集団的自衛権の行使容認をめぐり憲法解釈を変更する議論が進む中、戦争の放棄を定めた憲法9条にノーベル平和賞を受賞させようという動きが広がっている。神奈川県座間市に住む主婦らが中心となってノルウェーのノーベル賞委員会に提出した推薦状が今年4月、正式に受理された。集まった署名は6月8日時点で8万人分を超えた。
活動の始まりは、主婦の鷹巣直美さん(37)の「9条の素晴らしさに光を当てることはできないか」との思いからだった。鷹巣さんは高校卒業後にオーストラリアに留学。アフガニスタンなどの難民と知り合う機会を持ち、戦争の悲惨さを実感したという。
その後、米軍基地のある座間市や相模原市の主婦、幼稚園教諭らが集まり、昨年8月、「『憲法9条にノーベル平和賞を』実行委員会」を設立。インターネットや街頭で署名を募り、大学教授らの推薦文と2万4887人分の署名をノーベル賞委員会に送付した。受賞対象は個人と団体に限られるため、「9条を長年にわたり保持し続けた日本国民」が受賞候補となっている。
実行委員会の共同代表の一人、保育園理事長の星野恒雄さん(80)は小学6年生のときに終戦を迎えた。「国のために死ぬのが生きがい」の軍国少年だったが、疎開先から戻ったときに見た東京の焼け野原の衝撃は大きく、親戚も兵隊として出征したまま戻ってこなかった。「命をつぶされることがどれほど残酷なことか。戦争は嫌だというのが骨身に染みた」
ノーベル平和賞の発表は10月。星野さんは「受理は第一歩。これからが本番だ」と候補になった後も署名を集め続けている。「今年が無理でも、受賞するまで何度でも推薦する。続ければ、9条改憲を進める人たちに対する圧力になる。署名の集まりは国民の平和への期待の表れだから」と力を込める。
[時事通信社]