中東のイラクが、またも内乱の危機に直面している。

 政権をにぎるイスラム教シーア派に対し、スンニ派の武装組織が争いを挑んでいる。

 混乱のなか、クルド人勢力も油田都市の掌握に動き始めた。

 国家の分裂を食い止めるにはどうすればいいのか。米国はじめ国際社会は早急に行動を起こさねばならない。

 武装組織は、国際テロ組織アルカイダ系の過激派である。国内第2の都市モスルを瞬く間に制圧し、さらに首都バグダッドをめざし南下している。

 マリキ首相率いるイラク政府は空爆などで反撃を始めた。

 問題の根深さをうかがわせるのは、現地から報じられる避難民の声である。

 モスルから50万人が逃げ出したが、その多くが恐れるのは、必ずしも武装組織ではなく、むしろ政府軍の反撃だという。

 スンニ派が多い都市や地域では、政府軍は「シーア派軍」としか見られていない。武装組織が地元にすんなり受け入れられた土壌もそこにある。

 それは、この8年間、政権を担っているマリキ氏が自らのシーア派優遇に走り、国民の統合に失敗したツケといえる。

 内戦に手を焼いた米軍が悟った教訓は、スンニ派の協力なしに国の安定はないことだ。

 奪われた都市を力で奪い返すだけでは、また報復の連鎖に陥りかねない。マリキ政権は、穏健なスンニ派との融和策を打ち出し、どの宗派も共生できる国家像を示さねばならない。

 一方、いまのイラクの混乱は、となりのシリアから伝染した病理ともいえる。

 3年以上にわたる内戦で、アルカイダ系組織はシリアに広い支配地域を得た。そこで武器や財力を蓄えた末に、イラクへも版図を広げようとしている。

 戦乱を放置すれば、荒廃はやがて地球規模で飛び火する。アフガニスタンで犯した過ちを国際社会は再び繰り返すのか。

 それを防ぐ最大の責任は米国にあることは言うまでもない。大義のない戦争でイラク社会と中東の秩序を一変させた混沌(こんとん)が今も尾を引いているのである。

 米軍がイラクを撤退して2年半。この間、オバマ政権は中東への関与からほとんど手を引いてきたが、このまま傍観を続けるようであれば、大国のご都合主義のそしりを免れない。

 イラクの治安回復とシリアの停戦に向け、米国は本腰を入れるべきだ。国連やアラブ諸国、イランなどとも協調し、中東情勢のこれ以上の流動化を止めなくてはならない。