2011年08月14日
※8月16日(tue)更新
夏コミにて頒布終了。
計２０冊販売させていただきました。
買って下さった皆様、本当にありがとうございました！
コミティアに参加する友人のサークル『終末のキシ』に、少量委託してあります。
スペース「あ１１ｂ」です。
そちらの方に参加される方いらっしゃいましたら、是非そちらまでお買い求めください。
また、今回表紙を担当してくれたあんひる氏が作画を担当している『触手四コマ』の方も合わせてよろしくお願いします。
頭おかしくって面白いよ！（酷
※ ※ ※ ※ ※
ファニー・ベルです。Ｃ８０にサークル参加します。個人初参加です。
サークル「Ding Dong」
三日目 フ‐３２ａ
オリジナル小説『機士道部』を頒布します
（ジャンル：学園スポ根×ロボット）
あんひる氏に表紙イラストを描いていただきました。うめぇ。
コミケお越しになる方は是非遊びにきてにょりん。
※七月二十七日・日光企画様に入稿完了しました。
冒頭部分をサンプルとして公開しています。
興味のある方は是非、以下の追記からどうぞ。
夏コミにて頒布終了。
計２０冊販売させていただきました。
買って下さった皆様、本当にありがとうございました！
コミティアに参加する友人のサークル『終末のキシ』に、少量委託してあります。
スペース「あ１１ｂ」です。
そちらの方に参加される方いらっしゃいましたら、是非そちらまでお買い求めください。
また、今回表紙を担当してくれたあんひる氏が作画を担当している『触手四コマ』の方も合わせてよろしくお願いします。
頭おかしくって面白いよ！（酷
※ ※ ※ ※ ※
ファニー・ベルです。Ｃ８０にサークル参加します。個人初参加です。
サークル「Ding Dong」
三日目 フ‐３２ａ
オリジナル小説『機士道部』を頒布します
（ジャンル：学園スポ根×ロボット）
あんひる氏に表紙イラストを描いていただきました。うめぇ。
コミケお越しになる方は是非遊びにきてにょりん。
※七月二十七日・日光企画様に入稿完了しました。
冒頭部分をサンプルとして公開しています。
興味のある方は是非、以下の追記からどうぞ。
一章『人型決闘機械は腕二本、脚二本、頭一つの人型であること』
「――この第一条はつまり、機士決闘を競技として成立させる為の前提だ。『テニスはこの形のラケットを使え』『野球はこの形のバットを使え』要はそんな意味だ」
長い黒髪をかき上げながら、女性教師が教室内に張りのある声を響かせていた。
その右目は刃物のように鋭い切れ長だが、左目の方は黒い革製の眼帯に覆われている。
教師という職業には不釣り合いと思えるほどの美しさと、不似合いと言えるほどの威圧感を持った女性であった。名を、志藤 真弓という。
また、その美しい外見から、生徒たちには男女問わず人気があった。
「今日もカッコいいなあ……志藤先生」
そして末森高校に入学したばかりの新入生の一人、上杉 三縁もまた彼女に憧れる生徒の一人であった。教壇上で熱弁をふるう彼女を、うっとりとした目付きで見つめている。
「では何故、人型と定められたかだが……解る者は居るか？」
志藤は教室の生徒たちを、鋭い隻眼で一瞥する。
生徒たちは隣の生徒と顔を見合わせたり先生と目が合わないようにと顔を伏せたりと落ち着かない様子を見せるばかりである。志藤は大げさに溜息を吐いた。
「教科書を見ていい。級長、応えてみろ」
「えっ。あ、はい」
級長である男子生徒は、手元の教科書の項を捲りながら該当する項目を探す。
上杉も自分の教科書へと視線を落としてみる。表紙のタイトルは『現代社会�機戮澄�
やっと該当の項を見つけた級長が教科書の表現を拾いながら答えを述べ始める。
「えっと。二十世紀末、第三次世界大戦以降に初めて行われたオリンピックの開会式において、パフォーマンスとして行われた人型機械の模擬戦闘が世界中の人々に感銘を呼び、それが今日の機士決闘制度の興りとなった……です」
