自分から離れて、変わり続けることで
自分が見えて「個性」が出てくる。
『サラリーマンNEO』が、サラリーマンを題材にした役者さんが演じるシュールコント番組になったのは、他でやってないことを重ねた結果です。当時のコントは、警察や医者など制服ものが多く、芸人さんが演じる、バラエティチックな演出でしたから。
作り方の常識も変えました。普通レギュラー番組は、持ち回りでやるんですが、すべて1人で演出しました。ホームページで感想を直接募集したことも最初です。ともかくやったことのないこと、つまり会社や自分の常識にないものに、あえて挑戦していきました。
「変わる」ということは内的なことと捉えがちで、心の中は変えたつもりでも変わらないと思います。行動を変えて、その結果を心で受け止めて初めて人は変わります。何か問題が起きたときは、なんとかしようと慌てるのではなく、新たな解決法を見つけることに努力してきました。
『サラリーマンNEO』は、放送開始とともに高い評価を受けました。ところがすぐにシーズン2で大きなショックを受けることになりました。
シーズン1が成功し雑誌などにも取り上げられ、正直調子に乗ってました。そして意気揚々とシーズン2を迎えます。初回の収録で「じゃあ、生瀬(勝久)さんはこちらに座っていただいて……」って言った瞬間に「台本が面白くない」って。周りには3、40人のスタッフがいる前で言われて、もう完全なパニックになってしまいました。その後、何を撮影したかまったく記憶にないですよ、もう。
お昼休みになって生瀬勝久さんを訪ねました。無意識に正座になってましたね。「何がいけなかったでしょうか?」って聞いたら「笑わせようとしてる。笑えない」って。ドキーッとしましたね。笑わせようとしているイコール、自分の才能を見せつけたいっていうエゴですよね。エゴで台本を作っちゃってる。仕掛けは凝ってるんだけど、感情はまったく揺さぶられない。よくありますよね。映像は凝っててかっこいいんだけど、おもしろくないもの。
シーズン2はパニックのまま過ぎました。何が悪いかわからない。だけど「あ、俺ってあんま面白くないんじゃないか」て、受け入れたくなかったけど、受け入れざるを得ない状態でした。このとき変わるために必要な、自分を離れるってことを意識し始めたと思います。
それでシーズン3から試したのは、自分がおもしろくないと思っても、他人がおもしろいと思ったものはやってみようということです。最初に企画を提案したときと同じですよね。
自分のエゴから離れて考えてみようと始めました。人に意見を聞くようになり、自分から離れると心の動きに気づくようになる。つまり直感に対して鋭敏になってくるんです。なにかいろいろなことがつながった瞬間でした。
『サラリーマンNEO』で学んだのは、ずっと自分を変え続けることで個性が出てくるというパラドックスです。自分のやり方に固執する人ほど、ありきたりで終わります。
なぜか? 自分のやり方に固執する人は、他人の目を気にしてます。エゴという自我は、他者がいないと成立しません。結局他者を意識すると、世間の常識の範囲で収まっててしまうんです。だけど変わろうとすることは、自分を知り受け入れなければ変われない。つまり変わり続ければ変わり続けるほど、自分っていう人間が見えてくる。
昔から物語のほとんどが、人が成長するストーリーです。その成長が、野球の技術を鍛えうまくなりました!では人は感動しません。野球の物語だとしても、例えば才能はあるのに緊張する男が、それを克服して一流になった!だと物語になります。差はなにかといえば、緊張する男が緊張を克服する男に変化してるということです。ただ技術が向上してもダメなんです。
日本で一番ホームラン打った王さんも日本で一番ヒットを打っているイチロー選手もインタビューで同じことを答えてました。「ぼくは毎年スイングを変えている」と。
決断するときは直感を
大切にするNEO流心構え。
転職情報サイトということで、皆さんがキャリアを作っていく際の参考になればと、僕の決断方法をお話します。
決断も直感でします。『サラリーマンNEO』が映画化の話がではじめたころ、「プロデューサー」にならないかという話をもらいました。かなり早い出世でした。給料ベースでも、会社ベースでも、見栄ベースで考えても、プロデューサーになる方が「得」です。ただプロデューサーになっちゃうと管理職なので、もうディレクターはできない。映画化の話はなくなるわけです。迷いました。だけど心に聞くと、どうしても『サラリーマンNEO』を映画にしたいと思っているわけです。なので断りました。
その2年後『サラリーマンNEO』は公開されました。本当にうれしかった。しかしウキウキのなか、ヒット祈願をしに伊勢神宮に向かう電車の中で電話が入りました。『サラリーマンNEO』の番組終了を告げる電話でした。
映画まで公開したのに……って、ちょっとプロデューサーを受けておけばと後悔の念も出てくるんですけれど、『あまちゃん』の話が来ちゃって、ほんとによかった!人生ってわからないって思います。
日頃思っていることなんですが、インターネットというものが誕生してから、あからさまに人の思考が変わったと思っています。つまり、答えを見つけるという過程を経てきた人と、答えがすぐに見つかるところで生きてきた人っていうのは、思考が違うということなんです。
社会に入るときに、僕らの世代は「何もわからない」って言って入ってるんです。今の人は「何もかもがわかってる」って入ってくる。ネットで見た評価やクチコミとかで価値を数値化してスペックとして見て、表も裏もわかったような気になってしまう。
でも実際の体験は、何倍もの情報量です。それは意識してない無意識の情報を取り込んでいるからです。そして直感は無意識から導き出された答えです。経験から導き出された答えなんです。経験から導き出されたってことは、その人の人生とイコールですから、つまりそれが「個性」ってことです。
会社に入ってもギャップに悩んで辞めてしまうのは、自分が入れる会社でもっともスペックが高いところで選んでいるからじゃないかと思うんです。損得じゃなくて、面白いと感じるかどうかで決断してみてください。きっと道が拓けます。