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「プレゼンの天才」ジョブズ氏も嫌ったスライド頼み
林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

2014/6/15 7:00
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 久しぶりにシリコンバレーを訪れた。注目される新興のベンチャー企業を3社ほど連続で訪問して、改めて思ったことがある。

 いずれも、これまでにない新しい価値を提案し、注目を集め、既にそれなりの投資も受けてきた会社だ。つまり、何度か投資家たちを口説くことにも成功してきた企業ばかりだ。

■生の会話に近いプレゼンを重視

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

 会議室に通され、担当者が出てくるのをみて、彼らが切り込む市場の動向や会社のミッション(使命)について、在りし日のスティーブ・ジョブズの新製品発表のような、華麗なプレゼンテーションが繰り広げられることを内心、少しだけ期待していた。

 だが、2社はスライド無しで、口頭での説明だけ。もう1社は一応、概念についてだけ簡単なスライドプレゼンテーションがあったが、すぐに本題の質疑応答に切り替えた。

 実は最先端のハイテク企業こそ、こうしたミーティングでは目と目を合わせ、相手のほとばしる情熱や感動、息づかいを感じさせる生の会話に近いプレゼンテーションを重んじている。

 プレゼンテーションの天才とたたえられ、(本人が書いたわけではないが)たくさんのプレゼンテーション入門本を生み出したスティーブ・ジョブズは、確かに新製品を外に向けて大々的に発表する時には、最大限にドラマチックな講演を演出していた。だが、それとは対照的に、社内の企画会議や提携しそうな他社の説明を受ける際は、演出の利いたスライドプレゼンテーションを嫌っていたと、元部下の友人らからよく聞く。社員がスライドプレゼンテーションを始めたと同時に、怒って部屋を出ていった、という逸話もたくさんあるようだ。

 何千人を相手にする講演ではドラマチックな演出が必要だが、多くても10人くらいの少人数の会議では、それよりも、製品についてどれだけ自分の言葉で説明できるかの方が重要、ということなのだろう。

 机上の空論なのか、実際に色々な人々と話し合って深く討論したアイデアなのかの違いや、話者がその製品に対してどれだけ真剣に向かい合っているかは、スライドではなく、話す時の言葉の節々にこそ表れる。

■可もなく不可もない形式的な情報伝達

 ひるがえって日本では、ちょっとした企画の説明にも、まずは大量な紙の手元資料が配られ、スライドプレゼンテーションが始まることが多い。大抵のスライドには、やや長文の詳細説明が書かれており、説明者はそれを読み上げ、聞く人々は手元の資料に目を落として、目による対話はない。こんなやりとりなら、台本をメールにして送ってくれた方が手っ取り早い。

 スライドプレゼンテーションには、わかりにくい概念をよりわかりやすく見せたり、効果的な演出で強い印象を残したりすることはできるかもしれない。しかし、頑張ってスライドを作り込み過ぎてしまうと、台本にひっぱられてしまう。せっかく同じ場を共有している聞き手の反応を無駄にし、可もなく不可もない形式的な情報伝達にしてしまうおそれがある。

 何らかの理由で会合の場に当事者が来られなくなったのであれば、スライドプレゼンテーションにも価値がある。ただし、これは場合によっては、あらかじめ録画しておいたプレゼン動画の再生や、その動画へのリンクをメールするだけでも済むコミュニケーションだ。

 シリコンバレーのIT(情報技術)企業は、ITで何を合理化できるかをよく知っている。だからこそメリハリをつけて、実際に顔をつきあわせた生身のコミュニケーションで何を大事にすべきかをわきまえ、実践しているのだ。

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プレゼンテーションの天才と呼ばれたスティーブ・ジョブズ氏(2011年6月)=ロイター

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