(2014年6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
理屈の上では、米国の最高司令官たる大統領は世界で最も強い力を持っているが・・・〔AFPBB News〕
まともな考え方をする人で、米国の大統領になりたい人などいるのだろうか。非常に大きな期待を背負って就任したバラク・オバマ大統領のこれまでの姿を見ていると、こんな警句が頭をよぎる――何かを手に入れたいと望む時はくれぐれも注意せよ、本当に手に入れてしまうかもしれないのだから。
米国内では、先週のティーパーティー(茶会)派による青天の霹靂の一撃以降、オバマ氏が何か大きなことを成し遂げる可能性はほとんどなくなっている。
米国外では、米軍の訓練を受けたイラク政府軍の部隊が自分よりはるかに劣るアルカイダ系武装勢力に出くわすや否や、武器を捨てて逃げ出している。首都バグダッドでさえも脆弱に見える。現実に圧倒されるとはまさにこのことだろう。
状況を変える力は衰え、果てしなく責任を負わされる米国大統領
理屈の上では、米国の最高司令官たる大統領は世界で最も強い力を持っている。しかし実際は、大統領が何かを変える力は弱まりつつあり、その一方で大統領が責任を取る能力には制限が設けられていない。もう一度言おう。こんな仕事に就きたいと考えるまともな人が、果たしてこの世に存在するのだろうか?
もちろん、ヒラリー・クリントン氏をはじめ大勢いるというのが、その答えだ。恐らく、彼らは考え直すべきだろう。任期をまだ3分の1以上残しながら、オバマ氏はホワイトハウスにこもって「ペンと電話」戦略にいそしんでいる。大統領としての権威や権限を行使して変化を促そうという戦略だ。そうした変化の中には、発電所の二酸化炭素排出量を制限する最新のルールなど立派なものも含まれている。
また、共和党が先週行った下院選挙の予備選挙で同党保守派のリーダー、エリック・カンター下院院内総務がティーパーティー系の候補に敗れたことから、オバマ氏は国外追放する不法移民の数を減らすよう命じる公算が大きい。オバマ氏は、移民制度改革への支持をカンター氏などから取りつけるために国外追放の件数を自ら増やしていたが、この改革が実現する見通しはもうない。
大統領は、真に重要な問題――最低賃金の引き上げ、米国のインフラ改修、労働を中間層の割に合うものにすることなど――について大演説を続けることはできる。しかし、連邦議会はこれに反応しないだろう。「ペンと電話」は概ね、自分に力がないことを認めるだけだ。
進行中の計画には、10億ドルを投じて学校にブロードバンド回線を敷設する、製造業研究機関を6カ所設立する、これから引退する国民のために無税の退職貯蓄制度を創設するといったものがある。いずれも称賛に値するが、こうした漸進主義はVチップ(不適切なテレビ番組が画面に映らないようにする半導体)や学校の制服について語るのに忙しかったビル・クリントン大統領の2期目を彷彿させる。