アップルの開発者イベント WWDC 2014から約二週間が経ちました。ハードウェアの発表は一切なく、OS Xの新バージョン Yosemite (ヨセミテ)、iOS 8、そしてプログラミング言語 Swiftが披露された今回のWWDC。ここで両OSの機能を改めておさらいし、アップルの狙いについて考えてみます。
必修だったOS Xのフラットデザイン化
ご存知のように、iOSは6系から7系で見た目が大幅に変わりました。丁度去年のこの時期に『iOS 7 の新機能と変更を詳細解説:「iPhone発売以来の大改造」の中身は』......と、こんな記事を書いています。2007年から続いたスキューモフィックデザインのUIからフラットデザインのUIへ変更したのです。しかし、OS X Mavericksは、従来のスキューモフィック的なデザインのまま、見た目は変えず、OSのベースとなるメモリ圧縮やApp Napなど、内部を大改造しました。これにより、少ないメモリでもより多くのアプリが動くようになり、バッテリー駆動時間が延びるなど、地味ですが着実な一手を打ったのです。基礎がしっかりしてこそ、その上にある家で安心して住めると言うものでしょう。
このようにOS X Mavericksで下地を作った上で、OS X Yosemiteは一気にフラットデザイン化へとUIを替えてきました。WWDC 2014でデモを見た第一印象は「マルチウィンドウ版のiOS 7だ!」です。
WWDC 2014でのOS X Yosemiteのデモ
これからも分かるように、UIを変更した理由はiOSと揃えるためです。iOSは一足早くフラットデザイン化しているのにも関わらず、OS Xはそのままでは、あまりにもチグハグでユーザーは困惑します。古くからのOS Xユーザーには迷惑な話かも知れませんが、Appleとしては、OS XをiOSと比較した時、違和感を取り除くのが最大のミッションだったに違いありません。
OS X Yosemiteの画面を見ると、その変化は一目瞭然です。ウィンドウのクローズ/最小化/最大化ボタン、Dock及びDock上のアイコンがフラットに、パネルの一部が半透明化(レイヤー表示)、システムフォントがiOS 7と同じ「Helvetica Neue」へ、Notification CenterもiOS 7っぽく......など、OS X Mavericksと比べて多くの違い、そしてiOS 7と多くの共通点があることに気付きます。
ウィンドウのクローズ/最小化/最大化ボタン、Dock及びDock上のアイコンがフラットに。パネルの一部が半透明(レイヤー表示)へ
システムフォントがiOS 7と同じ「Helvetica Neue」 / Notification CenterもiOS 7っぽく
メールやSafariなど標準アプリや、その他細かい部分もパワーアップしていますが、これはOS Xがバージョンアップする度に何か追加していますので、特にピックアップするまでもありません。iCloudがiCloud Driveになったのも分かり易い進化です。今後DropboxやSkyDriveなどと競合することになります。またSpotlightが、デスクトップ検索だけでなく、WikipediaやMaps、News、Bing、App/iTunes Storeなど、ネット上の検索も対象となりました。
WWDC 2014開催前にOS Xがフラットデザイン化されると噂が流れていましたので、正にその通りの発表になった感じです。ところが、これに匹敵する隠し玉があったのです。
iOSとの連携で益々使い易く
対象はiOS 8になりますが、電話、SMS、Handoff、Instant Hotspot機能が追加され、双方で密接な連携が可能になりました。これらに関しては事前リークは無く、WWDC 2014で驚いた部分の一つです。まず電話ですが、近くに所有のiPhoneがあると、かかってきた電話をMacで受けたり、Macから発信することができ、ハンドフリーによる通話が可能となります。SMSはMacのキーボードと画面を使い入出力ができます。外出から戻ったらiPhoneではなく、扱い易いMacでメッセージの続きを楽しめるというわけです。
