超音速旅客機再び空へ、夢あきらめない富豪たち大金つぎ込む
6月17日(ブルームバーグ):英仏が共同開発した民間の超音速旅客機「コンコルド」のラストフライトから11年が経過する。世界が動くスピードはあらゆる分野で加速したが、航空業界だけが例外だ。むしろコストダウンに重点を置き、かつてないほど多くの乗客を詰め込む大型航空機を就航させてきた。
それでも超音速飛行の夢は決して消えていない。超音速ビジネスジェット機の開発に粘り強く取り組む一握りの企業が存在する。ブルームバーグ・マーケッツ誌別冊の高級ライフスタイル誌「ブルームバーグ・パースーツ」2014年夏季号が報じている。
そのような企業グループをリードしているのが、テキサス生まれの資産家ロバート・ベース氏(66)だ。過去10年に1億ドル(約102億円)余りを米ネバダ州に拠点を置くエアリオン社につぎ込んだ。投資会社オーク・ヒル・キャピタル・パートナーズの創業者であるベース氏は、ロンドンから4時間弱でニューヨークに飛べる旅客機に資産家たちが1億ドルを上回る大金を気前良く払うと期待している。
米ボーイングの元上級幹部でエアリオンの最高経営責任者(CEO)を務めるダグ・ニコルズ氏は「超高速旅客機には旺盛な需要がある。時間を短縮できる航空機は大いに歓迎されるはずだ」との見方を示す。
調査会社ローランド・ビンセント・アソシエーツの2月の調査によると、超音速ビジネスジェット機の潜在市場は向こう20年で600機余りと予想される。ニコルズ氏の話によれば、エアリオンは既に50件の発注内示書を獲得した。
太平洋横断「究極の目標は太平洋横断の航続距離を持つ航空機だ。この種の旅客機はとりわけ大きな市場がアジアに存在する」とニコルズ氏は話す。
超音速ジェット機は販売価格が高い(最上位機ボンバルディア ・グローバル6000の6000万ドルに対し、1億ドル強)だけでなく、一般の航空機よりもはるかに多くの燃料を消費するなど運航コストも高くつく。このため、資産家だからといって購入を強く望むか一部の業界関係者は懐疑的だ。
ジェット機チャーター会社ロンドン・エグゼクティブ・アビエーションのパトリック・マーゲトソン・ラシュモアCEOは「ビジネスジェット機を使う目的はプライバシーと時間の節約だが、そこではコストも考慮される。金に糸目をつけないというのは誤りだ」と指摘する。
しかし、ゼネラル・ダイナミクス傘下のガルフストリームにとって、コストは妨げではない。同社は最も高速のプライベートジェット機を昨年市場に投入。6500万ドルの「G650」はマッハ0.925と音速に近いスピードを実現し、買い注文が殺到。今日発注しても、引き渡しは早くて2017年という状況だ。
抵抗を減らすボストンに拠点を置くスパイク・エアロスペース社も超音速ジェット機を手掛ける有望企業の1つ。同社が資金調達に動いている超音速ビジネスジェット機は18年までに準備が整う可能性がある。スパイク社の「S-512」は抵抗を減らすために窓を取り除き、マッハ1.6での飛行を目指す。機内の壁は巨大スクリーンの役割を果たし、映画や空の様子のライブ映像を投影できるという。
しかし、超音速旅客機の累積需要に対応する前に業界はまずソニックブーム(衝撃波による爆音)の問題に取り組まなければならない。航空機がマッハ1(時速約1200キロメートル)よりも速いスピードで飛行すると、条件次第で連続する衝撃波が発生し、雷鳴のようなごう音がとどろく。米連邦航空局(FAA)はこのため1973年に超音速旅客機の陸上での飛行を禁止した。他国もこれに追随したため、コンコルドは飛行範囲を洋上だけに制限され、市場規模が制約を受けた。
ボーイングとロッキード・マーチンは2010年以降、FAAの規制を克服するため、米航空宇宙局(NASA)と協力し、ソニックブームを低減する方法を研究している。
音速での飛行NASAのハイスピード・プロジェクトのマネジャー、ピーター・コーエン氏は「われわれは衝撃波の小さい静かな超音速旅客機を陸上で運航できるところまで到達した」としながらも、実際に飛行するのは25年以降になると語った。
こうした状況の中で、現行の規制の範囲内で運航できる航空機の開発を推進する動きもある。例えばエアリオンのジェット機は洋上ではマッハ1.6で飛行し、陸上では音速を下回る速度に変更することが可能だ。
イングランドのオックスフォードの近くに拠点を置くリアクション・エンジンズ社のロケット科学者らは、SABREと呼ぶ軽量エンジンの重要な冷却技術の試験に成功した。このエンジンは、航空機が停止した状態からスピードをマッハ5まで加速させることが可能という。
同社の創業者で30年にわたりこのプロジェクトに力を注いできたアラン・ボンド氏(69)によれば、このような航空機が実現すれば、ブリュッセルからシドニーへの飛行時間は現在の21時間強から4時間40分に短縮され、オーバーヒートのリスクも生じない。
マッハ5の極超音速航空機の商業展開は少なくとも15年先になりそうだが、リアクション・エンジンズは最近、4年間の開発プログラムの資金として、英政府から6000万ポンド(約104億円)を確保した。総予算3億6000万ポンドの一部に充てることになるが、「少なくとも頭のおかしい人間と思われることは、これでなくなる」とボンド氏は話している。
記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Stephanie Baker stebaker@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Ted Moncreiff tmoncreiff@bloomberg.netJoel Weber
更新日時: 2014/06/17 08:00 JST