『転校生』『放課後』の若者ドラマに続く、『山田くんと7人の魔女』が担う意味
『山田くんと7人の魔女』公式サイトより
学園ドラマの定番ジャンルに「入れ替わりもの」という分野がある。中には父親と娘、母親と娘といったイレギュラーなパターンもあるが、基本的には、同級生の男と女の性別が入れ替わる物語のことで、男がおしとやかになり、女が元気に暴れまわることで、俳優の演技のギャップを楽しめるのが、このジャンルの面白さだ。原点に遡ると山中恒の小説『おれがあいつであいつがおれで』(角川文庫)を原作とする大林宣彦の映画『転校生』での小林聡美と尾美としのりが思い出される。
この『転校生』を、テレビドラマでリメイク(正確には、『おれがあいつであいつがおれで』を原作としたテレビドラマ)したのが、観月ありさといしだ壱成が主演した1992年の『放課後』(フジテレビ系)だ。本作は、スタッフもキャストも若手中心で固めた「ボクたちのドラマシリーズ」というフジテレビのドラマ枠で放送されており、観月ありさ、いしだ壱成、武田真治、内田有紀、松雪泰子といった俳優が、ここから羽ばたいている。
そして、かつての「ボクたちのドラマシリーズ」のような、若者向けドラマ枠の役割をいま果たしているのは、フジテレビ系の『山田くんと7人の魔女』(土曜、午後11時10分~)だ。
本作は「少年マガジン」(講談社)で連載されている吉河美希による同名漫画が原作で、チーフ演出は『放課後』と同じ星護が担当している。朱咲高校に通う山田竜(山本裕典)は不良の落ちこぼれ。ある日、学校一の才女、白石うらら(西内まりや)にぶつかって、一緒に階段を転げ落ちたことがきっかけとなり、2人の人格が入れ替わってしまう。
白石と入れ替わった山田は、白石をいじめていた同級生の女生徒に抵抗することでいじめを克服し、白石は山田の代わりに追試を受け、それぞれの欠点を補うことで心を通じ合わせる2人だが、お互いにキスをすれば元の体に戻れることを知り、キスをして元に戻る。ここまでは『転校生』や『放課後』と同じ流れだが、『山田くん~』がすごいのは、これらの展開を1話で終わらせてしまい、更に複雑な世界を描いていることだ。
実は2人の体が入れ替わったのは、白石の持つ魔女の能力「入れ替わりの能力」が原因だった。朱咲高校には白石のほかにも6人の魔女がおり、それぞれ「人の心の声が聴ける能力」「相手の心を虜にする能力」「未来を見ることができる能力」といった力を持ち、キスによりその能力が発揮されるのだった。そして、山田はなぜか「キスすることで魔女の能力をコピーすることができる能力」の持ち主で、山田と白石は、2人に近づいてきた超常現象研究部の宮村虎之介(井出卓也)、伊藤雅(トリンドル玲奈)と共に、残りの魔女を探し出すことになる。そしてその過程で、魔女の秘密を知る生徒会と対立することになる。
物語は、山田と白石が魔女と出会い、彼女らが抱えている悩みを解決し、仲間となっていく青春ドラマとなっている。魔女の能力は、本人の持つコンプレックスと関連しているのだ。
主演の山本は、バカで単純だが根がいい奴の山田を的確に演じており、所々挟まれるケンカシーンでのアクションも若々しくて気持ちがいい。西内は、CSで放送されていた『スイッチガール!!』(フジテレビ ONE/TWO/NEXT)で二面性のあるギャルを演じ、コメディエンヌとしての才能を発揮していたため、今作でのおとなしい才女という設定は似合わないと最初は思った。しかし、山田と人格が入れ替わった時のがさつに暴れまわる瞬間が見事で、このギャップを引き立てるために初期設定が必要だったのだと、すぐにわかる。大野いと、小島藤子、小林涼子といった魔女役の若手女優もそれぞれに個性を発揮し、生き生きしており、今後が楽しみである。
魔女の能力は、いわゆる暴力や死に絡むものがほとんどないため、起こるエピソードの一つひとつは他愛のないものだ。物語の舞台も、ほとんど学校を出ない。その意味で、こぢんまりとしたドラマだが、登場人物の人格が頻繁に入れ替わり、特殊能力も次々出てくるため、ドラマのスピード感が早く、テンポがいい。
また、作品の見せ場といえるキスシーンも1話の中で何回も繰り返され、場合によっては、男×男、女×女なども頻繁にあるのだが、そこに恋愛感情のようなベタベタした感情が絡まず、即物的にキスシーンが扱われることで、逆にエッチに見えるのが面白い。感情の機微がストレートに描かれるのではなく、魔女の能力やアクションによって描かれるため、俳優の持つ身体の魅力も自然と引き立てられる。
時代に合わせて、設定は複雑化しているものの、かつての『転校生』と同様、設定によって浮かび上がる若手俳優の瑞々しい肉体こそが、このドラマの最大の魅力だと言えよう。
(成馬零一)
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