Handoffは、例えばMac上でKeynoteアプリを使ってプレゼン資料を作っている最中に、その場を離れても、iPhoneやiPadのKeynoteアプリで続きの作業が可能となります。Appleのサイトでは、iPhoneで書きかけのメールの続きをMacで行う画面キャプチャも掲載されています。先のSMSもこのHandoffの機能を使っているのでしょう。
電話 / Handoff
Instant Hotspotは、機能的にはWi-Fiによるテザリングと同じだと思われますが、設定が簡素化され、MacがWi-Fi圏外の場所に移動した時、自動的にiPhoneやiPadへ接続し、ネットへ接続可能となるようです。
これらはOSとデバイス、そしてアプリが密接な関係にないと実現が難しい機能であり、Android + Windows、iOS + Windowsといった組合わせではなかなか実現できないと思われます(もちろんAndroid + OS Xも)。可能性があるとしたらWindows Phone + Windowsでしょうか。
いずれにしても、電話、SMS、作業途中でのデバイスの切替えは、日頃必ず発生するといっても過言ではなく、一旦この環境に慣れてしまうと他のOSへはなかなか移れそうもありません。
iOS 8は再度基礎固め
逆にiOS 8は、ほとんどiOS 7と見栄えは変わりません。各アプリや操作性などは強化されているものの、マイナーチェンジの域で、特に目玉と呼べるものは当日のデモを見る限りありませんでした。またWWDC 2014前に一般ユーザーがあればいいな的にコンセプト動画を公開した「ホーム画面でアイコンをピンチズームするとWidgetに切替る」機能もありません(同種の機能が搭載されることを期待していたのですが残念)。パッと見は、iOS 7のままです。
通知バーがインタラクティブに / App Storeでは動画デモを追加できるように
ところが、iOS 8ではこれまで門外不出だったAPIを公開しました。その代表的なものがTouch IDとキーボードです。従来この2つに関しては、Appleが用意したもの以外使えませんでしたが、iOS 8では他社も使用可能となります。ただキーボードに関してはIMEまで含まれているかどうか不明なので、ATOKなどが搭載可能かは現時点では分かりません。
キーボードが開発可能に / アプリ間連携を解放 / HealthKitフレームワーク
もう一つ門外不出だった機能にアプリ間連携があげられます。これによって例えばシェア項目に独自のサービスを加えたり、カメラアプリに独自のフィルターを追加したりすることができます。
更にHealthKitとHomeKitが公開されました。これらは健康機器や家電機器用アプリとしてデベロッパが独自でコントロールしていた部分ですが、これをAppleがフレームワーク化してデータなどを一元管理するようになります。
この他にもOpenGLと比較してA7チップにより近い部分で作動するゲーム用API Metalも発表。合わせて4000ものAPIが公開され、デベロッパは嬉しい悲鳴でしょう。
以上のように、OS X Yosemiteはフラットデザイン化した上でiOSと連携可能になったことで、Macユーザーが他のOSへ流出するのを防ぐ(もしくはiOSユーザーがMacを選ぶ)役割を強化しました。米国でのSurface Pro 3の発表会で最前列の記者が全部Macだったのは衝撃的でしたが、今後魅力的なWindows PCが登場しても、しばらくこの状態は続きそうです。
逆にiOSは、世界的に見るとAndroidにかなりシェアを取られているのを巻き返すため(もしくはこれ以上落とさないため)、門外不出だったTouch IDやキーボード、アプリ間連携を解放、加えてHealthKitとHomeKitなど、生活に密接するフレームワークを搭載しました。ゲーム用API Metalも、単一ハードウェア用のAPIを用意できないAndroidにとっては脅威になる可能性があります(ゲームやミドルウェアのデベロッパがこぞって使うかどうかは別問題ですが)。
そして切り札は開発の敷居が低くなるよう、プログラミング言語 Swiftも登場。複雑で難解だったObjectve-Cから解放されます。これらによってアプリの質を高め、開発者も増えることが、よりiOSを魅力的に=iPhoneやiPadが売れるという作戦です。
その相乗効果がどうなるのかは、正式リリースされてからの楽しみにしたいところです。