「結構」
彼が読み上げたのと同じ箇所を、上杉も目で追ってみる。文字の羅列の横には、一枚の画像が添えられていた。
映し出されているのは、競技場に立つ二つの人の形をしたものの姿。
分厚い鉄板の皮膚。
強固な合金製フレームの骨格。
機体の制御を行う集積回路の半規管。
搭乗者の意思を各部に送る導線の神経。
重厚な巨体を支える油圧シリンダーの腱。
そして、その巨体を疾駆させる、電気モーターの筋肉。
その全ては、剣を振るい、敵を討ち、そして誇りを示すためのものである。
名称を、決闘用人型機械。
一般には【Humanoid Formula】の別名から、ＨＦの略称で呼ばれることも多い。
耳に志藤の声が飛び込んできて、上杉は檀上へと視線を戻す。
「確かにそれが来歴となっている……しかしだ。テニスのラケットも、野球のバットも、長い歴史の中で形質を何度か変化させてきたわけだが、何故�犁〇侶萋��瓩箸いΧサ擦話太犬靴親�から五十年近く経った今まで、機体の規定を人型としているか。それが私の問いだ」
「えっと……」
級長は教科書を何項か送りながら、該当する箇所を探し始める。
しかし志藤は、唇の端を持ち上げて意地悪い笑みを浮かべる。
「これは教科書には載っていない。自分の言葉で答えてみろ」
「えーっ、と……」
級長は目を泳がせながら、ただたどしい口調で答えを捻り出す。
「……人の代わりに戦うから人の形をしてる、とか？」
「なるほど、悪くない解答だ」
ふむ、と鼻を鳴らしながら、志藤は大きく頷く。
「確かに決闘はその名の通り、利権争奪などにおける代理戦争として行われることも多い。しかし代理戦争というのは、あくまで機士決闘という競技の一側面であって本質ではない。意見としては面白いが解答としては不十分だ。他に答えられるものは居ないか？」
志藤の言葉に対し、教室内の生徒一同は、沈黙を以って返す。
「もし誰も答えるものが居ないようなら、全員に宿題として書かせ、提出してもらうぞ？」
「えーっ」
生徒たちは露骨に嫌そうな顔をして、不満の声を漏らしながら顔を左右に往復させる。
誰か答えてくれる奴はいないのか。そんな表情で互いに顔を見合わせている。
そんな中、まるで見えない糸に釣りあげられるように、一本の腕が力なく持ち上げられた。
志藤は名簿と席順を照らし合わせ、その生徒の名を探す。
「君は……芝原か、答えてみろ」
「……はい」
呼ばれた芝原という名の生徒は、渋々といった様子で立ち上がった。
「えーっと……作業用機械の進化と密接に関係しているからだと思います。『フォーミュラーカーは乗用車の技術を発展させたものだったから車の形をしている』というように。現にＨＦの技術は、現代の様々な機械に応用されています」
芝原は「面倒臭い」という感情がありありと溢れた声で、つらつらと言葉を口にしていく。
第三次世界大戦の終戦以降、戦災跡地の瓦礫除去作業や放射能汚染が起きた土地での復興作業など、作業用重機が必要とされる場面は世界中で数多く見られた。また戦後数十年を経た現在でも、道路の建設やインフラの復旧などの現場で重機が活躍する機会は多い。
そんな中で生み出されたのが、人型作業重機であった。
「そもそも人型をした重機が増えている理由も、当然解っているな？」
「えっと……専用の重機を仕事に応じて何台も揃えるより、一台の機械であれもこれも汎用的にこなしてしまう方が効率がいいからでしょう。人型重機は多くの国で扱われていますが、国が違っても人は人の形です。扱うのが人であるからには、それで統一するのは無難な選択だと思います」
芝原の言葉を聞きながら、上杉はふと、窓の外に目線を移してみる。
ビルの谷間の向こうで、大型の人型重機がビルの骨組みとなる鉄骨を組み上げている。近年では割とよく見かける光景だ。
