「メタンハイドレート商業化は無理」の声が噴出 資源大国という壮大な幻


(更新 2014/6/16 17:31)

週刊 東洋経済 2014年 6/21号

東洋経済新報社
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「思ったより出る。想定したよりも出ている!」。昨年3月、海底のメタンハイドレートから取り出したメタンガスが船上から赤々と燃え、茂木敏充・経産相がそう無邪気に喜ぶ姿がテレビに大きく映し出された。

 映像は、経産省所管の独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、2年の準備期間を経て愛知県沖で実施した海洋産出試験の様子だ。

「大成功だった」と当初は報じられた試験。しかし、その後の開発検討会で明らかになったのは、これ以後、太平洋側メタンハイドレートの開発が暗礁に乗り上げた現実だった。当初計画では2週間連続での生産を予定していたが、わずか6日で打ち切りとなった。原因となったのは、坑井内の設備に砂が詰まって動かなくなるトラブルだった。

 海底資源開発に詳しい複数の関係者が口をそろえる。「砂の問題は起こるべくして起こった。JOGMECが信じてきた生産手法はやはり、根本的に誤っていたのだ」。

 メタンハイドレートからガスを取り出す手法で最も有効だとみられてきたのが「減圧法」(左図)だ。メタンガスと水とが高圧・低温の条件下で結合して固体になったものがメタンハイドレート。ならば海底下で圧力を下げれば、ガスは分離して地上に向かって浮いてくる。減圧法はそうした理屈を適用している。

 だが、ある資源開発企業の社員は首をかしげる。「地中で圧力を下げてガスを取り出せば、その周辺部との圧力差が生じるため地層内で崩壊が起こり砂が交じるのは、この業界では常識だ。しかしその対策が不十分だったため、国は100億円以上投じてムダな実験をしてしまった」。

 海底資源を研究するある大学教授も手厳しい。「減圧法の問題点は、ずっと前から国の審議会で指摘されてきたもの。あの試験では、やはり無理なことがわかっただけだ」。

 経産省は当初、今年中にも2回目の海洋産出試験を行う予定だった。だが生産手法の欠陥が浮き彫りになったことで「なぜ砂が入ってきてしまうのか、さらなる原因分析と技術課題克服に時間を要する」(JOGMEC石油開発技術本部の中塚善博氏)と、延期を決めた。
 
●延期を繰り返すメタハイの開発計画

 計画を設定するもうまくゆかず、先送りする──。これは幾度となくあった光景だ。

 最初に経産省がメタンハイドレートの開発計画を打ち立てたのは2001年。そのときは16年を商業化に向けたメドとしていた。それが「海洋基本計画」が始まった08年には「今後10年以内(18年まで)に商業化」となり、13年4月には「昨年時点の状況を踏まえて再検討を行った結果」(資源エネルギー庁)さらに引き延ばされ、現在は「平成30年代後半まで」、つまり向こう13年までに商業化を目指すとしている。

「残念ながらこの目標すら楽観的だろう」と、エネルギーとコストに詳しい産業技術総合研究所の大久保泰邦氏は言う。「どのくらい回収できるかわからないし、回収技術のメドも立っていない。商業的に意味のある埋蔵量としてはいまだゼロだからだ」。

 資源開発の世界では「資源量」と「埋蔵量」とを明確に区別する。資源量とは、単に物理的に存在する量を指す。埋蔵量は、資源量の中で実際にビジネスとして成立する量を指す。「日本で使用する天然ガスの100年分以上がある」という通説は、あくまで資源量の推計だ。

 12年、経産省が国の指針に基づき、プロジェクト継続の妥当性を外部有識者を招いて審議する、中間評価が行われた。この報告書には評価委員からの辛辣な言葉が並ぶ。「現時点ではまったく事業化の見通しが立っていない」「原点に立ち戻り再検討する必要もある」。経産省側が最低46円/立方メートルと、今のLNG(液化天然ガス)価格に近い生産原価の推計を公表し現実性を訴えても「このようなコスト数値を出せる段階ではない」と根拠の弱さを突っ込まれる始末。結果として経済性に対する評点は3点満点中1.29点。1点以下は「不可」なので落第寸前の「可」だった。

 資源として根本的に割に合わないという声も上がる。資源の有用性を判断する指標にEPR(エネルギー収支比)がある。EPRは採取したエネルギーと、採取に要したエネルギーとの比のこと。1を割り込めば割に合わないことになるが、資源開発工学を専門とする石井吉徳・東大名誉教授は「メタンハイドレートのEPRは1以下だ」と断言する。「穴を掘れば自噴する天然ガスのように濃縮されてはおらず、ただ海底下に薄く広く存在する。減圧・加温などで採取に要するエネルギーも大きい」。


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