携帯電話などの無線通信を司る総務省は、2014年中にも3.5GHz帯の周波数を携帯電話事業者に割り当てる計画です。6月16日、ソフトバンクモバイルは3.5GHz帯のTDD方式の通信実験を紹介する中で、世界に10台程度しかないという3.5GHz帯のみに対応したスマートフォンを披露しました。
通信速度が高速になり、モバイル機器でもブロードバンド感覚で気兼ねなく通信できるようになりました。その一方で、通信トラフィックは都心を中心に混雑が増し、携帯電話会社は通信技術を効率化するとともに、新たな周波数帯を求めています。
世界的に携帯電話に使える周波数帯が足りなくなってきています。1利用者あたりの接するコンテンツがリッチ化し、通信が混雑した状態が続いているためです。
例えるなら、かつて数人で遊べる子ども用プールだったのに、子どもの成長によってプールがぎゅうぎゅう詰めになっているようなものです。もちろん2G、3G、4Gと通信技術の世代が上がるにつれてプールも大きくなり、それをより効率的に運用できるようにもなっています。しかし、子どもはさらに成長を続けて、プールを使う利用者自体も飛躍的に増えています。
そのために総務省が用意したのが3.5GHz帯。真の4Gとも言えるLTE-Advanced用に新たに割り当てる予定で、ここに名乗りを上げているのは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・アクセスの4社となります。
ちなみに4社ともに3.5GHz帯は、TDD方式のLTE-Advancedを計画しています。TD-LTEは現在、ソフトバンクがSoftBank 4G(AXGP)の名称で展開しているほか、KDDI陣営ではUQコミュニケーションズがWiMAX 2+の名称でサービス展開しています。
3.5GHz帯は一般に、直進性が強く電波が回り込まない特性があります。また、遠くに届きにくく、建物内のも入らない点なども特徴です。こうした点はネガティブな要因とも捉えられますが、電波が回り込まないために干渉が発生しにくく、小さい範囲をカバーするためにより少ないユーザーに高速な通信が利用できるといったスポット的な利用に向いているとも言えます。
KDDIの3.5GHz帯の取り組み
なお、KDDIはこの特徴を活かし、3.5GHz帯はよりスポット的なエリアをカバーする小セル化することを想定します。ただし、小さいセルに区切れば当然、移動時に細かい制御信号の受け渡しが必要になります。接続先の基地局を次々に切り替えて接続することをハンドオーバーやハンドオフといいますが、その際、瞬間的な切断が起こります。
小さいセルでハンドオーバーすれば、大きなセルでカバーする基地局よりも何度も何度も瞬間的な切断が起こるわけですが、KDDIはこれを防ぐためにC/U分離技術の研究を行っています。
この技術はモバイル端末と基地局の間に常にやりとりする制御信号を現状の大きな範囲をカバーする基地局で担当し、実際のデータ通信自体は高速通信の小セル(今回の場合は3.5GHz帯)で行うというものです。これにより瞬間的な切断を少なくし、小セルエリアに入った場合に高速化できるとしています。
なおC/U分離技術は、今年9月に標準化組織(3GPP)での仕様化の予定。商用化まではそれから2年は必要としています。
ソフトバンクは銀座で3.5GHz帯の実験
KDDIが既存の基地局と3.5GHzとの連携を想定した実験を続ける一方で、ソフトバンクは都心部で3.5GHz帯(256QAM)単体での実証実験を行っています。
実証実験は東京・銀座周辺(500m四方)に合計9局の実験用基地局を設置し、建物に囲まれた状況での動向を調査する内容。実験では20MHz幅 x 4の80MHz幅を利用し、実験局はAXGPなどの現行基地局に併設する形で設置しています。
実験用バスの上には合計16のアンテナがあり、バス後方には仕事机のキャビネットサイズの端末(30kg超)を積載しています。こうした環境の中、1Gbps程度の通信速度が出る場所でバスを停車させて、速度計測の様子を披露しました。
ソフトバンクモバイル技術戦略室の矢吹歩氏は、3.5GHz帯の通信が現状では非常に繊細であるとし「1Gbpsが出るかは非常にシビア。たとえばバスが揺れるだけで出ない場合もある」と話しています。
要するに、ビルが建ち並び電波が反射しやすい場所では、現状ではほんの少しの周辺環境の変化が通信速度にダイレクトに反映されてしまうということです。
ソフトバンクではこうしたノウハウを蓄積し、チューニングしながら速度変化に対応する一方、CoMP技術(マルチポイント協調伝送)によって通信の安定化も研究しています。CoMPは複数の基地局から同じデータを取得し、通信の安定化する技術のこと。今回の実験では3局を利用し、500〜700Mpbs程度の通信速度を出していました。
3.5GHz帯対応スマートフォン
このほか実験では、世界に10台程度しかないという3.5GHz帯対応のスマートフォンも披露しました。(メーカー名は言えないとのことでしたが、手にした際にHuawei製とわかりました)。端末はGlobal TD-LTE Initiative(GTI)という、TDD方式の推進団体向けにメーカーが開発したもの。
実験用のスマートフォンということで、3.5GHz帯以外の周波数は使えない仕様となっています。また電波の受信を確認することを目的としているため、端末としては100Mbps 程度しか受信できません。スピードテストアプリを何度か使ってみましたが、現状では下り20〜50Mbps程度でした。数度の計測でかなり端末が熱くなったため、そのことをソフトバンクの担当者側に尋ねると「理由はわからないが、電源を入れているだけでどんどんバッテリーを消費していく」と話していました。
なお、名乗りを上げた各社の3.5GHz帯 LTE-Advancedの導入計画は2016年頃の予定です。