無理な西川先生(西川先生の専門は、「再生」ではなく「幹細胞」かもしれないが、キーワードは「再生」だったと推測する)と、けっして潤沢な研究費が配分されない「発生」という分野が専門であるが、知名度は抜群の竹市先生が合体してできたのが、英語名にはRegeneration Scienceが入らないが、日本語名には入る「Center for Developmental Biology=発生・再生科学総合研究センター」というわけだ。
それゆえCDBは最初から「妥協」あるいは「内部に矛盾を含有する」組織であった。竹市センター長はここで自分の理想を追求し、若手研究者に潤沢に研究費を配分して育成に励み、また「発生」を発展させた。ユニットリーダーである小保方さんの研究費が年間2,000万円ということなので、通常のチームリーダーの研究費は3,000〜4,000万円であろう。こんな潤沢な研究費が「ハエ」や「線虫」の研究に自動的に出るはずもなく、これらは「再生」という看板の下で初めて得られる研究費だ。
昨日も述べたが、竹市センター長は今年70歳なので、2012年には次期センター長の話がでていたが、その話は潰れて「留任」になったとのことである。一つの理由は、竹市センター長に代わる看板となるセンター長が国内にはおらず、また、海外研究者は給与の問題で難しかったのかもしれない。「看板」センター長がいなくなれば、改組は免れない。また別の要因としては、竹市センター長がいなくなれば、「「再生」で稼いで「発生」で消費する」という図式が崩壊する可能性があったということかもしれない。 竹市先生でない人が次期センター長になれば、センターは「再生」に軸足を置く可能性は大いにあったろう。 そうなると、「発生」分野は窮地に立つ。個人的には、竹市センター長留任の理由を知りたいところであるが、それはさておき、西川、相澤元副センター長無しでの今後のCDBの運営ビジョン、ミッションの再定義を十分しておかなかったことが大きな問題だったのだろう。
改革委員会の「提言」は述べる。「STAP問題の背景には、研究不正行為を誘発する、あるいは研究不正行為を抑止できない、CDBの構造的な欠陥があるが、その背景にこのようなCDBトップ層全体の弛緩したガバナンスの問題がある」。そして、「現時点での・再生科学分野の世界の動向を踏まえ、新たにミッションを再定義し、必要とされる研究分野を新たに選考・設定すること。再生医療分野においては、医工連携などを配慮して、ひとり理研のためではなく京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との協力関係の構築など、この分野での日本全体の研究力強化に貢献し世界を牽引する研究を推進する観点で、研究分野及び体制を再構築すること。CDB以外の生命科学系センターとの合体、再編成も視野にいれること」。
確かに再生医療であれば工学的要素が入ることも必要であろう(ただし、「錬金術」ではない再生医療)。また、西川、相澤顧問がいなくなり、さらに笹井先生も辞めたら、CDBの「再生」関連研究の活性は極めて落ちることになる。そうなると、「再生」分野をCiRAへ吸収させるということもありえるかもしれない。また、竹市センター長と「再生」分野を失えば、「発生」関連研究を、他の生命科学系センターと合体させるということもありうるだろう。「植物科学研究センター」や「免疫・アレルギー科学総合研究センター」といった、研究対象の限定されたセンターは改組となり、合併等によって広い分野のセンターとなっている。
今回の騒動の大元は、「応用研究」の「仮面」をかぶらないと研究費が十分得られないという、我が国の「基礎研究」に対する理解の低さだったのかもしれない。そういう意味では、話はこのブログの当初の話に戻ることになる(4月29日ブログ「「選択と集中」の行き先」)。
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