完全に人型というわけでなく、下半身は移動用の車両型となっている半人半車のものである。しかし器用に二つの腕で作業を行う姿は、人型と呼ぶのに差支えないものだ。
志藤が満足げに頷く声が耳に届き、上杉は再び意識を授業へと戻す。
「なるほど……悪くない意見だ。が、Ｆ１はより早い機構を求めて進化し続けてきた。同じように、競技用の機体は完全な人型より多脚型や昆虫型、あるいはキャタピラを配した脚部の方が合理的だとは思わんか？」
「それはまあ、自分もそう思います」
「なんだ、つまらん奴だな」
憮然とした表情の志藤に対し、芝原は居心地が悪そうに目線を下に向ける。
上杉がふと教室を見渡してみれば、室内の生徒たちは、物珍しそうな目線を彼に向けていた。
そんな視線が鬱陶しくて一刻も早く座りたいとでも言いたげに、芝原は早口でまくし立てる。
「レギュレーションの問題もあると思います。自由度を高め過ぎると、技術力や資金力の差がモロに出過ぎますし。速ければいいからと言って、Ｆ１レースが航空機のレースに進化することはありませんでした。ルールとはあくまで、対等の位置に並ぶための便宜上の建前です」
「身も蓋もない言い方だが、なるほど。理は通っているな」
皮肉るような言葉ではあったが、志藤は不機嫌な様子など微塵も見せない。
それどころか、満足そうな笑みを浮かべている。
「先生がさっき言った多脚型なんかも最たる例だと思います。多数の足を制御するための演算をするとなると、ハードやソフトウェアの性能が顕著に出過ぎますし、半導体の値段も馬鹿になりません。使われるそもそも肝心の機体操作が完全に機械任せになります。ほとんど自動操縦と変わらないですね」
「確かに、それではもう競技とは言えんな」
第三次世界大戦において、レアメタルを始めとした多くの物的資源が兵器生産の為に投入された。以降世界では慢性的な資源不足が起きてしまい、電子情報工学の分野ではハードの進化に決定的な停滞を招いている。
そのことが幸か不幸か、機士決闘という競技を競技たらしめていた。
「人型云々より、人の操縦する意味の方が先になくなります。その方がつまらないでしょう」
「全くの同意見だ……が、その辺りはあくまで副次的な問題だ。人型に規定した利点ではあっても、人型に規定した理由ではない。現にルールブックでは逆関節式脚部も規定違反として扱うことになっている。この件についてはどう思う？」
「さあ。自分も、あのルールについては、よく解りません」
「そうか……だが、実にいい解答だった。座っていいぞ」
言われて芝原は、やっと肩の荷が下りたとでもいうように疲れた表情で腰を下ろす。と同時に生徒たちは夢から覚めたような顔で、目を瞬かせながら芝原の方を見ていた。
上杉もまた、彼らと同じように芝原と志藤の顔を交互に見つめている。
飛び交う言葉の意味や論点など、難し過ぎて殆ど理解出来なくなっていた。
ただ、真剣に話す二人の表情に不思議な感情を抱いていた。
「そこの、お前」
「へ？」
顔をじっと見ていたせいで、志藤と完全に目が合ってしまっていた。答える気があるのだと勘違いされたのだろう。志藤は声をかけてから壇上の名簿に目を落とし、席と名前を照らし合わせて上杉の名前を確認する。
「……上杉か。お前はどう思う？」
「へ？ え、えっと……」
上杉は、うろたえながら立ち上がる。
そして、絞り出すような声で、ぽつりと言葉を落とした。
自分の心に浮かんだ、率直で端的な感想を。
「……カッコいいから、だと思います」
「うむ。正解だ」
えっ。
答えた上杉当人を含む、生徒たち全員の声が教室の空気を大きく震わせた。
呆気にとられる彼らを尻目にして、満足そうな笑みので志藤は言葉を続ける。
「芝原も言っていた通り、人は民主国家の区別なく人型だ。虫や獣の形質にも確かに良さはあるが、遍く人間が共感を抱く対象としては、やはり人型以外にはないだろう」
