海外で危機が勃発した際、西側諸国がとっさに発するのは次の2つの問いかけだ。事態にどう対応すべきか。善玉は誰なのか。
ところが、イラク分裂の危機に直面してみると、支援すべき善玉が見当たらず、まともな政策の選択肢もない。あるのは選択ミス、混乱、悲劇だけ。謙虚さと何を優先するのかという順位づけに基づく、明確な政策が極めて重要になる。
イスラム教スンニ派の過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」がイラク第2の都市モスルを制圧し、バグダッドに迫っているというニュースは決定的な事態のようにみえる。
■複雑な対立関係
ISISは国際テロ組織アルカイダでさえ容認できないほど凶悪な組織だからだ。いくつかの欠点や宗派主義という問題を抱えていても、マリキ首相率いるイラク中央政府の方がまだましなのは間違いない。
だが、この地域でマリキ氏に最も近い国はイランだ。西側はイランを中東で最も大きな戦略上の脅威とみなしている。ここで(イラクの隣国)シリアについてみると、実はISISと西側はシリアのアサド政権を打倒するという共通の目標を持つ。
では西側の主眼がISISを倒すことだというならば、西側はシリア政府、イラン、ロシアと連携しなくてはならないということなのだろうか。西側は核開発問題でイランと対立を続けているが、すでにイラク問題をめぐって米国とイランが直接対話に踏み切る案が浮上している。一方、ウクライナ危機で米国とロシアの関係は最悪の状態にある。
西側諸国が「国土安全保障」を最重視するならば、ISISと比べてアサド大統領のシリア支配を容認する方がよいと、しぶしぶ判断することも考えられる。アサド政権は様々な罪を犯しているが、西側を直接の標的にしたことはないからだ。
西側による軍事介入を支持する人たちも反対する人たちも、最近の経験をもとにそれぞれの主張を説明している。2003年に米国率いる多国籍軍がイラクに侵攻した。いまではイラクの至る所でイスラム勢力が活動し、分裂し、血まみれの状態にある。西側はシリアへの介入には踏み切っていない。だが、シリアでも同様にあちらこちらでイスラム勢力が活動し、分断され、流血の事態に陥っている。
米国の石油産出量が1970年に記録した過去最高水準に達したというニュースは、ピークオイル論がすでに過去の話になったという見方に説得力をもたせる。…続き (6/17)
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