前編の反響は正直、予想以上だった。もう、僕がここでひとり多くを語る必要はないだろう。小出祐介インタビュー後編です。ぜひじっくり読んで、そしてBase Ball Bear『二十九歳』を味わい尽くしてください。 (前編はこちらから)
INTERVIEW & TEXT BY 三宅正一
言ったほうがいいなと思ったんだよね。“そればっかりじゃつまらないよ”って
- ――「UNDER THE STAR LIGHT」ってさ、ザ・ベボベっていう曲だし、今までだったらシングルなりアルバム・リードになったであろう曲じゃないですか。
- これはホントにそうだね。この曲はまさに今まで自分たちが歩んできた道のアップデートもちゃんとしておこうと思って作ったもので。
- ――でもこれをリードにしなかったのが『二十九歳』だし。
- ホントにそう。これを推さないことに意味があるというか。「UNDER THE STAR LIGHT」でもよかったんですけど、このアルバムの趣旨を考えたら「そんなに好きじゃなかった」をリードにすべきだと思ったし。
- ――でも、この曲はそのうえで“どうだ!”って感じもあるでしょ。さっきの話から繋がる今のバンド・シーンに対しても。
- うん、そうね(笑)。いやね、もう……“これだから!”っていうのはあるよ。あの……これは別に自惚れではないんだけど、今のギター・ロックの主流になってる、テンポが速くて4つ打ちって、あれ最初にやり始めたのは俺たちじゃね? ってちょっと思ったんですよ。もちろん、ほかにも何組かいると思うけど、間違いなくああいうアプローチをひとつの方法論としてバンドの売りにしたのは僕らだし。「ELECTRIC SUMMER」を出したときにああいう曲ってなかったから。
- ――あれは2006年リリースだよね。
- そう。アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の「君という花」とかもあったけど、あの曲はテンポも遅くて、もっとガレージ・ロック的な文脈からできてる4つ打ちだと思ったし、いわゆるダンス・ミュージック的なものではなかった。僕らはテンポをガーッと上げて、曲をダンサブルにするためにコード進行がループになってるサウンドにするというやり方で「ELECTRIC SUMMER」を作って。でも、今はそれがもう当たり前の方法論になってるし、そればっかりになったなと思って。そればっかりじゃ面白くないじゃんっていうことはOKAMOTO'Sとかも言ってるけど、それに対しては僕が言ったほうがいいなと思ったんだよね。“そればっかりじゃつまらないよ”って。始めた人のひとりに僕はいるから。そればっかりやってたら音楽関係なく騒ぎたいやつらしか集まらないよって。
- ――そればっかりだったらロック嫌いになる人も、現場に嫌気を起こす人もかなりの数いるだろうよっていう話だよね。音楽が好きならそこで洋楽に流れたらいいじゃんとも思うけど、それはまた別の議論になるから。
- うん、そうなんだよね。あと思うのは、三宅さんも、でんぱ組.incの武道館ライブに行ったじゃん? あの一体感って今のロックの現場にはなかなかないよね。
- ――もう、すげえ感動した。メンバーはもちろん、お客さんもカッコよかったし。俺、Twitterにも“お客さんも含めた集団生き様エンターテイメント”だって書いたんだけど。ただ、アイドルとロックの話を比較論で語ると、これもまた危険だなとは思うんだけど。
- そうなんだよね。その議論だけで何時間も経っちゃうから(笑)。
- ――でも、熱量に満ちたエンターテインメントの本質の大きなひとつが間違いなくあの武道館ライブにはあったなって思う。
- そうだよね。もちろん、でんぱ組.incは誘導がうまいというのもある。グループとしてストーリーを作るうまさも見事だしね。それも踏まえてあの一体感は素晴らしいよね。あとね、この前、岡村(靖幸)さんのライブにゲストで出たんだけど。
- ――オープニングで「愛はおしゃれじゃない」でコラボレーションしたときね(映像はこちらから)
- そう。まあやっぱり岡村靖幸のエンターテイナーとしての圧倒的な生き様を見て、これも今のロック・シーンにはないなと思った。オープニングは紗幕が降りていて、岡村さんがシルエットのまま歌い出すんだけど、その段階でもう割れんばかりの歓声で。
- ――マイケル(・ジャクソン)的なオープニングの熱狂ぶりっていう。
- そう、マイケル的で。今、そんな日本人って岡村さんしかいないなと思って。歌う前も、歌ってる最中も、歌い終わったあとも熱狂、熱狂、熱狂で。もちろん僕は岡村さんのようなエンターテイナーには絶対になれないから自分は自分の戦い方があると思ってるんだけど。
- ――その戦い方の提示がこの『二十九歳』だしね。
- そう。そのうえで思うんだよ。ロック・フェスが学生の宴会みたいな現場になってたら残念だなって。もちろん、僕らもイベンターさんにしてもその人たちをないがしろにすることはできない。ないがしろにしちゃいけないと思うし。でも、ちゃんとそこに対して批評がないといけないと思うんだよね。演者側も。エサを撒いてるだけじゃ絶対ダメだと思う。
- ――うん、よくわかる。あの、岡村さんとはエンターテイナーとしてのタイプは違うけど、星野 源くんのライブも音楽主義でありつつ豊かなエンターテイメント精神に満ちてるなあと思うんだよ。だからあの人の音楽がポップであればあるほど強烈なカウンターだなとも思うし。
- ああ、なるほどね。わかる気がする。
- ――この前、フェスで星野くんのライブを観たときにこの人さすがだなと思ったのは、あの変なサークルモッシュが生まれてなくて。ユーモアもエロも死生観も忍ばせた曲とパフォーマンスでお客さんをしっかり集中させて盛り上げてるんだよね。“あ、僕の音楽はそういうんじゃないんで”って勝手に彼の言外の声が聞こえたというか(笑)。
- それはすごいね。僕も源さんの音楽は全部批評だと思ってる。それがあの人の音楽の豊かさにもなってるし。
答えのないアルバム
- ――曲の話をするって言いながら大幅に横道に逸れたんだけど(笑)、「UNDER THE STAR LIGHT」。これは「PERFECT BLUE」のストーリーを回収するものですよね。合ってますか?