「で、でもそれってちょっと大雑把じゃ……」
「だが、お前はそう思ったんだろう？ 上杉」
「そ、そうです」
「ならばそれが答えだ。違うか？」
答えた上杉も、それを聞いていた生徒たちも、ただぽかんとした表情で、壇上の教師を見つめ続ける。呆れや驚嘆など、各々の感情を、その見開いた目に乗せて。
言葉を切った志藤は、ふと目を細めて、上杉の方を見た。
「上杉。お前は、部活はもう決めたか？」
「いえ。まだ、悩んでる最中です」
「なら、うちに来るといい。お前は、うちに向いている」
刃物のように鋭い瞳を絹糸の様に柔らかくして、志藤は微笑む。
そして教卓に両腕を突いて大きく身を乗り出し、不敵な笑みで生徒達に呼びかける。
「そろそろ時間なので、最後に一つ。知っての通り、我が校にも小さいながら『機士道部』が存在している。そして、私はその部の顧問をしている。もし興味があれば、いつでも部室を尋ねてくれ。歓迎しよう」
志藤は凛々しい顔つきを乱さぬまま、連絡事項を告げるような淡々とした口ぶりで私的な話を続ける。明らかに授業から逸れた話であるのに、ふざけているような調子も恥じらうようなきらいもない。ただ堂々としている。
「そしてこれもまたついでなのだが、もし入部の気が無くとも、競技として興味があるのなら是非私を訪ねてきてくれ。専門雑誌、関連書籍、試合映像など幾らでも――」
言いかけたそのとき、志藤の声を遮って、間延びした電子音のチャイムが鳴り始めた。
熱が入りかけていた志藤は、顔を顰めてスピーカーを睨みつけたあと、一つ咳払いする。
「――っと、いかん。つい熱くなってしまった。では級長、号令」
授業中と変わりない、凛とした声で早々に授業の終了を告げる。
呆気に取られていた級長は、ワンテンポ遅れて号令の声を上げる。
「……変な人」
教室の扉から颯爽と立ち去る後ろ姿を見つめながら、上杉は思い出したように呟く。
「でも、ますますカッコイイかも」
その女子生徒、上杉 三縁は口元に子供の様な微笑を浮かべた。
//
「――この第一条はつまり、機士決闘を競技として成立させる為の前提だ。『テニスはこの形のラケットを使え』『野球はこの形のバットを使え』要はそんな意味だ」
長い黒髪をかき上げながら、女性教師が教室内に張りのある声を響かせていた。
その右目は刃物のように鋭い切れ長だが、左目の方は黒い革製の眼帯に覆われている。
教師という職業には不釣り合いと思えるほどの美しさと、不似合いと言えるほどの威圧感を持った女性であった。名を、志藤 真弓という。
また、その美しい外見から、生徒たちには男女問わず人気があった。
「今日もカッコいいなあ……志藤先生」
そして末森高校に入学したばかりの新入生の一人、上杉 三縁もまた彼女に憧れる生徒の一人であった。教壇上で熱弁をふるう彼女を、うっとりとした目付きで見つめている。
「では何故、人型と定められたかだが……解る者は居るか？」
志藤は教室の生徒たちを、鋭い隻眼で一瞥する。
生徒たちは隣の生徒と顔を見合わせたり先生と目が合わないようにと顔を伏せたりと落ち着かない様子を見せるばかりである。志藤は大げさに溜息を吐いた。
「教科書を見ていい。級長、応えてみろ」
「えっ。あ、はい」
級長である男子生徒は、手元の教科書の項を捲りながら該当する項目を探す。
上杉も自分の教科書へと視線を落としてみる。表紙のタイトルは『現代社会�機戮澄�
やっと該当の項を見つけた級長が教科書の表現を拾いながら答えを述べ始める。
「えっと。二十世紀末、第三次世界大戦以降に初めて行われたオリンピックの開会式において、パフォーマンスとして行われた人型機械の模擬戦闘が世界中の人々に感銘を呼び、それが今日の機士決闘制度の興りとなった……です」
「結構」
彼が読み上げたのと同じ箇所を、上杉も目で追ってみる。文字の羅列の横には、一枚の画像が添えられていた。
