
山崎まどか 第一回
『交換教授』デイヴィッド・ロッジ 著/高儀 進 訳
デイヴィッド・ロッジの『交換教授』といえば、「屈辱」である。これは誰もが読んでいると思われているが、実は自分は読んでいないという有名文学作品のタイトルを挙げて、参加者の内でその作品を読んでいる人の数が得点となるというゲームである。つまり、得点(作品を読んでいる人の数)が高ければ高いほど、その人に教養がないということになるというその名にふさわしい残酷なゲームなのだ。最初に読んだ時、私は自分こそこのゲームの勝者になれると思った。今も思っている。この小説を読んだ人はどうやらみんな同じことを考えるらしい。
英国のぱっとしない学者であるフィリップ・スワローとアメリカの花形教授モリス・ザップが「交換教授」という制度を使って立場を交換し、それぞれのポストだけではなく妻までも「交換」してしまう羽目に陥るという『交換教授』は本筋もとても面白い小説だ。様々な形式を取ってきた小説が最終章で映画の脚本へとスタイルを変え、小説のように物語が「終わる」のではなく、ストップモーションがかかったように「止まる」ところも洒落ていて良かった。
しかし私は主人公たちの物語以上に、「屈辱」で勝ちたいがために専門分野で読んでいなければならない作品(シェークスピアの『ハムレット』)を挙げて、職を追われてしまうハワード・リングボームのことが心に残った。この人は負けず嫌いで乗せられやすく『交換教授』の続編『小さな世界』でも似たような悲劇的な失敗をやらかすのだ。
▼筆者=ライター。著書に『乙女日和』、訳書にタオ・リン『イー・イー・イー』。http://romanticaugogo.blogspot.com/

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交換教授(上・下)
デイヴィッド・ロッジ 著/高儀 進 訳
時は大学紛争が各地で相次ぎ、ウーマンリブ運動も始まった1969年、英米2人の中年の大学教授が交換教授としてそのポストを取り換えるが、異国では様々な悲喜劇が彼らを待ち受けていた。遂には互いの妻をも《交換》する破目になるその結末は? 2つの文学賞に輝くコミック・ノヴェルの傑作。
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