- うん、合ってます。「PERFECT BLUE」と1セットですね。
- ――そう考えると実はとんでもなく切ないよね。
- かなり悲しい曲です。「UNDER THE STAR LIGHT」は。
- ――ね。死が浮かび上がる。
- そうだね。だからこの2曲を青春性として捉えるのか、その向こう側を見るかっていう話なんだけど……ネタばらししちゃえば簡単なんだけど……僕はちゃんと言葉の隅々に行間を設けてますから(笑)。
- ――うん。わかりやすいところで言えば「The Cut」と「ERAい人」が呼応してるし、曲と曲のリンクを思い巡らせば枚挙に暇がないんだけど。
- うん。それがアルバム的な構造なのかなって思うから。だからこそ、このアルバムはやっぱり説明しにくいんだよね。答えのないアルバムだから。答えがないということと、ストーリーに対してエンディングがないモヤモヤ感は残ると思う。
- ――「The End」もまさにそういうことを歌ってるしね。RPGの主人公を思わせる設定で、エンディング後にこそ長い日常が待ってるっていう。
- そうそう。終わりじゃなく続いていく、そこにあなたの“普通”があるっていう。この曲はね、RPGと定年退職をかけてるんですよ。
- ――ああ、なるほど!
- 定年退職して、送別会があって“お疲れさまでした!”って花をもらって。“え、じゃあ明日から何するんだろう?”みたいな。
- ――朝起きてね。
- 起きて、新聞を読んで。ま、最初の1週間はいいかもしれない。でも、そこから“あれ? 俺まだ生きてくんだよね?”ってなるんじゃないかなって。
- ――だから定年退職後の貯蓄があっても働く人が多いんだろうね。労働から解放されて、いざ好きなことをやれる! ってなったらほとんどやることがないっていう。
- っていうよね。
- ――そこからの労働はもはや金のためじゃないし。
- 想像でしか語れないけど、目標がなくなっちゃうと思うんだよね。定年後の平均的な余生が20年だとしたら、あまりに長いじゃん。
- ――人生史上いちばん長い20年なんだろうな。
- うん、いちばん長い20年だと思うよ。その20年の答えはそれぞれのなかにあるじゃん。だから、僕もこのアルバムで答えを言いたくなかった。逆に言えば日常ってどれだけ曖昧な答えに溢れてるかってことなんですよ。今のフェスとかにも言えるかもしれないけど、なんでも誰かが先導してくれて、誰かがこういうゴールがあるから一緒に行きましょうって導いてくれることが多いから。だけど、ホントはすごく曖昧なブラック・ボックスの中にちゃんと自分なりの世界を受け止めて、捉えていく。そういう力が人生には必要だと思うんだよね。そういう提示を、ロック音楽を聴く人たちにできたらなと思ったんだよね。
- ――だから、絶対にこれはアルバム単位で聴いてほしい。
- そう! シングル曲のミックスも全然違うから! iTunesとかで単曲買いできる時代だし、リスナーの方のお財布の都合もあると思うから、それぞれに合った買い方をしてもらってもちろん構わないんだけど、音や言葉の1つひとつに意図があって、アルバム全体に意図があるから。そこはなんとなく作ってないので。できたらアルバム単位で買っていただきたいし、歌詞カードも読んでもらいたいからフィジカルで買っていただくのがいちばんだと思ってます。だってもし「光蘚」だけ買ったらアルバムの意図は全然伝わらないしね。もちろん単体でもしっかり聴いてもらえる曲なんだけど。
- ――そのあとに「魔王」もあるし。
- そう、「魔王」が控えてますから!