映し出されているのは、競技場に立つ二つの人の形をしたものの姿。
分厚い鉄板の皮膚。
強固な合金製フレームの骨格。
機体の制御を行う集積回路の半規管。
搭乗者の意思を各部に送る導線の神経。
重厚な巨体を支える油圧シリンダーの腱。
そして、その巨体を疾駆させる、電気モーターの筋肉。
その全ては、剣を振るい、敵を討ち、そして誇りを示すためのものである。
名称を、決闘用人型機械。
一般には【Humanoid Formula】の別名から、ＨＦの略称で呼ばれることも多い。
耳に志藤の声が飛び込んできて、上杉は檀上へと視線を戻す。
「確かにそれが来歴となっている……しかしだ。テニスのラケットも、野球のバットも、長い歴史の中で形質を何度か変化させてきたわけだが、何故�犁〇侶萋��瓩箸いΧサ擦話太犬靴親�から五十年近く経った今まで、機体の規定を人型としているか。それが私の問いだ」
「えっと……」
級長は教科書を何項か送りながら、該当する箇所を探し始める。
しかし志藤は、唇の端を持ち上げて意地悪い笑みを浮かべる。
「これは教科書には載っていない。自分の言葉で答えてみろ」
「えーっ、と……」
級長は目を泳がせながら、ただたどしい口調で答えを捻り出す。
「……人の代わりに戦うから人の形をしてる、とか？」
「なるほど、悪くない解答だ」
ふむ、と鼻を鳴らしながら、志藤は大きく頷く。
「確かに決闘はその名の通り、利権争奪などにおける代理戦争として行われることも多い。しかし代理戦争というのは、あくまで機士決闘という競技の一側面であって本質ではない。意見としては面白いが解答としては不十分だ。他に答えられるものは居ないか？」
志藤の言葉に対し、教室内の生徒一同は、沈黙を以って返す。
「もし誰も答えるものが居ないようなら、全員に宿題として書かせ、提出してもらうぞ？」
「えーっ」
生徒たちは露骨に嫌そうな顔をして、不満の声を漏らしながら顔を左右に往復させる。
誰か答えてくれる奴はいないのか。そんな表情で互いに顔を見合わせている。
そんな中、まるで見えない糸に釣りあげられるように、一本の腕が力なく持ち上げられた。
志藤は名簿と席順を照らし合わせ、その生徒の名を探す。
「君は……芝原か、答えてみろ」
「……はい」
呼ばれた芝原という名の生徒は、渋々といった様子で立ち上がった。
「えーっと……作業用機械の進化と密接に関係しているからだと思います。『フォーミュラーカーは乗用車の技術を発展させたものだったから車の形をしている』というように。現にＨＦの技術は、現代の様々な機械に応用されています」
芝原は「面倒臭い」という感情がありありと溢れた声で、つらつらと言葉を口にしていく。
第三次世界大戦の終戦以降、戦災跡地の瓦礫除去作業や放射能汚染が起きた土地での復興作業など、作業用重機が必要とされる場面は世界中で数多く見られた。また戦後数十年を経た現在でも、道路の建設やインフラの復旧などの現場で重機が活躍する機会は多い。
そんな中で生み出されたのが、人型作業重機であった。
「そもそも人型をした重機が増えている理由も、当然解っているな？」
「えっと……専用の重機を仕事に応じて何台も揃えるより、一台の機械であれもこれも汎用的にこなしてしまう方が効率がいいからでしょう。人型重機は多くの国で扱われていますが、国が違っても人は人の形です。扱うのが人であるからには、それで統一するのは無難な選択だと思います」
芝原の言葉を聞きながら、上杉はふと、窓の外に目線を移してみる。
ビルの谷間の向こうで、大型の人型重機がビルの骨組みとなる鉄骨を組み上げている。近年では割とよく見かける光景だ。
完全に人型というわけでなく、下半身は移動用の車両型となっている半人半車のものである。しかし器用に二つの腕で作業を行う姿は、人型と呼ぶのに差支えないものだ。
