電気自動車(EV)の急速充電に用いるDC充電方式の国際標準では、IEC(国際電気標準会議)でCHAdeMO(チャデモ)が他の方式とともに承認され、大団円を迎えている。しかしここに至るまで、欧米が主導するCombined Charging System(コンボ)との対立など数多くの障害があった(関連記事:EV用急速充電の規格争い、チャデモに負けはない)。チャデモはなぜ国際標準となり得たのか。そのプロセスはどうだったのか。
チャデモの規格や普及を統括するチャデモ協議会 事務局の丸田理氏、標準化委員の灰田武史氏(IEC61851-23充電システム担当:東京電力)、松永康郎氏(IEC61851-24通信プロトコル担当:日産自動車)、および小園誠二氏(IEC62196-3コネクタ担当:矢崎部品)にお話を伺った。
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和田憲一郎氏(以下、和田氏) まず、チャデモとして国際標準になろうとした活動の入り口についてお聞きしたい。参入方法は正しかったのか。
丸田氏 その前に経緯を説明させてほしい。現在のコネクタはチャデモと命名される前、1990年代に日本電動車両協会(現在は日本自動車研究所(JARI)と統合)がJEVS(Japan Electric Vehicle Standard)として規格化したものだ。1990年代の第2次電気自動車ブームの反省をふまえ、急速充電が可能な新たな電気自動車の開発のために電力会社や自動車メーカー、コネクタメーカーが一緒にこの規格を掘り起こし、2005年から開発に取り組んだプロトタイプがチャデモのベースになっている。
新しい急速充電システムは、国の支援による実証試験を経て、2009年夏に電気自動車、急速充電器の市販化が実現し、2010年3月にチャデモ協議会の発足につながった。
チャデモは、開発の段階から世界中に普及させることを目標にしてスタートした。2009年秋には、チャデモの開発チームが、主に米国を中心とする標準化の団体であるSAE International(自動車技術者協会)に規格提案を行い、翌2010年に電気・電子機器に関する国際標準機関であるIEC(国際電気標準会議)に提案した。
個社として提案できるSAE Internationalと違って、IECは参加各国の国内委員会から統一案として提案しなくてはならない。このため少し時間を要した。モノづくりをお家芸とするわれわれ日本としては、市場ニーズに沿って開発・実証を進め、自動車の最大市場であった米国への提案、そして欧州を含む国際規格という手順を踏んだこと、およびタイミング的にも他に先んじたことは、必然的な選択だったと考えている。
和田氏 国際規格と言えばISOもあるが、どうしてIECに提案したのか。
灰田氏 従来、大まかに分けて、クルマはISO、グリッドはIECというような区分けがあった。今回は電気自動車とグリッド側からつながる急速充電器に関するもののため、中間に位置することになる。しかしわれわれは、グリッドに大きな影響を与えるものと考えIECへ提案した。後ほど説明するが、これが欧米の自動車メーカーにとってやりにくく感じる原因になったようだ。というのも、自動車メーカーは当時、ISOには加盟していたもののIECには加盟していなかった。その後加盟したとはいえ、これも行き違いの遠因とも思っている。
和田氏 IECでは、チャデモに関わるプレーヤーをどう想定していたのか。これは市場でも同じか。
灰田氏 IECがカバーする技術範囲は非常に広いが、こと電気自動車用の充電規格については、日本でも欧米でも自動車メーカーが圧倒的な発言力を持っている。ただし、実際の市場となると、電気自動車のユーザー、急速充電器を設置するスーパー/道の駅などの設置企業、急速充電器メーカー、そして自動車メーカーやグリッドを担当する電力会社など、プレーヤーは多彩になる。自動車メーカーの意見はどうしても強くなりがちだが、そこに電力会社が入ることで、中立的な立場から意見を調整できたことは良かったと考えている。
チャデモ協議会の中には、技術部会と整備部会という2つの活動主体がある。技術部会はメーカーを中心とする関係者の意見を集約し、国際標準に盛り込むための活動を進めてきた。これに対し整備部会は、設置事業者、政府機関、自治体など多くの企業・団体が参加し、市場関係者の情報展開の場として活用されている。
松永氏 日本の特色は、三菱自動車の「i-MiEV」や日産自動車の「リーフ」をはじめ、自動車メーカーが電気自動車の市場展開で先行し、それに追随する形で急速充電器を展開できたことだろう。電気自動車と充電設備は鶏と卵の関係にあり、どちらが先かというより、今回セットで供給できたことが大きかった。
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