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ポップソングが「閉塞感」ではなく「楽しさ」を共有する時代へ

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■「今はそれほど悪くない時代みたいだし」


久々にブログ更新します。今日の話は、ここ1〜2年になって、J-POPから読み取れる“時代の空気”のようなものが変わってきたんじゃないか?という話。これはもう肌感覚の話なのでもちろん違和感ある人はいると思うんだけど、一言でいうならば、ポップソングが「閉塞感」を共有していた時代が、いつのまにか終わっていたんじゃないか?ということについて。

「不安」から「楽しさ」へ。
「苦悩」から「ハッピー」へ。

そういうマインドの転換が、2013年から2014年にかけて、起きつつあるんじゃないか、という話です。

明確な兆候は、これ。チームしゃちほこの「いいくらし」



曲調がもろにアシッドハウスだったり、大サビでTRFの「EZ DO DANCE」をぶっこんできたり、かなり語りどころの沢山ある曲。その元ネタについてはnoteのほうにも書きました。

チームしゃちほこ「いいくらし」/「いい」はエクスタシーの「E」|柴 那典|note
https://note.mu/shiba710/n/ne9b2b8e293bc

そのへんはおいといて、象徴的だと思ったのが、歌詞。

それほど悪くない 時代みたいだし
今はそこそこ あとは伸びしろ
夢も希望も自分次第



「今はそれほど悪くない時代」。こういう言葉がアイドルの歌うポップソングに出てくるの、ほんの3〜4年前にはあんまりなかったと思う。

もう一つ象徴的なのが、この曲ですね。ファレル・ウィリアムス「ハッピー」。この曲のチアフルなムード、周りを引き込むような力は、ちゃんと日本でも共感と共振を生み出した。「楽しさ」が感染した。原宿でも、福島でも。





ダイノジの大谷ノブ彦さんとも、この曲について語ってます。
いつでも14歳にしてくれるナンバーは?[2014 SPRING #1]|心のベストテン|大谷ノブ彦/柴那典|cakes(ケイクス)
https://cakes.mu/posts/5767


そこでも語ったけれど、たぶん、このムードに直接的につながる曲は、やっぱり、2013年を代表する曲の一つになったAKB48「恋するフォーチュンクッキー」だと思うのだ。

(いろんなバージョンがあるけど、メンバーとAKBスタッフのバージョンを除くとこの「サマンサタバサグループSTAFF VER」が一番再生回数多いのね)

つい先日に発表された「2014年上半期カラオケランキング」でも、この曲が1位でした。

2014年JOYSOUND上半期ランキング|JOYSOUND.com
http://joysound.com/ex/st/special/feature/ranking2014/

この曲の歌詞は、こう。

恋するフォーチュンクッキー!
未来はそんな悪くないよ
Hey! Hey! Hey!
ツキを呼ぶには笑顔を見せること

明日は明日の風が吹くと思う



「未来はそんな悪くないよ」「明日は明日の風が吹く」。2013年の後半からは、こういう歌詞の曲を日本中で歌ったり踊ったりしていたわけで、こうして見ていくと、去年あたりから「楽しさ」がJ-POPのマインドの中央値にセットされたことがわかる。

■アイドルソングと景気動向


こうして書くと、「楽しいのがポップなのは当たり前じゃん」とか言う人が出てくると思うので、比較対象を。同じくAKB48の「Beginner」。これが震災前、2010年10月にリリースされた曲。



歌詞はこう。

風はいつも通り過ぎて 後に何も残さないよ

チャレンジは馬鹿げたこと
リスク回避するように 愚かな計算して何を守るの?

僕らは生きているか?
明日も生きていたいか?



そして2009年10月にリリースされた「River」。



いつだって夢は遠くに見える
届かないくらい距離感じる

君の心にも川が流れる
つらい試練の川だ


秋元康という人は、時代の空気を読むことにかけては天才的な才能を持った作詞家だと思ってます。そういう彼が「風」という言葉を通して描くものが、「Beginner」と「恋チュン」では、まったく真逆のものになっている。

2010年のあたりは、「先行き不透明な社会」をベースに、そこでの不安や、サヴァイヴしていこうという意気込みや頑張りのようなものが、ポップソングを通して共有されるような時代だった。それが「Beginner」の「風」という言葉に表れている。でも「恋チュン」の「明日は明日の風が吹く」は、もっと楽天的だ。

閉塞感から楽しさへ。不安から楽観へ。そういう風に、市井の人たちが共感を集める回路が変わったんじゃないかと思う。

僕が思うに、ターニングポイントは、2012年の12月。簡単に言ってしまえば、「景気がよくなった」ことが、その理由だと思う。アベノミクスとかいろんなことが言われているけれど、端的にいえば、20年続いてきたデフレが解消された。そのことが、ポップソングのあり方にも大きな影響を与えている、という見立てです。

このへんのことは僕は専門家ではないのですが、経済評論家の田中秀臣さんがよく語っていることですね。

景気と女性アイドル、浮き沈みに意外な法則 :マネーHOTトピックス:マネー :日本経済新聞
http://s.nikkei.com/1gWQA0t


(※追記。こういう指摘がありました。)

確かに! 「でんでんぱっしょん」はでんぱ組.incにおいて「閉塞→楽しさ」への転換のキーになる曲な気がします。



これがリリースされたのが2013年5月。ちょうどその頃、プロデューサーのもふくちゃんと「景気が変わるとアイドルのあり方も変わる」という話をした覚えがあります。

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