志藤が満足げに頷く声が耳に届き、上杉は再び意識を授業へと戻す。
「なるほど……悪くない意見だ。が、Ｆ１はより早い機構を求めて進化し続けてきた。同じように、競技用の機体は完全な人型より多脚型や昆虫型、あるいはキャタピラを配した脚部の方が合理的だとは思わんか？」
「それはまあ、自分もそう思います」
「なんだ、つまらん奴だな」
憮然とした表情の志藤に対し、芝原は居心地が悪そうに目線を下に向ける。
上杉がふと教室を見渡してみれば、室内の生徒たちは、物珍しそうな目線を彼に向けていた。
そんな視線が鬱陶しくて一刻も早く座りたいとでも言いたげに、芝原は早口でまくし立てる。
「レギュレーションの問題もあると思います。自由度を高め過ぎると、技術力や資金力の差がモロに出過ぎますし。速ければいいからと言って、Ｆ１レースが航空機のレースに進化することはありませんでした。ルールとはあくまで、対等の位置に並ぶための便宜上の建前です」
「身も蓋もない言い方だが、なるほど。理は通っているな」
皮肉るような言葉ではあったが、志藤は不機嫌な様子など微塵も見せない。
それどころか、満足そうな笑みを浮かべている。
「先生がさっき言った多脚型なんかも最たる例だと思います。多数の足を制御するための演算をするとなると、ハードやソフトウェアの性能が顕著に出過ぎますし、半導体の値段も馬鹿になりません。使われるそもそも肝心の機体操作が完全に機械任せになります。ほとんど自動操縦と変わらないですね」
「確かに、それではもう競技とは言えんな」
第三次世界大戦において、レアメタルを始めとした多くの物的資源が兵器生産の為に投入された。以降世界では慢性的な資源不足が起きてしまい、電子情報工学の分野ではハードの進化に決定的な停滞を招いている。
そのことが幸か不幸か、機士決闘という競技を競技たらしめていた。
「人型云々より、人の操縦する意味の方が先になくなります。その方がつまらないでしょう」
「全くの同意見だ……が、その辺りはあくまで副次的な問題だ。人型に規定した利点ではあっても、人型に規定した理由ではない。現にルールブックでは逆関節式脚部も規定違反として扱うことになっている。この件についてはどう思う？」
「さあ。自分も、あのルールについては、よく解りません」
「そうか……だが、実にいい解答だった。座っていいぞ」
言われて芝原は、やっと肩の荷が下りたとでもいうように疲れた表情で腰を下ろす。と同時に生徒たちは夢から覚めたような顔で、目を瞬かせながら芝原の方を見ていた。
上杉もまた、彼らと同じように芝原と志藤の顔を交互に見つめている。
飛び交う言葉の意味や論点など、難し過ぎて殆ど理解出来なくなっていた。
ただ、真剣に話す二人の表情に不思議な感情を抱いていた。
「そこの、お前」
「へ？」
顔をじっと見ていたせいで、志藤と完全に目が合ってしまっていた。答える気があるのだと勘違いされたのだろう。志藤は声をかけてから壇上の名簿に目を落とし、席と名前を照らし合わせて上杉の名前を確認する。
「……上杉か。お前はどう思う？」
「へ？ え、えっと……」
上杉は、うろたえながら立ち上がる。
そして、絞り出すような声で、ぽつりと言葉を落とした。
自分の心に浮かんだ、率直で端的な感想を。
「……カッコいいから、だと思います」
「うむ。正解だ」
えっ。
答えた上杉当人を含む、生徒たち全員の声が教室の空気を大きく震わせた。
呆気にとられる彼らを尻目にして、満足そうな笑みので志藤は言葉を続ける。
「芝原も言っていた通り、人は民主国家の区別なく人型だ。虫や獣の形質にも確かに良さはあるが、遍く人間が共感を抱く対象としては、やはり人型以外にはないだろう」
「で、でもそれってちょっと大雑把じゃ……」
「だが、お前はそう思ったんだろう？ 上杉」
「そ、そうです」
「ならばそれが答えだ。違うか？」
