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ウナギが本当に食べられなくなる日

オルタナ 6月16日(月)11時12分配信

この6月12日、国際自然保護連合(IUCN)が、ニホンウナギを絶滅の恐れがある野生生物を指定する最新版の「レッドリスト」に加えたというニュースが新聞やテレビを賑わせた。

今回の「レッドリスト入り」には法的拘束力はないものの、2016年に予定されているワシントン条約締結国会議で規制対象になれば、商業目的の国際取引や公海でのニホンウナギの水揚げが規制されたり、禁止になったりする可能性がある。

これに対してテレビ番組では「また価格が上がりそう」「庶民の口からはさらに縁遠く」などのコメントが多い。インターネット上では「クロマグロやクジラのように、海外から訳の分からない規制を押し付けられた」などとの反応もある。

今年はたまたまウナギのシラス(稚魚)が豊漁で、産地の高知県では漁獲量が過去最低だった前年の10倍を超えた。これでウナギの価格が下がることを期待する向きもある。

だが、現実はとても厳しい。大げさではなく、「ウナギが本当に食べられなくなる日」が来るかもしれない。

2013年7月にシンポジウム「うな丼の未来」を主催した東アジア鰻資源協議会の緊急提言は、このような書き出しで始まっている。

「1970年代より確実に減少を続けてきたニホンウナギ資源は、近年いよいよ危機的な状況を迎えている。特に、2009年度以降の東アジア一帯におけるシラスウナギの歴史的不漁は、ニホンウナギ資源の崩壊と種の絶滅さえ危惧させる」

今回、ニホンウナギはレッドリストで「絶滅危惧1B類」に指定された。絶滅危惧種の3区分のうち危険度で上から2番目だ。3区分とは「絶滅危惧IA類」(CR=ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)、絶滅危惧IB類(EN=近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)、絶滅危惧II類 (VU=絶滅の危険が増大している種)を指す。

ちなみにホッキョクグマは、3区分のうち絶滅危惧II類に指定されている。地球温暖化による動植物被害の象徴であるホッキョクグマよりも、ニホンウナギの方が絶滅の危惧度は高いのだ。

こうした状況は、なぜ引き起こされたのだろうか。三重大学生物資源学部の勝川俊雄准教授は、昨年の「うな丼の未来」での講演で「うなぎのファーストフード化」を挙げた。

20年ほど前までは「鰻専門店に行って楽しむハレの日の外食」だったものが、大量輸入で価格が下がり、「温めてご飯に乗せるだけの、家庭での手抜きメニューになってしまった」と指摘する。

このころからスーパーでは安く売られ始めたほか、最近では大手牛丼チェーンが参入し、低価格のうな丼メニューを提供するようになった。勝川准教授は「持続可能性を無視したお手軽消費が、資源と食文化の衰退を招いた」と手厳しい。

日本は、世界のウナギの70−80%を消費している。その7割はスーパーやコンビニ弁当、外食チェーンなどの大規模流通が占める。私たちはニホンウナギを食べ尽くし、ヨーロッパウナギのシラスを中国で養鰻し、日本に輸入することで、消費量を増やしてきた。そのヨーロッパウナギは、一足先にレッドリスト入りしている。

勝川准教授は「ウナギ資源の枯渇は、漁業者、流通業者、消費者が単独で解決できる問題ではない。皆で解決に当たらなければならない」と指摘した。

その一つは、シラス漁の自主規制だろう。好例は秋田県のハタハタ漁だ。ハタハタは秋田県民にとって年越し儀礼などの食文化と密接につながっているが、1990年ごろに漁獲量が激減したため、1992年9月から3年間、自主的な全面禁漁に踏み切った。

その結果、1991年に70トンと過去最低を記録したハタハタの漁獲量は、2008年には約3000トンにまで戻すことができたという。

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最終更新:6月16日(月)11時12分

オルタナ

 

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