党中央にブレーキ役がいなければ、地方から。トップダウンで解釈改憲を急ぐ安倍政権に、自民党岐阜県連が「もっと慎重に」と注文を付けた。足元からの警告である。真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。
自民王国といわれる岐阜県で突き付けられた苦言である。
安倍晋三首相が目指す憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をめぐり、県連が県内の全市町村議会の議長に要請文を送った。もっと慎重な議論を求める意見書を各議会で可決し、首相らに提出してほしい、との趣旨だ。
要請文は「集団的自衛権の行使について議論することは否定しない」とした上で、「国民生活に重大な影響を及ぼす案件であるにもかかわらず、関係者との十分な議論を経ていない」と首相の姿勢を批判。「公聴会を開催するなどの方法で、最終的には国民の理解が得られる形で結論を出すべきだ」と主張している。
党内議論を重ね、バランスを取りながら意思決定をしてきたのが自民党の伝統である。幅広い支持者の声に日々接している地方組織としては、調整よりも自分の信念を優先させる安倍首相のトップダウンへの違和感を訴えざるをえない、ということであろう。
岐阜県連は、当時の小泉純一郎首相がトップダウンで仕掛けた二〇〇五年の郵政解散・総選挙の際も、党本部と対立した。
そのあおりで、有力者が一時離党を余儀なくされたこともあったが、現在は衆院の五小選挙区を独占し、定数四六の県議会も自民議員が三十議席を占めている。
盤石な地方組織だからこそ、あえて党中央に異を唱えることができるのである。安倍政権の勢いの前に、声を上げられない地方組織は少なくなかろう。
地方政治とは無縁とみられがちな安全保障問題で異論を唱えることは、それだけの国民的議論を要するからだ。各地の知事や市長からも反対の声が上がっている。
東京都の舛添要一知事は「大きな問題は拙速主義ではいけない」と述べ、長野県の阿部守一知事は「憲法解釈が内閣が代わるたびに変われば、憲法の信頼感に影響する」と指摘した。
行使容認反対などを求めた意見書を国会に提出した市町村議会も約六十を数える。
なぜ、地方から、苦言が相次ぐのか。人々の暮らしにより近い地方から上がる声に、永田町はもっと耳を傾けるべきだ。
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