答えた上杉も、それを聞いていた生徒たちも、ただぽかんとした表情で、壇上の教師を見つめ続ける。呆れや驚嘆など、各々の感情を、その見開いた目に乗せて。
言葉を切った志藤は、ふと目を細めて、上杉の方を見た。
「上杉。お前は、部活はもう決めたか？」
「いえ。まだ、悩んでる最中です」
「なら、うちに来るといい。お前は、うちに向いている」
刃物のように鋭い瞳を絹糸の様に柔らかくして、志藤は微笑む。
そして教卓に両腕を突いて大きく身を乗り出し、不敵な笑みで生徒達に呼びかける。
「そろそろ時間なので、最後に一つ。知っての通り、我が校にも小さいながら『機士道部』が存在している。そして、私はその部の顧問をしている。もし興味があれば、いつでも部室を尋ねてくれ。歓迎しよう」
志藤は凛々しい顔つきを乱さぬまま、連絡事項を告げるような淡々とした口ぶりで私的な話を続ける。明らかに授業から逸れた話であるのに、ふざけているような調子も恥じらうようなきらいもない。ただ堂々としている。
「そしてこれもまたついでなのだが、もし入部の気が無くとも、競技として興味があるのなら是非私を訪ねてきてくれ。専門雑誌、関連書籍、試合映像など幾らでも――」
言いかけたそのとき、志藤の声を遮って、間延びした電子音のチャイムが鳴り始めた。
熱が入りかけていた志藤は、顔を顰めてスピーカーを睨みつけたあと、一つ咳払いする。
「――っと、いかん。つい熱くなってしまった。では級長、号令」
授業中と変わりない、凛とした声で早々に授業の終了を告げる。
呆気に取られていた級長は、ワンテンポ遅れて号令の声を上げる。
「……変な人」
教室の扉から颯爽と立ち去る後ろ姿を見つめながら、上杉は思い出したように呟く。
「でも、ますますカッコイイかも」
その女子生徒、上杉 三縁は口元に子供の様な微笑を浮かべた。
//
(23:59)
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この記事へのコメント
1. Posted by ネズミ 2011年07月11日 22:17
いつのまにやら更新再開してたのか。
たぶん夏コミは参加するのでTENGAでも置いてくよ。
たぶん夏コミは参加するのでTENGAでも置いてくよ。
2. Posted by ＦＢ 2011年07月14日 00:25
> ネズミ
これからコミケにかけてちょいちょい同人誌の宣伝はしてくよー
身内料金で安くしたげるから買っておまー（ぁ
これからコミケにかけてちょいちょい同人誌の宣伝はしてくよー
身内料金で安くしたげるから買っておまー（ぁ
3. Posted by こま 2011年07月22日 08:25
かっこよすぎワロタwwww流石だぜ…
文はまだ読んでないんだが買えば問題ないだろう？
記念すべき１号か…買いにいくお(*‘ω‘ *)
文はまだ読んでないんだが買えば問題ないだろう？
記念すべき１号か…買いにいくお(*‘ω‘ *)
4. Posted by FB 2011年07月23日 00:52
> こま
ほんとさすがだった
こっち二日目会場入りしない予定なのでそっちのブースに顔だせないだろうから
もしよかったらそっちの本と交換って形でもおｋだぜー
もちろんそれでも買いたいって言ってくれたら全然止めんけど（笑）
ほんとさすがだった
こっち二日目会場入りしない予定なのでそっちのブースに顔だせないだろうから
もしよかったらそっちの本と交換って形でもおｋだぜー
もちろんそれでも買いたいって言ってくれたら全然止めんけど（笑）
5. Posted by 伊右衛門3号 2011年07月29日 21:17
久しぶりにのぞいてみたら大変なことになってるでござるの巻
6. Posted by ＦＢ 2011年07月30日 01:22
>伊右衛門3号
君も東京でファニーと握手！
君も東京でファニーと握手！